55話 距離をなくせ!
遊園地へ遠征してから数日、岡山みどり先生の調子がおかしい。
地底探検部の部室にあるイスに座り、頬杖をつき、どこか遠くを見て時折ため息を漏らしている。
夏野 空と倉井 最中は岩手 紫先生と何かあったと見て、声をかけられずにいた。
そこに葵 月夜と冬草 雪が部室に入ってくる。
気がついた葵が声をかけてきた。
「どうしたんだみんな? なんだかお通夜みたいだぞ?」
夏野が慌てて人差し指を口に当てて、しーっとすると葵はピンときた。
「ははぁ、ミドリちゃんかー。おおかた岩手先生の事だろ?」
「月夜部長! ダメですっ!」
怒った夏野が葵に駆け寄る。だが、みどり先生は聞いていないようでポケ~~っとしていた。
「空君、怒ってないで、みんなこっちへ!」
ちょうど来た夏野の手を取り、冬草と倉井を部室の隅へと集める。
皆が集まると、みどり先生に背を向け、ヒソヒソと葵が話し出す。
「遊園地で何かあったにせよ、きっと、少し掛け違いがあっただけだと思う。そこで、ミドリちゃんと岩手先生を人気の無い所で直接会わせれば解決するかもしれない」
「どうやってですか?」
興味が出てきた夏野が聞くと葵はニヤリとする。
「うむ。ミドリちゃんと岩手先生を別々に同じ場所へ呼び出すのはどうかな? わたしらの誰かと会うと約束すれば、きっと来てくれるはずだ」
「なるほど。じゃあ、相談を持ちかける感じがいいかも」
「それだ! 空君!」
俄然、ノリノリの夏野が提案すると葵が乗ってくる。
冬草は聞きながら、こいつらお節介すぎじゃね? と腕を組んで思っていた。
4人は詳細を詰めていき、倉井が岩手先生を、夏野がみどり先生を呼び出す係に決定した。
場所は学校裏にある用具倉庫前。普段使用していないので生徒もあまり寄りつかないスポットだ。
葵たちは倉庫近くの茂みに潜み、2人を生温かく見届ける計画を立てた。
翌日の放課後に決行することを確認して部員たちは頷いた。
──決行日の放課後、いそいそと葵たちは割り当てられた役を実行した。
まず、倉井が岩手先生に相談があると呼び出し、続いて夏野がみどり先生を呼び出す。
葵たちは近くの茂みの陰にこっそりと隠れて様子をうかがっていてた。そこにはちゃっかり春木 桜も混ざっていた。
しばらく待っていると岩手先生がやってきて倉庫前で立ち止まる。どうやら呼び出しに成功したようだ。
キョロキョロして倉井を探している。
葵の後ろで、倉井が心配そうに見ている。夏野が安心させるように倉井の背中に手をそっと当てていた。
やがて校舎の角からみどり先生が現れた。
倉庫前で立っていた岩手先生を発見して、みどり先生は驚く。
「岩手先生!……どうしてここに?」
同じように驚いている岩手先生がためらいがちに答えた。
「わ、私は倉井さんが相談があるからって……」
「私も……ハッ!? ひょっとして!」
夏野の顔を思い出して、仕組まれたとみどり先生は気がついた。
だが、どうして? 戸惑う岩手先生の様子を見て、お節介共めと状況を理解して葵たちに感謝した。
みどり先生は岩手先生に歩み寄ると推論を述べる。
「たぶん待っても来ませんよ。あの子たちは……」
「どういう…こと?」
不思議そうに聞く岩手先生にみどり先生が苦笑する。
「私達の心配をしてたみたいなんです。そ、その、私と先輩がお互いに避けていると思ったらしくて」
「それは……」
みどり先生の言葉に岩手先生の頬が赤くなる。
遊園地の出来事以来、2人はお互いに意識しすぎて、自然な振舞いができずに素っ気ない態度が裏目に出ていたのだ。
そのため、職員室でも席が隣り合っているにもかかわらず、顔を合わせるのも照れてできずにいた。
もう後がないと、両手をきつく握ったみどり先生が意を決する。
きっと、この場で言わないとチャンスが無いばかりか、会話も無く、すれ違いに終わるかも知れない。
そんな学校での教師生活をおくるのには辛すぎる……。ためていた想いを吐き出せるのは今しかない。
すっと息を吸い、みどり先生は戸惑っている岩手先生の目を真っ直ぐに見て告白した。
「紫先輩が好きです。もう胸の内に隠すことができないくらい好き!」
「……」
驚いた岩手先生は両手を口に当てて、目を潤ませている。
「ご、ごめんなさい変なことを言って!」
真っ赤な顔でみどり先生は謝ると校舎の方へと走り出した。
「待って! 違うの!」
岩手先生が追いかけて、みどり先生の腕をつかむと足を止めさせ引き寄せる。
「違うの! 勘違いしないで! 私も好きなの! あなたが!」
「せんぱい!?」
思ってもみなかった言葉にみどり先生は驚く。
勢い、岩手先生がみどり先生を抱きしめる。
「ずっと好きだったの。大学で一目見たときから……。卒業してからもあなたともう一度会いたいと、ずっと想ってた」
「先輩……」
泣き出したみどり先生が岩手先生の背中に手を回す。
すると、岩手先生がみどり先生の耳元で囁く。
「もっと昔に私から告白すればよかった。ずっと怖かったの…あんなに恋焦がれたあなたに振られるのが」
「そんなこと……」
みどり先生はフルフルと首を振って否定する。
体を少し離し、みどり先生の涙を親指でぬぐった岩手先生が手を握り微笑む。
「私と付き合ってください」
「はい」
答えたみどり先生の目からは新たな涙が溢れている。
再び抱き合った後、岩手先生とみどり先生の唇が近づく──
その時、
バキバキバキ──
近くの茂みを倒しながら葵たちがドッと放り出された!
