表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第1部 黎明編
15/133

となりのメリーさん①



「サトル。どこか行かないのか。退屈すぎる。これじゃ脳みそが腐るぞ」



「まだまだ人の文化の理解が浅いな、バク。休みの日ってのは、こうやってダラけるのが最高の贅沢なんだぜ」



 全く覇気のない口調でサトルはバクに言った。



 休日にスマホは手放せない。動画にゲーム、その他諸々。まったく恐ろしい時間泥棒だと思いながらも、充電ケーブルを挿しながら、サトルはそれを弄っていた。



「まっ、遊びに誘われたら行かないコトもないけどおー」



「たわけたコトを。誘ってくれる友達はいるのか? クラスを見渡せばもうグループは出来てるじゃないか」



「皆無にござーい」



「……キミなあ」



 サトルはわざとらしいイヤな言いかたをやめた。



「色々言いたいのはわかるけど、友達は作りたくないんだよ、極力」



「ナゼだ? 体育のとき困りそうなのに」



「……なんでそんな知識ばっかりつけるの?」



「質問してるのはワタシのほうだ」



「ああわかったよ、言うよ。怖いんだ。友達を作るなんてさ」



「こわい? まさか裏切られるのがか?」



「裏切りか。近いような、遠いような」



「うん? じゃあ、一体なにが」



「とにかく、この話はおしまい、チャンチャン。ユーチューブでも見るべ」



「まったく。全身を掻きむしりたいくらい歯がゆいな。サトルはこれでいいのか?」



「……オレにだって、よくわからない」



 突然、スマホが暗転し着信音を発した。



「うおおおビックリしたあッ!?」



 あまりにも突然だったので、サトルはうつ伏せの姿勢から跳びあがった。普段、着信など掛からないからだ。



「もしかして、マシマとかいうキミの友達か?」



「いや、違うな……」



 サトルはベッドから降りてその場に立ち尽くした。画面には知らない名前が表示されていた。



「メリーさん? なんだコレ」



 着信は『メリーさん』のものらしい。そんな連絡先を登録した覚えはないが、たしかにそう書かれている。



「ヘンなサイトとか踏んでないハズだし、ワケわからん……。ノータッチだ」



 こんなとき、取るべき処置は無視だ。サトルは学習机の上にスマホを置いた。しばらく経つと、音は止んだ。



「キミの知り合いか?」



「ンなワケないだろ。イタ電に決まってるよ。今よくある国際電話のワン切り詐欺とかじゃないのお?」



 安心したのも束の間、手に取ろうとすると再び『メリーさん』から電話がかかってきた。



「またか! ――いてっ」



 上げた膝を机の足にぶつけた。すると、その衝撃で棚に置いてあった消しゴムが落下した。机の上のスマホを目がけて。



「……まさかッ!」



 そのまさか、最悪の事態であった。落下した消しゴムは通話ボタンを押していた。



「いやいや、消しゴムにタッチパネルが反応するワケ……」



「通話状態になっているぞ」



「うせやん!?」



 なんてマヌケな偶然だろうと悲しくなった。腹をくくり、サトルは恐る恐るスマホを耳に当てた。



『……とに……?』



 ざわつく喧騒を背景に、微かに声と吐息が聞こえた。女の子のようだ。なんともメリーさんらしい。



『もしもし、あたしメリーさん。今、あなたのうしろにいるの』



 それだけ言って電話は切れた。



「はあ、やっぱりイタ電か。古い都市伝説なのに、よくやるよ」



 そう確信して振り向くと、居た。



 ツインテールの金髪碧眼、いかにもメリーさんといった小学生くらいの女の子が、視線の先に立っていた。



「……なに? なっ、なんだあああッ!?」 



 ありえないコトには慣れたつもりだった。しかし、異国情緒あふれる女の子が突然現れたから、サトルは思わず絶叫した。



「きゃああああッ!」



 女の子も絶叫した。



「いや、なんでそっちもビビるんだよおおッ!」








――ひとしきり叫んだあと、ふたりで息を切らした。サトルは学習机のイスを引き、メリーさんと名乗った女の子を座らせた。



「で、落ち着いた?」



「えーと、うん、なんとか」



 奇妙なコトに、異様なファーストコンタクトを経て、サトルは気まずさを通り越していた。対してメリーさんはそわそわしている。



「やっぱ落ち着かないよな。見知らぬ男の部屋にいきなり出てきて……」



 自分でなにを言っているのか、サトルにはわからなくなってきた。『瞬間移動』という人智を超えたチカラに、メリーさんという都市伝説上の存在が否応にも重なる。



 彼女は空妖だとサトルは判断した。



「いいよ、帰って。オレはなんもしないから。このコトは忘れるから」



「えっ、イヤじゃないよ。わくわくしてるんだよ! だってだって、初めて人と話せたんだもん!」



 そう言ってメリーさんはあこがれを目の当たりにしたように目を輝かせた。サトルには疑問が浮かんだ。



「どういうコト? メリーさんは他の人からは視えないの?」



 空妖は幽霊と違って、普通の人間からも視えるものだと思っていた。



