72話 クリスマス!
学校も冬休みになり、降り積もった雪色に染まる深原市。
葵 月夜の自宅では、今まさにクリスマスパーティーが開かれようとしていた。
広い和室に大きなローテーブルを置いて皆が集まっている。
台所からオードブルを持った倉井 最中が葵の母に聞く。
「お母さん、これはどちらに?」
「そっちにお願い。ありがと、最中ちゃん」
葵の母の指示通りに大きなテーブルにオードブル皿を並べる倉井。
それを見ていた夏野 空は、最中ちゃんはいつの間に月夜部長の家族に溶け込んでたの? と疑問に思った。
一緒に来ていた春木 桜はワクワクとよだれが出そうな様子で、運ばれてくる料理を見つめている。
皿を用意していた月夜が冬草 雪の隣で機嫌よさそうに座る秋風 紅葉に注意を向ける。
「ところで紅葉は呼んでたっけ?」
「いや、ごめん! あたいが誘ったんだ」
「いいじゃないの! せっかくケーキ、持ってきたんだし!」
謝る冬草に目くじら立てる秋風を見て月夜は笑う。
「人数が多い方が楽しいからかまわないが、せっかく可愛い妹と愛の共同作業で作ったケーキと合わせて2つになってしまったな」
「その言い方やめてよお姉ちゃん!」
同じく用意していた妹の葵 海がツッコミを入れる。妹好きなお姉ちゃんは眉を下げてガガーンと傷ついていた。
「2つ食べりゃいいだろ…」
ブツクサと冬草が言い、月夜のはいいから私のだけ食べてと秋風が囁く。
こうして目の前にいると不思議な組み合わせだなと夏野は冬草たちを見て思っていた。
こうしてパーティーが始まった。
暖かい室内では2つのケーキをより分け、用意したオードブルをつつきながらワイワイと楽しんでいる。
冬草が食べている横で、その口元をうっとりと観察している秋風に、なんだこれ? と、はたから見ていた月夜は眉を寄せた。
葵月夜の隣に座る妹の海は倉井とキャッキャしながら楽しそうにケーキをつまんでいる。
むう、これは入れない……月夜は妹と親交をより深めたかったが断念した。
「月夜部長! これとっても美味しいですよ!」
これまた隣に座る夏野が頬を膨らませてモグモグしながら言ってくる。
「それはよかった。しかし、美味しそうに食べるね、空君は」
「エヘヘ」
月夜の褒め言葉に目を細めて喜ぶ夏野。思わず頭をナデナデする月夜に夏野は照れている。その横では春木がケーキやオードブルをせっせと口に運んでいた。
それから皆でワイワイと賑やかに過ごす中、月夜が立ち上がるとリビングを出て少しした後に紙袋を持って戻って来た。
「皆にわたしからちょっとしたプレゼントを贈るよ! さ! どうぞ!」
月夜は紙袋からスティックタイプのリップクリームを取り出し、ひとり一人に手渡す。
受け取った秋風は薬用のオシャレリップに気がつき驚愕している。
妹の海が疑わしげに聞いてきた。
「お姉ちゃんどうしたのコレ?」
「うむ。雑誌のプレゼントに応募したら当たったんだよ。たくさん来たのはいいんだけど、あまり好きじゃ無いのばっかりで。この機会に処分…」
言いかけてハタと口を閉じる月夜。……しまった余計な事を言い過ぎた。月夜は冷や汗をかいて皆を見渡す。
全員が無言で月夜に注目していた。いや、秋風だけは驚愕したまま固まったままだ。
「も、もうー! 月夜部長ってば冗談ばっかり! ありがたくいただきますねっ!」
「そうなんだよ~。さすが空君だね~! ハハハハハハ…」
焦った夏野がフォローして月夜が乗っかる。月夜の乾いた笑いが辺りに響き渡った。
間違いなく冗談ではないなと全員が思っていたが、ツッコミを我慢した。1人、母を除いて。母は月夜に明日詳しく聞くからねと目が語っていた。
そんなこともありつつ、楽しいパーティーが終わると冬草と秋風、春木は帰ることになった。
葵月夜は泊まる予定の夏野と倉井に片付けの手伝いを頼み、冬草たちを途中まで送るために外に出ていた。
「それではここまでだな。帰りは気をつけて!」
「ああ。ありがと。月夜こそ気をつけろよ! なんでも出るらしいから」
月夜が言うと冬草が意味ありげに返した。ドキリとした月夜が恐る恐る聞く。
「な、なにが出るんだ?」
「雪女だよ、雪女! ヒヒヒ…」
