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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第1部 黎明編
14/133

カラスは知っている②



「さて、来てくれるかな」



 下校時刻を迎え、サトルは真っ先に校門へ向かい、複雑な心境で明璃を待っていた。気持ちは落ちつかず、掌を見てみた。ギルとの『能力の共有』を示す肉球の跡はついていない。



 休み時間中にわかったコトは、能力を共有して貰うには一定の距離が必要らしく、離れていると共有は解除されるのだ。もっともバクに対しては、そんな心配ないが。



 それをあの三羽カラスに気づかされた。中庭に飛んできた彼らは、なにかを伝えようと懸命に喚いていたが、理解は不可能だった。ギルの能力なしでは、話せるワケがなかったのだ。



「これは、そういう意味なんだよな……」



 サトルは破られた紙をポケットから取り出し考えた。そこには『dead』と印刷されてある。



 これは痺れを切らしたカラスたちが職員室に忍び込み、英和辞典から破ったモノだ。恐らく、彼らが導き出した答えなのだろう、しゃもじは『死んでいる』のだ。



 だが疑問も浮かぶ。なぜ死んでいるとわかったのだろう。遺体が転がっていたのだろうか。それとも――



 サトルは考えるのをやめた。なにより『やっぱりしゃもじは死んでいた』と伝えたくはなかった。再び、気持ちは重くなる。



「――遅かったかな」



「おおっ! 明璃。来てくれたか」



 サトルは紙切れを慌てて隠した。



「で、用事ってなに?」



「しゃもじが見つかったんだ。だから、今から逢いに――」



「ウソッ!? どうやってこの短い時間に?」



「知り合いのチカラを借りてさ」



「ふーん……ホントに?」



「ホントにホント、大マジ」



 人面犬とカラスに助けて貰った、などと言って信じる者はいないだろうから、サトルは詳しく言わなかった。



「心して聞いて欲しい。どんな言葉で煽っても構わないから……。言うぞ」



 サトルは言葉を繋げられなかった。胸が抑えつけられたように痛み、黙りこくってしまう。だが勇気をふり絞って言うしかない。



「まず言いたいコトは、しゃもじが見つかったってコト」



「ホントに!?」



「それで、もうひとつは……そう、生きているって限らないってコトだ」



「な、なにそれ……? それって死体としてって意味!?」



 サトルは黙る。それは、まだわからないから。



「ねえサトル、最近おかしいよ……。あの日のラインだってそうだったし」



「オレも言いたくはなかった。だけど、死んだとは言っていない!」



「じゃあどう捉えろっていうのッ! 最低だ……やっぱり言うんじゃ無かったッ!」



「でも逢えるんだ! ホントなんだ、信じてくれッ!」



 明璃は幻滅したような顔つきでサトルを見つめる。覚悟はしていたが、やはりつらいものだ。



 その目から離したくなるが、黙ってしまった今は、明璃の心をこうして受け止めることしか出来ない。他の下校する生徒達の注目を浴びながら、やがて――



「……わかった。案内して」



 折れたように明璃が言った。が、その語勢には強い意志が感じられた。



「つい怒っちゃってごめん。まだ信じられないけど、サトルはウソをついていない。それはわかるから」



「わ、わかるの?」



「長い付き合いでしょ?」



「……そっか。うん、ありがとう、信じてくれて。行こう。着いてきて」



 ふたりはぎこちない距離感で歩きだした。



「それでさ、どこにしゃもじはいるの? 教えてくれる?」



「ごめん、まだヒミツ」



 実のところ、サトルもその場所は知らない。その代わりに、電柱を伝って先導する三羽カラスだけが頼りだ。



「テキトーね。逢えなかったら覚悟しといてよ? あたし、すごい怒ってるんだから」



