クエスト(4)
「あぁ~、だめだぁ。 また魔石が残ってないよ! マシロちゃん、一体どうやったの!?」
「いえですから、魔石を避けつつ良い感じで刃を通せば……。 このように、少しずつ余計な部分を取り除くことができますが」
「いやいや。 オレの剣はそのナイフよりも切れ味は良いはずなんだが、……だめだっ。 スライムを倒すことはできても、分離することができないっ!!」
「ミッシェルは攻撃が派手すぎるんだよ! せっかく僕が魔術で拘束してるのに。 ほら、僕がやるからその剣貸して!」
「あぁもう、わかったよ! 一回だけだぞ」
「よし、スライムを拘束完了! マシロちゃん、このスライムの核はどのあたり?」
「はい。 えっと、少し右寄りの真ん中付近です。 高さは若干高めかと」
「それじゃあ、左下からそぎ落としていくね・・・、そーっと、そーーっと……」
「あ、魔石の反応が消えました。 ですからだめですよ。 その角度だとダメージ判定になっちゃいます」
「「「角度!?」」」
マシロがスライムから魔石を回収して以来、ウィスタリア、ミッシェル、スミスの三人もマシロから魔石の位置だけ教えてもらって挑戦しているが、未だに一度も成功していない。
その間にもマシロはラビと協力して、一体ずつ丁寧にスライムを解体し、ちょうど4つめの魔石を回収し終えていた。
「皆さん……。 盛り上がっているところ悪いのですが、日も暮れてきます……。
目標の討伐数は達成しておりますので、そろそろ……」
「はぁい。 わかりました、ラビちゃん先生! ほら、ミッシェル、スミス! 帰る準備して!」
「まってくれウィス隊長! 次で最後、次で最後だから!」
「そうです。 あと少しで感覚がつかめそうなんです! だから僕もあと一体だけ……」
「まったく、しょうがないなぁ。 ラビちゃん先生、二人がこう言ってるんで、あと少しだけ大丈夫ですか?」
「……最近は強力な魔獣の報告もありませんし……。 それにこのあたりは街からあまり離れてもいません……。 完全に日が暮れていなければ大丈夫とは思う……のですが」
基本的に、魔獣などは夜間に活発になるものが多いので、特に低級の冒険者にとっては、明るいうちに活動して、暗くなる前に帰るというのが基本になる。
普段のラビであれば、有無を言わさずに帰宅させていたであろうが、ウィスタリア、ミッシェル、スミスの三人の調子がいつもよりよいと感じていることと、スライムから魔石を回収するという初めての経験をしていて、どこか気が舞い上がって油断していたのかもしれない。
最終的には「仕方ない……ですね」と、特例を認めてしまった。
そして、不測の事態というのは、得てしてこういうタイミングで起こるものなのかもしれない。
「あの、ラビさん。 向こうから何か変なものが近づいてきているように見えるんですけど……」
始めに気がついたのは、視力全振りで、スライム狩りにも飽きてたまたまあたりを見渡していたマシロだった。
「……!? あれは、魔獣!? ……それもかなり強力な!?」
「ラビちゃん先生! あれってまさか、龍種ですか?」
次に気がついたのは、索敵能力に秀でたラビとスミスだった。
そして数秒後、気づいたときにはその魔獣は目で見える範囲にまで近づいてきていた。
「ギャオオウゥゥゥ」
その魔獣は、全身をは虫類のような鱗に包み、巨大な羽で羽ばたきながらマシロ達にむかって一直線に飛翔していた。
全長は人間の身長より少し小さいぐらい。 ただしその足には巨大な爪が、口元からは鋭い牙が覗かせている。
少なくともスライムと比べて段違いに危険な生物であることは間違いない。
「皆さん……、あれはAランク指定魔獣のリトル・ワイバーンです! 逃げる獲物を追う習性があるので、決して背を向けないで……ください!!」