表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第2部 校祭編
29/133

仲間を探そう!③



 文化祭まであと20日──





「失礼します!」



 サトルは今日も樫見のもとへ足を運んだ。相変わらず保健室にはケガ人も病人もいない。みんな健康なのはいいコトだ。



「来たな、禅院。今日はなにを話してくれるんだ? 樫見も楽しみにしてるんだ」



「そうなんですか! 迷惑だったらどうしようかと」



「せ、先生」



 カーテンが引かれたベッドから、か細い声が聞こえてきた。徐々に心を開いてくれているのだろうか。



「でも、話すネタがもうなくなってきちゃって……」



「身の上話でもさあ」



「そんな面白いモンでもないですけどね、こういう体質になったのもつい最近だし」



「じゃあ、なんだ、その、いい幽霊とかはいないのか?」



「いい幽霊……」



 幽霊は未練を抱えてこの世に残り続ける危うい存在だから、いいも悪いも幽霊の心の持ちよう次第なのだが、いい幽霊と聞いてすぐにコウが思い浮かんだ。



「もちろんありますよ――」



 サトルは鮮明に残った記憶を辿って、コウとの再会を話し始めた。



「事故で死んだ友人なんですけどね、会えるとは思ってなかったからうれしくて……。ああ、それで立ち直れたので、そんな顔しないで下さい」



「……そっか。それで姿は当時のままだったのかい?」



「はい。背もアイツのほうが高かったけど、今じゃすっかり抜かしてました」



「うんうん。それでなにを?」



「霊園で日の出を見に行ったんすよ。ほら、あの『ねむりの丘』って目立つ看板があるトコに。そうしたら、満足そうに消えたんです。成仏ってヤツですかね」



 何故か身体中がボロボロだったコトと、メリーさんが一緒にいたのは言わなかった。情報量がもっと多くなるし、自分でもよくわからないからだ。



「その別れ際にね、こう言われたんです。『人生がんばれ!』って……。だからオレは今を変えたくて、文化祭でなんかやってみようと思って」



「こんな経験は誰でもできるコトじゃないぞ。その思い出、ずっと大事に持っていなよ」



「はい、先生。って、話が変わっちゃったなあ」



「じゃあ今度は樫見の番だな?」



 須藤からのパスに、カーテンの向こうからフトンの動く音がした。動揺しているのだろうか。



「言いたくないかー。じゃあ、私から言っちゃおうかなー?」



「ちょっ、そんな、無理に悪いでしょう!」



 自分から言わないのは聞かれたくないというコトだ。誰でもわかる。信頼している人から聞くのも、あんまりいい気はしない。



「あの――」



「あー! 聞こえないですよ!」



 ここは耳をふさいでやり過ごすしかない。手で耳を抑えていると、須藤は目をいつもより少し開いてなにかを言っているようだ。



「あのさ、今話そうとしたの、樫見だぞ」



「えっ? ご、ごめん!」



 まさか話してくれるとは思っていなかった。



「聞いて欲しい、です」



 独り言をつぶやくような小さな声でも、その勇気はすごく、すごく大きなモノに思えた。



「うん。……聞いてる」



「……わたしは、いじめを受けたワケでもなければ、家族仲も悪くはありません。中学のとき、リレーでビリになって独りで走っていたときの声援が忘れられなくて。がんばれって言葉、人目が怖くなってしまって……。それ以来、ずっと、こうして」



 サトルにはその気持ちが理解できた。取り残された時点で、多数という輪に入れていないのだから。気持ちの切り替えができないと、過去に取り残されたままだ。



 彼女とどこか似ていると、そう思った。



「高校に行けば変わるかと思っていました。でも、周りのほとんどが知らない人。『みんな同じコトを思ってる。だから話しかけてさえすれば、すぐに友達はできるよ』と両親は言ってくれましたが……、わたしにはできませんでした」



 途中から声が震えてきた。しかし、ここで無理しないでと言うワケにはいかないだろう。彼女はいま、勇気を振り絞っている。



「ずっと変わりたいと思っていました。でも、怖いんです。一歩踏み出す勇気も出ませんでした。けれど……、けれど、誰かといっしょなら。変わりたい思いを分かち合えるなら――」



