透明
ある日のにんげん、「お母さんと顔を会わせて犬が連れて行ってくれた花畑が綺麗だった。」とか、「犬はにんげんを歩かせる時前に立って尻尾で行く道の石などを除けてくれるのが嬉しい。」といったようなことを話していました。
その報告に微笑みながら頷き返していたお母さんが、不意ににんげんから視線を外しました。
にんげんが「どうしたの?」と聞くと、お母さんは「透明な子が来たのよ。」といいます。
お母さんは湖の縁から身体を起こし、乳房を突き出します。
するとなんという事でしょう、お母さんの乳房の先から白い形が徐々に姿を現します。
その形はまるで空中に現れたミミズの怪物のようでしたが、そんなに長くはありません。
そして白い線がうねうねとうねり一箇所に溜まりを作るとその白い物は離れていったのです。
にんげんがあまりの光景に驚いていると、お母さんは再び湖の縁にうつぶせになり顔をにんげんと合わせながら言いました。
「あれは透明な子。見えず、聞こえず、匂わず、だからほかの兄弟から見えない可愛そうな子。」と。
そして続けて、「あの子は透明すぎるがゆえに他の兄弟と過ごそうとしても相手に気づかれないの、だから寂しいのね、誰もが見えなくなる暗い洞穴に棲んでいるようなの。」ともいいました。
にんげんはそれを聞いてなんだか寂しい気分になりました。
自分は色んな兄弟やお母さんにきちんと気づいていもらえます、だから寂しくありません。
でもこれが誰にも気づかれず、皆に無視されたらと思うと、にんげんは胸が締め付けられるような気持ちになりました。
そして、透明な兄弟をどうにかしてあげたいと思ったのですが…結局良い考えは浮かびませんでした。
染物職人でも居れば透明な兄弟の体に色をつければいいと思うでしょうが、ここにはそんな人居ません。
色をつけるという考えが無いのです。
そうしてにんげんにはどうにもなら無いで時間が過ぎるかと思われましたが、にんげんは閃きました。
花です。猫に言われて自分がつけている花。
これを透明な兄弟もつければ皆にそこに居る事が分かる、これでもう寂しくない、と思ったのです。
そしてそれをお母さんに伝えた所、お母さんはとても喜びました。
同時にこの事を絶対に透明な兄弟に伝えると言いました。
こうして透明な兄弟は皆にも見えるようになりました。
空飛ぶ花のあるところに彼は居る、という形で。




