クエスト(7)
解体用のナイフを鞘に納めたマシロは、驚愕の表情を浮かべる四人にむかって手を振りながらリトル・ワイバーンの背中から飛び降りた。
リトル・ワイバーンの背中の高さは、倒れた状態でも数メートルはあったのだが、転生システムによって最低限の運動能力を獲得していたマシロにとっては飛び降りることができない高さではなかった。
「マシロさん……、い、いまのは……!?」
「え? いまのって、飛び降りのことですか? たしかに危なかったかもしれませんが、あれぐらいなら誰にでもできるんじゃないですか?」
「そうじゃねぇ。 俺らが聞きたいのは、どうやってワイバーンを殺したのかって話だ!」
「ミッシェル、落ち着いて。 マシロさんが怖がるじゃないか。 ……それで、マシロさん。 いったいどうやってリトル・ワイバーンを倒したのか、教えてもらっても、いいかな」
「どうやって……と、言われても……」
その時マシロは、ラビに言われた通りにウィスタリアたちがリトル・ワイバーンに立ち向かっている様子を少し下がった位置から、ただ見ていただけだった。
音を超える速さで急降下するリトル・ワイバーンも、スミスの魔法陣によってリトル・ワイバーンが拘束される様子も、ウィスタリアの渾身の魔術がさく裂し、ミッシェルの一撃がリトル・ワイバーンをひるませるところまで、完全に見えていた。
それと同時に、その先の光景も見えていた。
マシロの両目は、ウィスタリア、ミッシェル、スミスの三人の実力に加えて、リトル・ワイバーンの特性や力量まで正確に見通していた。 ミッシェルの一撃が頭部に直撃したとしてもひるむのは一瞬で、その直後に怒りによって周囲への警戒がおろそかになるであろうことまで、読み切っていた。
マシロ自身はその結果を「ラビさんあたりが計算して作り出した状況だろう」と勘違いしていたのだが、その結果マシロは「だったら、私には私の役割がある」という結論に至り……。
「リトル・ワイバーンが隙を見せたので、あとは缶蹴りと同じ要領で……この世界にも缶蹴りってあるんですかね……?」
「「「?????」」」
少しずれた回答をすることになり、三人組を余計に深い混乱の谷底に突き落としていた。
唯一マシロのステータスを知っているラビだけは「(これが、視力×10ですか……)」と別の意味で驚愕していたのだが。
「みなさん。 一応魔石は傷つけないように心臓だけ貫いたんですが、これ、持って帰って売れたら山分けにしましょう!」
「・・・え?」「本当に?」「それでいいの?」
マシロからしたらこの成果は完全に3人のサポートありきのものだと思っていたのだが、当然三人組はそうは考えていなかった。
三人からしたら、油断して殺されそうになったところをラビに助けられそうになったかと思ったら棚から牡丹餅が降ってきたような感覚だったので仕方がないと言えなくもないが……。
ただし彼らは腐っても冒険者。
日々の生活費にも困っている状態に、背に腹は代えられない。
「「「そういうことならありがたく……」」」
マシロたちはリトル・ワイバーンから魔石や牙などの希少部位だけ回収し、残りはギルドに回収依頼を出しておくことにした。
ギルドに依頼を出すと手数料がかかってしまうのだが、数トンはあるであろうリトル・ワイバーンの素材すべてを持ち帰るには専用の荷馬車などが必要になり、いずれにせよマシロたちだけでは持ち帰ることもできないのだから、仕方のないことではあるのだが。