91話 準備は大切!
岡山みどりがソワソワと自宅で待っていると玄関のチャイムが鳴った。
速攻ドアを開けると岩手 紫がニコニコと立っている。
「遅くなってごめん。お土産買ってたらつい時間がすぎちゃった」
「さ、早く入って!」
嬉しそうなみどりが紫の手を引いて中へと連れ込む。
リビングで紫が上着を脱いでいる間、みどりは飲み物を用意した。
ローテーブルの前で並んで座る2人。
お土産を開きながら紫が説明しだした。
「2つ先の駅にケーキ屋さんがオープンしたって聞いたから買ってきたの。広い駐車場もあって明るい綺麗な外観でね、店内も素敵な感じだった。それに喫茶コーナーがあるみたいでお茶もできるし、今度、みどりも一緒に行こうね」
「ふふ、そうね」
フルーツたっぷりのケーキを皿に移している紫にみどりが微笑んで同意する。
付き合う事になってから、互いの住む部屋へ行き来している事が多くなっていた。デートするといっても、その辺を一緒に散歩するとか、電車に乗ってイ○ンやターミナル駅を降りて街ブラするのが基本だ。
いつしか出かけないときはどちかの自宅で過ごすことが普通になり、翌日まで一緒ということも多々あった。
おしゃべりしてスイーツを楽しんだ2人。一息つくと紫が明るく言ってきた。
「じゃあ、ベッド行く?」
「ま、まって紫! 今日は大阪で行く店とかを決めるんでしょ? ほら! こんなに準備したのに!」
慌てたみどりが、フセンだらけのガイドブックを取り出して見せる。
すると紫が自分のバッグからガイドブックを取り出した。こちらもあちこちのページからフセンが飛び出ている。
「私もがんばっちゃった。あとは決めるだけだし、少し休憩しようよ?」
「今決めるの! 私があなたに甘いの知ってるでしょ!?」
「知ってるし。ねぇ、ちょっとだけ…」
隣に座るみどりに身体を預けてしなだれてくる紫。
鼻につく紫の匂いにムラムラしてくるみどり。このまま押し倒しそうなのをなんとか理性で止める。
みどりはギュッと紫を抱きしめて耳元に囁く。
「だってベッドに行ったら最後、夜になっちゃうでしょ? そしたら旅行の計画が決まらないでしょ?」
「夜でいいでしょ。時間はたっぷりあるんだから。ふふふ」
逆にみどりを押し倒した紫が誘うように笑う。
──ああ、これは無理だわ。いつもそう、紫には弱すぎる。みどりは早めに旅行の計画を終わらすことを諦めた。
結局2人はベッドへ移動した。
とろけるような汗をかいた2人はシャワーを浴びて再びローテーブルの前に座る。
外では太陽が山陰へと沈みつつ赤い光を投げかけていた。
両手でティーカップを持ったみどりが、少し責めるような目で紫を見ている。
「まだ日が出てるね。夜になる前でよかった」
笑う紫。すねているみどりの頬にキスをするとガイドブックを取り出し、テーブルの上に並べる。
「さ! 決めようよ? ね? 夕食は私が作るから」
「……好き」
機嫌が直ったのかみどりが紫の二の腕に頭をつけてきた。
それから2人はあれこれと楽しく行き先を決めていった。大阪には1泊2日の滞在だからどうしても訪れたい所だけを数カ所に絞っていった。
「泊まるところってどこなの?」
ふいに紫がみどりに聞く。残念そうな顔をしたみどりが答える。
「別の部屋に泊まるって釘をさしてたけど、葵さんたちがまとめて旅館の大部屋に決めてしまったのよ」
「そうなんだ。建前上は引率で行くからしょうがないよね。他に行きたいところはある?」
するとみどりが顔を伏せる。恥ずかしそうにしている彼女に紫は頭を傾けた。
「あるのね? それはどこ?」
「……ラブホ」
えっ? と、聞き違いかと紫は再び聞いた。
「何って?」
「ラブホテル」
意を決したみどりが頬を染めた顔を上げて言ってくる。
どうやら以前から気になって興味津々なようで、紫は何を言い出すんだと見つめていた。
「そ、その。今まで1回も入ったことないし、都会のラブホってどんなものか興味あって…」
「あれでしょ? 丸いベッドが回転したり、部屋が鏡張りなんでしょ?」
もちろん紫も行ったことがないからテレビなどのネタ話を鵜呑みにしていた。
「そういうのじゃなくて、いろいろあるみたいだけど…。やっぱりやめとく!」
「いーじゃない! 行きましょうよ! 休憩で入れば安いし、一息つけるから!」
意外とノリノリの紫が賛成してくる。逆に言い出しっぺのみどりは尻込み始めた。
よく考えたら興味本位で言っただけだし、鏡張りの部屋だとしたら思いっきり自分の身体が見えるではないか。あまり容姿に自信のないみどりは恥ずかしくなってきたのだった。
「だ、だって、紫は綺麗でグラマーな身体だけど、私はブヨブヨだし」
「そんなことないよ。モチモチで気持ちいいし、そんなに太ってないよ?」
「そ、そうかな?」
「そうよ! 私はあなたの全部が好きなんだからいいでしょ。抱き心地がいいし、包まれている感があるし」
再びすねだしたみどりを紫が抱きしめてなだめる。
「それに泊まりはみんなと旅館なんでしょ? だったら2人で楽しめる時間があってもいいじゃない?」
「……そうね」
紫の胸に頭をうずめてみどりは同意した。
──結局、大阪観光はラブホも入れて計画していた。
どちらにせよ地底探検部の部員たちは梅田地下街をうろつくだけになりそうだし、大阪といっても狭い範囲内で収まりそうだ。
みどりと紫の2人は、そんな部員たちを尻目にデートにいそしむことを決めていた。
台所で鼻歌しながら料理をする楽しそうな紫の後ろ姿を見ながら、とことん弱いなぁとみどりは微笑んでいた。




