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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第2部 校祭編
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真心あれば水心



 文化祭まで、あと13日──





「くう、なんでおれたちがプール掃除をやらなきゃいけないんだ……。めちゃくちゃ暑いし」



「まあ、やったコト省みるにしょうがねえよなあ」



 人体模型の空妖――に取り憑いた霊との駆け引きに勝った翌日、サトルたちオカルト研究部はプールの中を掃除していた。



「にしても、樫見さんは楽しそうだけど。掃除とか好き?」



「えっ、わたしは……。そこそこです」



「じゃあ、おれのぶんもよろしく……」



「こらこら。サボんなよ真島ァ!」



 こうなったのも、旧校舎の窓を割ったからだ。



 今朝、生徒会長に呼び出されたサトルはそれを否応なしに問い詰められ、正直に白状した。みっちりと怒られはしたが、授業をサボっていた3年生を助けたのが功を奏し、先生たちには黙ってもらう代わりに、プールの掃除を命じられたのだ。



「だいたい、あの3年を助けたのもおれたちなのにな!」



「ンなコト言いふらしたって誰も信じないでしょ、人体模型が心臓に閉じ込めてくるなんてさ。あたしだって当然疑うわ」



「それが我々という存在だろう?」



「禅院の背中の言うとおりかもしれないけどさあ。だからってこんな……、納得いかねえー!」



「冷てっ、ぶんぶんホースを振り回すな真島ァ!」



「――じゃあ、少しでも楽しくさせてあげましょうか。ねっ、夕七」



「この声は……」



 サトルはデッキブラシを離し、プールサイドのほうを見上げた。



「トイレ……じゃない。プールサイドの花子さん!」



「言いなおしてくれてどうもありがとう。禅院サトル」



 イヤミっぽい感謝にムッとしたが、樫見から聞くに花子さんに助けられたようなので、あまり強く出られない。むしろ、感謝をするのはこちらだ。悔しいがそれを伝えるしかない。



「あ、あのさ。あのときに助けてくれたみたいだな、オレたちを。その……、ありがとう」



「ふふっ、私に恥ずかしがって礼をするくらいなら夕七に言いなさいな。あの子が一生懸命がんばったんだから」



「えっ、いやその……、それは花子さんがいてくれたからですし、それにあの人体模型だって……」



「そっか。じゃあ樫見さんにお礼言うぞ真島ァ! せーのっ」



「「ありがとう、樫見さんッ!」」



「あ、は、そんな……」



「あたしも少しはがんばったんだけどなー?」



「そだな。明璃もあんがとさん」



「軽いわっ!」 



「いてっ、柄でド突くなや!」



「……ふふっ」



 樫見は掃除を始めるときから楽しそうだ。サトルは不思議そうに見つめると、樫見はそれに気づいた。



「あ、いえ。むしろ感謝したいのはわたしのほうで……」



「夕七ちゃんが一番怖い思いをしたでしょ? 主にサトルのおかげで」



 それを言われると弱い。優越感をありありと醸し出す明璃に対し、眉をひそめただじっと見つめ返すだけしかできない。



「でも、みんなといるのが楽しくて。わたし、家族以外でこんなに話せる人たちはできなかったから……」



「フフ、ワタシはヒトじゃないがね」



「水を差すなっての、バク」



「はい。バクさんや花子さんと、みんなと友だちになれてうれしいなって、家に帰ってからも、ずっと思うんです。だから今は――花子さん、チカラをお願いします」



「ええ。よろこんで」



「……あっ、おい、樫見さんの目の下のトコ!」



「ああ、しっかり見えてるよ」



 真島が指すのは、花子さんとの共有印だ。目の下に描かれた、涙のような雫のマーク。それは前に見たときよりも清らかに、それでいて前を見据えるまなざしは、とても堂々としていた。



「だから今だけは、せめて恩返しを」



 樫見が指を青空へ指すと、真島が持っていたホースの水が空へ登り、流れは水の球を形作り、宙に留まった。太陽を受け反射した日光は、まるでミラーボールのように光の柱を降りそそいでいる。



