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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第5部 残響編
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エピローグ ただいま

── 宮城県・仙台市







 サトルは仙台から新幹線へ乗り込み、帰路につく。自由席でも平日なコトもあってか、乗客の数はまばらだ。



 発車メロディが鳴り、ゆっくりと動き始める。隣に誰もいないのが、今ではなんだか寂しい。ポケットに入れていたウロコを見つめ、思う。



(……そういえば池鶴さん、ずっと車窓を眺めてたよな)



 もちろん、理由を聞いていた。






『――池鶴さん、いつもの席ね』



『おー。ありがと、サトルくん』



 席を譲ると、池鶴はすぐに窓の外を眺める。



『ずっと窓眺めてるけど、好きなんだ?』



『んー? ヤキモチやいてる?』



『いや、そんなんじゃないよ!』



『んふふ、冗談だよ。じゃあさ、いっしょに見よ? ……どう見える?』



 サトルは窓に顔を寄せる。当然のように、目にも止まらない速さで移動しているだけだ。



『景色がすごい速さで流れてく……』



『私はね、この景色が好きなんだ。これだけの一瞬で何十棟のマンションを過ぎて、何百台の車を追い越して、何千人の人生があるのかなって、考えるの』



『人生を?』



『灯りが点いてる家と、点いてない家。それだけで、それぞれの生活があるのがわかるでしょ』



 池鶴は流れていく景色を追わず、一点を見つめていた。まばたきひとつすれば一変する街並み。変わらないのは、空くらいなものだ。



『過ぎていった景色の人たちと交わるコトはないかもしれないけど、好きなものを共有できたら、すてきだよね』



『なるほど。例えば歌とか?』



『わかってるね〜。歌ってカタチはないけど、人と繋がれるんだよ。すごいよね。だから歌が好きなんだ』



『……きっと大好きだから、とっても上手なんだね』



『んふふ。そうかも』



 池鶴は褒められて照れくささを隠すようにランランを撫でる。そんなうれしそうな横顔が忘れられない。



『聴いたら、忘れられない歌を届けられればって思ったんだ。それが夢だったから。この旅で、叶えられた気がするよ。ありがとう、サトルくん』



『少しでも助けになれたなら、オレもうれしいよ。まだ旅は続いてるからさ、池鶴さんの他の願いが叶えられたらいいね』



『うん、そうだね――』






 流れていく街並みを見つめながら思い出す。数日間だけの旅だったのに、心の穴に風が吹く感覚を覚える。トンネルに突入すると、真っ暗だけの景色の中に、ふたりで歩いてきた旅路が映し出された。



「日常に戻れるときが来たのに、なんでこんなに寂しいのかな」



 気を紛らわせるためにスマホでネットニュースを閲覧するも、『大田原( おおだわら)駅』というタイトルが目に入るだけで、心臓が飛び跳ねるくらいに痛む。



 しかしよく見れば、全線復旧の文字があった。タップしてニュースを読むと、ケガ人こそ出ても、死者は出ていなかったようだ。



 最悪の事態は避けられて胸を撫で下ろすと、関連ニュースの欄にこんなタイトルがあった。



・無名シンガーの『残響』、SNSで話題



 読まざるを得なかった。写真には、池鶴と歌った路上アーティストの女性が笑顔で写っている。どうやら深夜帯の歌番組に出るらしい、彼女のコメントが書いてあった。読むと、サトルの胸と目頭が熱くなった。



『不思議な女の子と歌った瞬間、人生が変わりました。あの子に見つけて貰わなかったら、きっとここには立てていません。あの子への感謝の意を込めて、精いっぱい歌います』



「……大丈夫。池鶴さんの想いは、届いているよ」



 サトルはウロコをしまう。新幹線は、長いトンネルを抜けた。





          ・



          ・



          ・






── 東京都・昭鳥(あきとり)






 自宅の最寄り駅である拝鳥(おがみとり)駅に着いた頃には、既に真っ暗になっていた。街灯に照らされる見慣れた景色。旅が終わったという実感が湧く。



 自宅に近づくにつれ、歩く人はまばらになり、誰も見えなくなった。ここならいいだろうと思い、サトルはバクに声をかけた。



「フフ、人肌恋しくなったか?」



「人肌に取り憑いてるヤツがよく言うよ」



「そのぶんじゃ元気そうだな。でもまあ、肩の荷が降りた、というところじゃないか?」



「そうかもしれないけど……。これでよかったのかなって思う。オレは、池鶴さんの気持ちに寄り添えていたのかな」



「寄り添う? ワタシのようにか?」



「距離感の問題じゃなくてさ……。自分の気持ちばかり、押しつけてなかったかなって」



「背中から見聞きしていたワタシから言わせれば、役目はじゅうぶん果たせたと思うぞ。立場が違うのは仕方ないハナシだ」



「うん……。うん」



「ええい、ウジウジと。ムズ痒くなるぞ。あのときいっしょに歌った気持ちはウソじゃないだろう?」



「そりゃそうだよ。歌詞に共感したっていうのも初めてだったよ。別れるのも……寂しかった」



「なら後悔はするんじゃない。過ぎたハナシ……じゃないか。まだ生命が続いてる。その限りチヅルに会いたければ、いつでも翼を貸そう。空も海も繋がっている。また必ず会えるさ」



「うん……。そうだな、ありがとう。またねって、池鶴さんとも約束したしな」



「しかし、人と出会わなければ別れもないと言っていたキミとは大違いだ。その寂しさは成長痛だな。ワタシはうれしいぞ」



「親目線?」



「あながち間違いじゃないな。なにせ、背後(うしろ)からずっと見守っているからな。そう、どんなときも!」



「この減らず口めっ」



 サトルとバクは笑う。



 冷たく乾いた風が吹くと、細雪が降り始めた。握ろうとしても、体温ですぐに溶けてしまう。なにも残っていない手を見つめながら、ランランを思う。



「きっと風に乗って、どこかでふわふわ浮いているのかな」



 雪を見た感慨深さから一転、すぐに家に帰って温まりたくなった。周りを眺めて見れば、家々に光が灯っている。この旅を通じて、こんな当たり前の景色が特別なものに感じられた。



 楽器の鳴る家、赤ん坊が泣く家、飼い犬が鳴く家、夕食のにおいがする家。



……あの角を曲がれば、あとすこし――




「サトル、ウチからカレーのにおいがするぞ! 思わずワタシも舌鼓だ、コッソリ食べさせてくれよ」



「母さん、リクエスト聞いてくれたんだ! しかし鼻がないのになんて目ざとい」



「目ざとい? なにを言っている、ワタシは目もないぞ。もちろん、腹もな」



「はいはい」



 自宅の前に立った。玄関の扉を開ければ、旅は終わる。また日常に戻る。振り返れば遠ざかる旅路。ドアノブに手をかけると、目をつむってしずかに祈った。





――全ての人にとって、ありふれた穏やかな日常が、これからも続きますように。





 祈り終えて、サトルは扉を開いた。カレーのにおいがする我が家で、元気に言った。





「ただいま、母さん」











               第5部 完


    








ここまで読んでいただきありがとうございました。次回は未定です。



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