「もちろん」



 しばらく歩くと口数が減り、気まずい空気が流れていた。気を利かせたのか、はたまた煽っているのか、カラスたちがカアカア鳴いた。



「ずっとカラスが飛んでるわね。なんか不吉な感じ」



「まあまあ、そんなこと言わずに」



「ヤケに肩を持つじゃん」



「えっ、そう? いやあ、実はオレってカラス好きでさ」



 サトルは首筋を掻きながら嘯いた。



「ふうん。前にギャアギャアうるさくてキラいって言ってなかったっけ?」



「ウソ、そんなコト言ったかな――いてぇ!」



「わッ! なんで!?」



 思い出そうとしたら、突然、リーダーカラスが急降下して、サトルの頭を軽くつついて電線にすぐ足をかけた。



「ウソだぞ、オレは言ってないからな! ……たぶん」



 サトルは空を仰いで、自信なさげに怒鳴った。



「ちょっと、大丈夫?」



「ああ、へーきへーき。カラスにつつかれるなんて、ちょっぴりシャクだけどな!」



 見上げるとギロリと睨まれた。三羽同時にだ。たまらず、サトルはそっと顔を下げた。



「まるで人の言葉がわかってるみたい。ちょっぴり気の毒と思ったけど、おもろいわ」



「ひでえなあ! 労わってもいいじゃんかよ」



 カラス達が飛ぶ姿に目をこらすと、尾羽に淡く光る模様が見えた。サトルは気付いた。あれはギルの共有の模様だ。



 憎らしいコトに、本当に言葉を理解していたのだ。だとすれば近くにいるはずだが、見当たらない。



「どうしたのサトル、なにキョロキョロしてるの?」



 当然、明璃に怪しまれた。



「いや、おカネでも落ちてないかなーって」



「ホントにヘンよ? 悩みがあったら、あたしに相談してよ」



「大丈夫だってばさ。もう、この通りサイコーだよ」



「ふふっ、ダメそうね」



 気をつかってくれているのか、だけどいつものような軽口を叩ける雰囲気は、やはり心地いい。



 サトルは再びギルを見つけようとし、大雑把に周囲に目を配ると、この景色に既視感を覚えた。



「そういえば、この道って小さい頃に通ってた道よね。懐かしいなあ」



「やっぱりそうだよな」



 明璃も気づいたようだ。



「まだ6時にすらなってないのに、ここの家はいつも美味しそうなにおいがするんだよな。……このにおい、今日は焼き魚かな」



「ここの家の玄関前の花壇は、いつもよく手入れが行き届いてるのよね。ガザニアがかわいい!」



「そして、ここの柿の木の枝がはみ出した家からは――」



 サトルが言いかけると、ソレが町に響いた。



「「小太りおじさんの大くしゃみ!」」



 ふたりは見合って笑った。久しぶりに心から笑えた気がした。



 そうだ。この狭い道を進むと、なにもない空地があるのだ。ふたりとしゃもじの思い出がある大切な場所。サトルたちは当時を思い出しながら歩き、そしてカラスたちは止まって、壁の上に並んだ。



「ここにしゃもじがいるんだ」



 やはり、その空地に止まった。



「ここはずいぶんと荒れちゃったみたいね」



 サトルは頷いた。見知った空地は手入れも碌にされておらず、原生林のように草が生え放題だった。それらはたくましく、空に近づきたいのか、サトルと同じくらいの背丈のススキが風に揺れている。もっと長いのもある。



 とにかく、中には入れないな、と思った。



「で、どこにいるの?」



「待ってろよ――」



 とは言うものの、サトルはどこに居るのかは分からないが、ギルは「落ち合おう」と言っていた。ギルを待とうとしたその時、草むらがざわめいた。



「しゃもじ……?」



 その後にネコの鳴き声がした。動いたのはギルではないのかと思い、サトルは電線に止まっているカラス達を見た。カラスたちはうんうんと頷いた。



「ここにいるの? 早くおいで!」



(ヤバいぞ、しゃもじを期待して人面犬なんか見たら、マジにヤバいッ!)



