転生システム(1)
「初めまして、私は転生者サポート担当の、ラビと……申します。
……お客様の目の前には、画面のような物が浮かんでいると……思われます。
まずは、そちらの画面を……ご覧ください」
暗闇の中に、一人の少女が佇んでいた。
少女のほかにはだれもおらず、少女に向かって声だけが響いているようだった。
少女の目の前には、ぼんやりと発行する青白い画面が支えもなく浮かんでいる。
この半透明の板状の物質が、『声の主』が言う『画面』のことなのだろう。
画面上には大きく『転生システム』と書かれており、その下には『開始』と書かれたボタンがあった。
少女は画面を見て、目の前にはいない女声に対して口を開く。
「えっと、ラビさんでしたっけ。『転生』ということは私はやはり、前世で死んだということでしょうか」
少女の問いに、『声の主』は少し迷ったように間をおいてから答えた。
「申し訳ありません……私共は、お客様の前世のことまでは分からないのです……。
ですが、他の転生者の方々から聞く話ですと、みなさんがもつ前世での最後の記憶は事故や事件に巻きこまれた類のものが多いようです。
あなたはなんらかの理由で前世を離れ……、そして私たちのこの世界にたどり着いたのでしょう。
『転生システム』は、この世界にいらっしゃるお客様がこちらの世界で不自由なく過ごせるようにサポートするシステムです。
……それでは、システムの説明を始めても、……よろしいですか?」
少女がアナウンスに対してコクリと頷くと、アナウンスもそれに応じて話を進め始めた。
少女の側から『声の主』は見えないが、向こうからこちらの様子は確認できるようだ。
「それではお客様。まずは画面に表示されている『開始』と書かれたボタンをタッチしてください」
「はい」
少女は、言われるがままに画面に表示されるボタンに触れる。
一瞬だけ「しばらくお待ちください」と表示された後、画面が明るく発光すると同時に表示内容にも変化があった。
<<転生システム>>
<<①転生にあたって、以下の優待システムを選択できます。>>
・獲得(物、スキルなどを次の世界で獲得できます)
・持ち越し(物、スキルなどを次の世界に持ち越しできます)
・覚醒(物、スキルなどを覚醒させることができます)
<<残り回数:10>>
「それではまず、この画面の説明を……させてもらいます。
この画面では『転生特典』を設定できます。『転生特典』とは……、例えばお客様が思い付く範囲内で、装備やスキルを獲得することも……できます。
他には例えば、お客様の前世での持ち物などを転生後の世界に持ち込むことも可能です。
お客様が持ち込んだものやスキルに限り、一つにつき一度だけ『覚醒』させることも、可能です。
覚醒させると、能力が強化されたり新たな能力を獲得したりも……します」
怒涛の説明を続ける『声の主』に対して、少女は少し考えた後、ゆっくりと手を挙げた
「あ、あの。質問してもいいですか?」
「はい、どうぞ……」
「えっと、『獲得』で得られるものに限度はないんですか? 例えば、極端な話『世界を滅ぼす力』でも手に入れることができるのですか?」
少女は例として出しただけで、彼女が『世界の破滅』を望んでいるというわけではない。そんなことは『声の主』にもわかっていたのだが、画面には『世界を滅ぼす力』という項目がグレーアウトして表示されていた。
『声の主』はそれを見て、慌てた様子で、試しに押してみようとする少女に制止をかける。
「ちょちょちょ……そ、そうですね。説明が足りませんでした……。『獲得』として持ち込める限度は、この『残り回数』に関わってきます。
大抵の物や能力であれば『1回分』の消費で間に合うのですが、例えばお客さんの出身の……『チキュー』を滅ぼす力を得ようとしたら……およそ、50枠が必要になりますので、10枠しかないお客様では……」
「つまり、無理ってことですね。まあ別に、本当に『世界を滅ぼす力』が欲しいわけではないのでいいですが。
……ですが、そういうことなら私が欲しいのは『視力』です」
少女が「『視力』が欲しい」と望むと、画面上にはさらに『視力』という項目が追加された。
それを見て『声の主』は少し驚いたような声をした。
「視力ですか……お客様、少し変わってますね。それにしても……なぜ視力?」
「私は、前世では目が悪かったので。よく周りからも『やい、眼鏡女』などとからかわれていました。だから、もし生まれ変われたら眼鏡がいらない人になるって、ずっと決めていたんです」
「なるほど……お客様にはお客様の事情があるわけですね。
それでは1枠は『視力』を設定するとして、残り9枠は何に設定しますか? お客様の世界からの転生者ですと『伝説の剣』や、あとは『銃火器』や『兵器』を選ぶ人も多いようですが……」
「銃に、剣に、兵器ですか。物騒ですね」
少女は、『声の主』の話を聞きながら、画面に表示された『視力』の文字に触れる。
すると、その隣に『1』という数値が表示された。
「あの、ラビさん。 この『1』という数字はどういう意味なんでしょう」
「はい……。 先ほど申し上げましたように、『転生特典』は『得点制』になっておりますので、より多くの点を投入すれば、それだけスキルは強化されます……。
ですが視力などの『身体強化系』であれば、一般的には『1ポイントで十分』と言われています……」
「でも、私は前世では眼鏡をかけないと数メートル先も見えないほど視力が悪かったんです。
もしかしたら、1〜2点では足りない可能性もあると、思いませんか?」
「いえ、お客様の前世がどうだったかは知りませんが、転生したら一般的なステータスに……」
少女は『声の主』が制止するのも聞かず、与えられた『10ポイント』全てを『視力』に投入し、そのまま『次へ』のボタンを押した。