「雪! 強く押すから出てしまったじゃないか!」
「お前がでかいのに一番前にいるからだろ!? いいところが見えないんだよ!」
「そうは言うが、わたしも最前列で見たいし!」
言い合う葵と冬草に夏野が口を挟む。
「先輩たち! 静かにしないと先生たちに見つかり……」
そこでハタと気がついた葵たち。
恐る恐る倉庫前に目を向けると、ポカンとした顔を葵たちに向けて抱き合っているみどり先生と岩手先生がいた。
スッと立ち上がった葵は短めのスカートについた小枝やら葉を手で払い、オホンと咳をする。
「さ! わたしたちの事は気にせず、続きをどうぞー!」
「「できるかぁあああ!!」」
同時に叫んだみどり先生と岩手先生は慌てて離れた。
岩手先生は一部始終を見られていた恥ずかしさで、顔を真っ赤にさせながら足早にこの場を去って行ってしまった……。
残ったみどり先生も顔が真っ赤だ。
「まったく! なに覗いてるの! でも、ありがとう」
涙をふいたみどり先生に、怒られながらも礼を言われる葵たち。
感激した夏野が出てきてみどり先生の腕を取った。
「わたし感動しました! とっても素敵です! 上手くいってよかった!」
「あたしも! ずっと応援してたからよかったです!」
「感動しました先生!」
春木と倉井も続く。葵と冬草も参加し、みどり先生を祝福した。
照れたみどり先生はウフフと笑って恥ずかしさを誤魔化していた。
その後、地底探検部の部室に集められた葵たち。もちろん春木もいる。
そこにはみどり先生と岩手先生が並んで立っていた。
「みなさんも既に知っている通り、私とみどりは付き合う事になりました。ですが、学校には秘密です。そんなわけで回りには言わないようにお願いしますね?」
吹っ切れたのか、岩手先生はいつもの調子で話し出す。横に立っているみどり先生は照れてモジモジしていたが。
葵は親指を立てると二カッとする。
「もちろん、わかってるよ! 紫ちゃん!」
「な……!?」
「紫。葵さんはいつもこうだから、気にしないで?」
いきなりの名前呼びに驚いた岩手先生の腕に手を当てみどり先生がフォローする。
全く気にしていない葵が2人の肩を抱き、夏野たちに話しかける。
「よし! お祝いだ! 空君、例のアレを!」
「はいっ!」
元気に返事した夏野は、冷蔵庫からカップケーキを取り出すと長机に並べ始める。その横で倉井がお茶を用意していた。
冬草と春木はすでに座っていて、ケーキが食べたくて待ちきれない感じだ。
葵はみどり先生と岩手先生を席に座らせながら説明する。
「昨日、作っておいたんだ。急ごしらえだから簡単なものですまない」
「んん? 昨日?」
不思議に思ったみどり先生が聞き返す。未来でも見えるのこの子? 岩手先生は疑いの眼差しを向けた。
「そうだよ。今日の作戦が成功すると確信していたからね! さすがミドリちゃん!」
ニッと笑ってウインクする葵。照れたみどり先生がはにかむ。
もし、みどりの告白が上手くいかなくても、励ますつもりだったのだろう。成否に関わらず、みどりを元気づけようとしていたのだ。
葵たちの考えがわかった岩手先生はプッと吹き出すと笑い始めた。理由がわからないみどり先生はつられてカラ笑いだ。
こんなにも部員たちに慕われているみどり先生を岩手先生は羨ましく思った。
こうして、ささやかな二人のお祝いが始まった。