「うん。幽霊みたいだよね、違うのにさ。でさでさ、なんでわたしを視れるの? 教えて!」



 興味津々の青い瞳にバクはどう映るのか。反応が怖いが、翻った。



「ふふっ、あえて問うならお答えしよう。このワタシ、バクのおかげさ」



「というワケで、空妖に背中を占領されたからだ。おっかなかったか?」



 またメリーさんの方を向くと口をポカンと開けていたが、その目の輝きは消えていなかった。



「――か、かわいい!」



「「なんて?」」



 サトルとバクはいっしょになって耳を疑った。バクに耳はないけれど。



「今まであんな風に電話をかけては全国をブラブラしてたけど、こんな人視たことないよ! ねえねえバクちゃん、どうしてその兄ちゃんに取り憑いたの?」



「バクちゃん? あーっと、それは……わからん」



 珍しくバクがしどろもどろになった。それがサトルには新鮮で、おかしくて笑った。



「キミ、なにがおかしい?」



「こんなバク、見たコトなかったからさ。ああ、それはオレから説明するよ――」



 サトルはメリーさんに、これまでの経緯を話した。悪霊を成仏、先祖の呪いについて聞かされ、人面犬を追いかけ、ネコの幽霊も成仏させる。



 バクが憑いてから1ヶ月も経っていなのに、濃い日々を過ごしている。



「そんなコトがあったんだ。ニンゲンも大変なんだね」



「ずっと必死だよ」



「はっきり憶えてるんだね」



「そりゃ忘れらんないさ。あんな怖い思いは」



「……うらやましいなあ。幽霊さん」



「うらやましい? 幽霊が?」



 メリーさんは頷いてからうつむいた。すると、バクが察したように声を挙げた。



「うんうん、わかるぞ。死んだらなにも残らないものな」



「どういうコトだ?」



「そのまんまさ。空妖は『なにも残せない』。子孫はもちろん残せない。それどころか、空妖が死んだら記憶も思い出も、残された人の頭から消え失せるんだ」



「なんだそれ、そんなの初耳だぞ!」



「言う機会がなかった」



「なんでわかるんだよ、そんなコトが!?」



「不思議なコトに、空妖にはソレが漠然とわかるんだ。本能と言えばいいかな。例えば、クモが生まれながらにあの形の巣を作れるような。そうだろう、メリー?」



 バクが同意を求めると、メリーさんは頷いた。



「それとな、『人の姿をした空妖』はキミのような霊感がない者には視えないんだ。ワタシやギルのような『異形の空妖』と違ってな」



「……そんなの――」



 悲しすぎる。出かけた言葉を食い止めた。そしてサトルは考えた。それは生きているといえるのか?



 人は死んだとしても、誰かがそばに居れば思い出は残せる。生きた証はイヤでも残る。



 だが、彼女のような『人形ひとがた』の空妖はどうだろうか。誰にも視えないし、死んだとしても誰の記憶にすら残らない。



 それはある意味、究極の自由かもしれないが、はたして彼女は生きているといえるのだろうか。



「何度も軽口叩くヒマがありゃ、言ってくれればよかったのに」



「殊勝だな、サトル」



「だからわたしはね、こうして思い出を作ってるんだ」



 元気を絞りだすようにメリーさんは言うと、ひざ丈のスカートのポケットから長方形の物を取り出した。スマホだ。



(令和のメリーさんはスマホを使いこなすのか……)



 これで電話をかけてきたのだろう。慣れた手つきで操作すると、サトルに画面を見せてきた。そこには美しい風景や、人だったらすぐ叶えられるささやかな願望が、こっそりと書かれてあった。



「だから、エックスとかインスタグラムを日記として使ってるんだな」



「そうそう! 兄ちゃんはやってないの?」



「SNSのたぐいを? オレはそういうのやらないなあ。連絡用だけ」



「へー、珍しいね。めんどくさいから?」



「それもあるけど、一番は思い出を作りたくねえんだ。振り向くと、どうしてもつらくなるから」



「贅沢な悩みだな。だから友達を作りたくないのか?」



 バクが訊いてきたが、サトルは無視して天気予報のアプリを開いた。



「今日の天気はよさそうだな」



「むう、またはぐらかしたな」



「うん……よしっ」



 サトルは唐突な出会いに対し、またひとつ心を決めた。



 出会いを拒みつつも、しかし出会ったからにはその縁に向き合うコト。これだけは欠かさないつもりだ。そして、これからも維持はする。



「メリーさん、クレープが食べたいって書いてたよな。……行こうぜ」



「ほへ? どういうこと?」



「人気のクレープ屋さんに行こうぜってコト。どうせなら、ちょっと遠くまで行くか」



「えっ、ホントにいいの?」



「もちろん!」



「やったあ! ホントにいいんだね!?」



「オレも食べたいって思ってたからさ。ついでだよ」



「じゃあ、出発―! ……で、どうやって?」



「もちろん電車だ! 特急!」



「やったー! これも初めてっ!」



 視えない縁に導かれ、様々な出会いを繰り返す。縁ができたなら、真摯に向き合うしかない。



 呪いでつながった縁とはいえ、きっと、それが今の使命なのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