 もぞもぞと音がしたその直後、内側からカーテンが開かれた。そこには樫見が座っていた。長く黒い前髪に覆われているが、大きな瞳は赤みを帯び顔も真っ赤にして、いまにも泣き出しそうだ。



「わたしといっしょに、変わってくれませんか?」



 深呼吸をして、しっかりとこちらを見据えて言ってくれた。シーツを握りしめながら、勇気を振り絞って。



「うん、そのためにオレは来たんだ」



 大きな勇気を受け止めて、離さないように誓おう。



「きっと、人目につくコトも緊張するコトもいっぱいあると思うけど、大丈夫。樫見さんが怖ければオレも怖いと思うから、遠慮なく言ってほしいな。全力で共感するから!」



「それは大丈夫って言ってもいいのか……?」



 須藤先生の呆れたような言い方に、ふたりは笑った。



「だけど、変わるのが怖いって、そりゃそうなんだよな」



 須藤先生がマジメなトーンで喋ってるのは珍しいような気がする。



「個人的な考えだけどさ、変化ってのはなにかを得る代わりに、なにかを失うコトだと思うんだ。なにも得ずに失うだけなのは、きっと誰でもイヤだろうしね」



 サトルのずっと抱えていた疑問が晴れ、納得がいった。変わるコトが怖いんじゃない、なにも得られないコトが怖いんだ。



「まあ安心しな、逃げたくなったらこの私がいる。ここでひと休みすればいいさ。だから樫見、やってみなよ。精いっぱい」



「はい。須藤先生、ありがとうございます」


 樫見は須藤に微笑んで、ベッドから立ち上がった。まだ不安げな面持ちだが、それでも、自分の意志で立ち上がった。



「明日、教室で授業を受けたいと思うので、その……よろしくお願いします。えっと――」



禅院ぜいんサトル。改めてよろしくね、樫見さん」



「あ……はい。樫見夕七かしみ ゆうなです。こちらこそ、改めてよろしくお願いします」



 互いに顔を合わせあいさつした。多少、目は泳いではいるけれど。



「青春だねえ。がんばれよ、ふたりとも」



「わたし、変わって……みせます。見守ってください、須藤先生」



 チャイムが鳴った。授業に遅れてしまう。



「あっ、行かなきゃ。えっと明日さ、迎えとか大丈夫?」



「えっ! いや……。は、はい。大丈夫です」



 目を背けてしまった。須藤先生に比べれば、まだまだ信頼されていないみたいだ。



「了解、じゃあ、また明日!」



 サトルは急いで保健室を飛び出していった。






 またふたりだけになった室内の静寂を破ったのは、樫見だった。



「どうしよう、須藤先生……明日のコト考えると、今になってドキドキしてきました」



「いや気が早いよ。でも、あんなふうに心をさらけ出すなんてスゴいじゃないか。きっと、禅院も心を動いたよ」



「え? なんて言いましたっけ、なにかマズいコトでも言ってないといいんですが……」



「忘れたの?」



「勢いで言ったから……」



「大丈夫だよ。今日は疲れたろうから、せめて今だけはゆっくりしてな。んでもって、明日からがんばればいいさ。自分を大切にね」



「……ありがとうございます、須藤先生」



 樫見は見飽きた白い天井を眺め、クラスに馴染んでいる自分を想像しようとしたが、具体的には思い浮かばなかった。



(けれど、あの禅院くんと話す自分なら想像できるかも。少しだけ似てると思ったからかな)



 明日は、久しぶりに教室で授業を受ける。向けられる視線も陰口もあると思うけれど、心を共有してくれる人がひとりでもいるなら、気が楽になる気がする。



 それに、つらいときにここへ帰ってこられるのもある。須藤先生がいたから勇気を出せた。



(……がんばろう!)



 樫見はいつもより温かく感じるベッドに身をあずけ、ゆっくり目をつむった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