 サトルの懸念など露知らず、明璃はしかるように呼び掛ける。草を掻きわける音はしなくなった。サトルはホッとした瞬間、「えっ?」とマヌケな声がでた。



 青い瞳の白いネコが草むらから現れたのだ。間違いなくしゃもじだ。



 無音で周囲の干渉を受けず、足も幽かに透けている。幽霊だ。やはりしゃもじは死んでいた。



「……明璃、信じられないかもしれないけど――」



 サトルが言おうとした瞬間、



「しゃもじ……生きてたのね!」



 サトルは驚愕した。明璃には幽霊が視えるとは思っていなかったからだ。これもあの時、悪霊に取り憑かれた影響だろうか。


 明璃はしゃもじを抱きしめようとするが、当然すり抜ける。



「え、なんで? どうして……?」



「さっき言ったとおりだよ。生きてるとは限らないって」



「じゃあ、触れられないのは」



「幽霊なんだ。しゃもじは」



「そっか、やっぱり……」



 明璃は膝から崩れ落ちた。涙もとめどなく流れている。サトルは泣いている幼馴染を慰めるコトもできず、胸だけが痛んだ。



 すると、しゃもじが明璃の地面に着いた手を舐める素振りをした。ザラザラの舌の感触はない。



「しゃもじ……」



 サトルは見覚えがあった。明璃が悲しい時には、いつも明璃の手を舐めていた。ぬくもりは感じられないだろうが、それでも、しゃもじのやさしさは変わらなかった。



「ありがとう……」



 なでようとしても触れられない。しかし、明璃は満足げに微笑んでいた。明璃の顔を見てしゃもじが鳴いたその瞬間、しゃもじを光が包んだ。



「もうお別れだ」



 悪霊だった逸森晴曄いつもりはるかが成仏したときと同じ光だ。



「そっか。しゃもじ、今までありがとう。こんな形だけど逢えて嬉しかった……じゃあね! 虹のふもとで待っててね!」



 明るい声で別れを告げると、しゃもじは光の中へ消えた。



「……ねえ、サトル。訊きたいコトはいっぱいあるけどさ、今日は深く追求するのはやめておくわ」



「オレも悪かったよ、ごめんな。言えないコトはいっぱいあっから」



「いいよ。いつも通り、約束はちゃんと守ったからさ。アンタは変わらないわね。夢に出たって――」



「ん? 夢って?」



「あっ……なんでもない!」



 途端に、明璃の顔が赤くなった。



「もう帰るね!」



 そう言って、明璃はいそいそと道を引き返した。サトルは呆けて背中を見ていると、明璃が振り返った。



「今日はありがとう! また明日!」



 明璃の声は悲しさを感じさせないくらい、ハツラツとしていた。



「ああ! またな!」



 サトルも負けないくらいの大声で返した。







「――ワシの能力はいらんかったようじゃな」



 明璃を見送ると、草むらからギルが現れた。



「しゃもじさんはあの娘のことを信頼していた。言葉を交わさずとも、あの娘に伝わったろう」



「おうともよッ!」



 上空から威勢よく三羽カラスが降りた。サトルは掌を見ると、肉球の形がくっきりとある。



「しゃもじさんはは聖母のような御人、いや御ネコだからなッ!」


「餓死寸前の俺達を救ってくれてな。飼いネコだってのに色々捕まえてくれてよ」


「そういうワケだぜ! カッカー!」



「そうだったのか。みんなありがとう。おかげで今日の作戦は大成功だ」



 幽霊の姿ではあったがしゃもじに逢えて、明璃を元気づけられた。予想外の部分もあったが、ギルもバレなかったし、背中のバクもバレなかった。そういう意味でも大成功だ。



「じゃあ報酬としてよォ、なんか奢ってもらわなきゃなァ?」



 リーダーカラスが言った。



「じゃあワシも」

「じゃあワタシも」



 黙っていたバクまで便乗してきた。



「バクはなんもしてないだろ!」



「サトル、ワタシはコンビニの唐揚げがいいな」



「おっ、いいなそれ! とっとと行こうぜ、日が暮れちまう!」



「待て待て、カラスがそれ言ったら共食いに近いだろ!?」



「ンなコトいいんだよ、カラスはいつだって悪役なんだからよッ!」


「そういうワケだぜ! カッカー!」



「いいんなら、それでいいよ……。それじゃみんな、見つからないように行くぞ!」



 達成感を胸に、サトルは夕焼けの町を歩いた。



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