「なにコレすげえな! 樫見さんがやってんのかよ! エグすぎでしょ、マジですげえ!」



 デッキブラシを放り投げ驚く真島。新鮮なリアクションだ。



「もっと……すごいのを……!」



 水の球から飛び込むような音が聞こえた。



「おおっ、これは……!」



 なんども怪奇現象を視たサトルも目を疑った。その音は水に飛び込む音ではない、水から飛び出した音だ。その飛び出したモノは――



「イルカだ……!」



 水で形作られた半透明のイルカが青空を泳いでいる。こんな幻想的な光景が学校のプールで見られるとは思えず、自然とため息がでた。



「まだまだです!」



 樫見は立てた人差し指を指揮者のように振ると、様々な動物が飛び出した。



「ウサギだ、かわいい!」



「このウマ、CGじゃないの? ……冷たい。というコトは……ホンモノの水だコレー!?」



 共有した能力をここまで使いこなせるとは、信じられない。



「大したモンだな、あんなまでに能力を使いこなせるのは」



 バクも同じ感想を抱いたようだった。



「当人同士の相性、心の状態の一致。諸々がうまくかみ合わないとならないが……。なかなかどうして、ワタシも舌を巻くよ。キミとワタシの相性よりもいいかもな」



「それは……すげえな」



 樫見の顔は笑顔で満ちていた。飛び込み台に座っている花子さんもそうだ。互いを信頼しあっているのがよくわかる。



 そんな楽しそうなふたりを見て、サトルは自分のコトのようにうれしく思えた。



「……ねえ、学校祭のヤツ、純粋にこれを見せたほうが盛り上がるんじゃない? カッパと戦うよりもさ」



「たぶんな……」



 明璃の意見はもっともだが、カッパのゴンの顔を立てなければ帰らないと、ダダをこねそうだ。



 そんなコトを考えていると、懸念を察知してきたのかとしか思えないタイミングで、あのなまった言葉が聞こえてきた。



「おーい、楽しそうなコトしてんなあ! オラも仲間にいれてくんろ!」



「うわでた!」



 いったいなにをするのか注視しよう。



「クマ出しておくれ、クマを!」



 もうなにをしたいのかわかってしまった、相撲だ。ゴンは相撲とキュウリのコトしか頭にないらしい。



「クマですか? ……はい、やってみます」



 さっきよりも膨れ上がった水球から、2頭身のかわいらしいクマが現れた。体格は大きいが、覇気は感じられない。遊園地のマスコットのようだ。



「はっけよい……のこったッ!」



 ゴンは掛け声とともに、クマとぶつかった。



「あのクマさ、水なのにまるでホンモノみたいにぶつかってるぞ!?」



「ゴンも花子さんと同じで、水を操る能力を持ってるからな」



「花子さん……それってあのおかっぱの子?」



「真島も視えるようになったか、そうかそうか」



「おや? キミたち、お互いに反応が薄いな」



「だって、もう多いぜ? 視える人」



「花子さんより、禅院の背中のヤツのほうがヘンだし。いまさら花子さんを視たってビビらんよ」



「フフ、言ってくれるじゃないか」



 背後の会話に気を取られていると、ちょうど相撲の勝者が決まりそうだ。



 クマが押している。険しい顔をするゴンだが、サトルはゴンに秘策があるコトを知っている。水かきの目立つ手のひらに渦巻きを作って相手にぶつけ、その水圧で吹き飛ばす技――



「オラ、負けねえどお……。これを喰らうだ、水張みずは!」



「うお、クマが吹っ飛んだ!」



 ドヤ顔で伸ばした腕の先には――



「あっ、クマちゃんが……。ぅわっぷ!」



「ちょっ、夕七ちゃん!」



 クマはただの大量の水となって、樫見の顔面に直撃した。あわてて濡れた髪を元の状態に戻そうとしているようだ。



「……となると、あの水球は誰が支えているんだ?」



「バク、それって……」



 とっさに花子さんのほうを見た。そっぽを向いて口笛を吹いていた。



「……みんな逃げろーっ!」



 あんのじょう、巨大な水球はプールに落ち、波となって4人とゴンを飲み込んだ。すぐに水は引いたが、どうしようもなくズブ濡れになってしまった。



「もしかして、オラ、やりすぎたっぺか?」



「なーんで夕七ちゃんに水クマを吹っ飛ばすのよ……」



「いえ、もっとわたしがしっかりしていたら……」



「……いい天気だ」



「感想がそれかよ真島ァ……」



 5人は仰向けに転がり、ただじっと澄んだ青い空を見つめた。濡れた身体を太陽に預けると、静かに時間が流れた。



「……あっははは!」



 そして、一斉に笑った。なぜかおかしくておかしくて、しょうがなかった。



「とっても……楽しいです」



「学祭もさ、こんなふうに楽しもうぜ!」



「オレたちだけじゃなく、周りも楽しませるようにしなきゃな」



「あたしはクラスと関係ないけど、ここまできたら手伝わなきゃね」



「んでもって、目指せ金賞だ!」



「おー!」








 そして時は――



「夕七ちゃん、誕生日おめでとう!」



「え? え? なんでそれを?」



「須藤先生が教えてくれたんだ、七夕の日が誕生日だって。これ、みんなで選んだけど、どう?」



「わあ、すてきな髪飾り……。ありがとうございますっ!」








 瞬く間に流れ――



「やっべ、英語が補修確定だ。夏休みも学校行かなきゃ……。樫見さんは?」



「成績は問題ないですけど、出席日数が……。でも、わたしも補修を受ければ単位はもらえるみたいです」



「いっしょに進級できるようにがんばろう!」



「ちなみにおれも補修でーす☆」



「……真島もがんばろう!」








 文化祭当日、オカルト研究部部室──



「さあ、ついに来たぜ!」



 ついにこの日がやってきた。目的はひとつ、みんなで楽しむコト!



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