わざとらしい笑みを浮かべた冬草に月夜はゾッとした。冬草の長い黒髪に白いマスク、黒いダッフルコート姿がお化けに見える。
急に別れを告げた月夜は雪道を必死にダッシュで帰って行く。その背中を見ながら、怖くなったんだろうなと冬草は笑って思った。
すると春木も早く帰るからと冬草と秋風に告げて走り出した。
相変わらず騒がしい奴らだなぁと冬草は独りごちた。
それまで口を開かず不機嫌そうな秋風に不思議に思った冬草。
「さっきから様子が変だけど、大丈夫か?」
ギロリと冬草を睨むと秋風がポケットからプレゼントでもらったリップを取り出し、ずいっと目の前に掲げる。
「これよ、これ! 本当に悔しかった! 雪の魅力的な唇に目を奪われてばっかりでケアのことなんて気がつかなかったの! 冬の乾燥から素敵な唇を守らなきゃいけなかったのにっ!」
「えぇ……」
思いの丈を叫ぶ秋風に、そっちかよと冬草はドン引きした。
「でも安心して。今日からちゃんと見守るから。そのまま動かないで」
「紅葉?」
秋風が冬草のマスクに手をかけ下ろし、丁寧にリップを唇に塗り始めた。
目の前に真剣な表情の秋風がいる。美人な秋風がせっせと自分の唇に向かうのを見ていて、恥ずかしくなった冬草は頬を染めて固まっていた。
急に怖くなった月夜は踏み荒らされた雪道を全速力で帰って行く。
外灯が無く月に照らされた道は、白い雪の反射でキラキラと輝いて明るく見えていたが、それでも木々の影にある暗闇から正体不明なお化けが出そうで怖い。
自宅の明かりを目指し、一心不乱に月夜は恐怖を抱えて駆けていった。
無事に家に戻ると片付けが終わったようで、夏野や倉井たちはリビングでくつろいでいた。
ホッと一安心した月夜は夏野たちに加わっていく。
やがて、お風呂に入って寝る準備を始めると、倉井はいつものように妹の海の部屋へと行ってしまった。
夏野はこれはチャンス! と月夜と2人きりになれる期待でドキドキと緊張してきていた。
月夜の自室に入った2人。押し入れから布団を出した月夜が夏野に向いた。
「さ、準備できたから寝ようか?」
自分の布団を敷いて、さっさと入る月夜に夏野は驚く。
「えっ!? 布団が1組しかないですよね?」
「うむ。帰り際に雪に怖い話しをされて1人で寝るのが不安なんだよ。一緒に寝て欲しいけど、ダメかな?」
情けない顔で頼む月夜に夏野は、むしろ願ってもないチャンスに心が躍る。帰り道であろう冬草に心の中で感謝した。
夏野はふらふらと布団に行きかけ、ハッと思い出して月夜に背を向け、自分のお泊まり用のボストンバッグに向かう。
「ど、どうしたんだい?」
不安になった月夜が声をかける。
「すみません、あまりにも至福すぎて忘れてました。メリークリスマスです!」
振り返った夏野の手にはリボンのついた小さな箱が乗っていた。
「わたしにかい?」
「もちろんです!」
布団から出た月夜が夏野の手から箱を喜んで受け取り、大事そうに机の上に置くと再び布団へと滑り込んだ。
「ありがとう! 楽しみは明日に取っておこう。時間も遅いし、寝よう空君」
「はいっ!」
嬉しそうに夏野が月夜に飛び込んできた。月夜の豊かな胸に顔を埋めて密着してくる。
いつもは妹に無理を言って抱きついても何とも思わなかったが、いろいろと柔らかい夏野の感触に恥ずかしくなる月夜。これはいかん! と夏野を自身から離す。
「そ、空君。ちょっと正面で抱き合うのは気恥ずかしいのだが……。申し訳ないが背中を向けてくれないか?」
「えー。しょうがないですねー」
残念そうに夏野は寝返りを打ち、背中を向ける。
安心した月夜は抱きついて夏野のお腹に手を回して気分を落ち着けた。
夏野は先ほどの胸の感触と、今まさに背中に押しつけられている新たな感触に興奮していた。
なんてたって生だ。ブラをつけてない布越しの感覚がハッキリとわかる。それに太ももとか身体のあちこちが密着している。
柔らかいうえに月夜部長の伝わる体温が気持ちいい……。だめだ、今日は寝られないかもしれない。夏野は目をギュッと閉じて、悶々としいてる頭を静めようとした。
でも、無理! こんな気持ちで寝られないと、背中から聞こえる甘い寝息を聞きながら夏野はギンギンに冴えた目で朝を迎えていた。




