53話 絶叫だよ!
ハッピーファミリーパーク──
隣県にある遊園地で、ジェットコースターや巨大迷路などのアトラクションに巨大なプールを備える県下最大の施設だ。
似たような施設が周囲に少ないため、遠方からも家族連れがやってくる有名なスポット。
葵 月夜をはじめとした地底探検部の部員たちと岡山みどり先生らは、早起きして電車を乗り継ぎはるばるやってきた。
ちなみに葵はこの間、ユニ○ロで買った服を着てオシャレをしていた。
中でも夏野 空は終始テンションマックスでノリノリだ。
「早く行きましょう月夜部長! 泊りじゃないから、急がないと!」
「空君。少し休まないかい? さすがに長距離移動したから疲れたよ。あとお尻が痛いし」
「ダメです! せっかく来たんだから楽しまなくちゃ!」
入り口から葵の袖を引っ張り園内へと連れていく。
その後ろで夏野の友人、春木 桜と部員の冬草 雪は苦笑いで見ていた。
部員の倉井 最中と葵の妹、葵 海は並んでついていく。
海が倉井の手を握ると微笑む。
「わたしたちは別行動で行こうよ? 帰りにお姉ちゃんたちと合流すれば問題ないし」
「はい、そうですね」
笑顔の倉井が握った手をギュッとすると、2人は楽しそうに園内へと駆けていく。
そんな2人の後姿を眩しそうに見ていた岩手 紫先生は呟いた。
「爽やかねー。若いっていいなぁー」
「先輩も十分若いですから大丈夫ですよ」
みどり先生が笑うと岩手先生が身を寄せる。
「私達も楽しまなきゃね!」
「せっかく来ましたからね!」
2人は笑い合うと、生徒たちの後からのんびりと園内へと入って行った。
笑顔の夏野に連れてこられたアトラクションを前に葵は恐怖する。
「そ、空君……。ここはやめようよ? ね?」
「なんでですかー? みんなで行けば大丈夫ですよー」
ニコニコと夏野が引っ張る先にはお化け屋敷が、デデーン! と待ち構えている。
「空君だって知っているだろ? わたしは怖いのが苦手だってことを……」
「もちろんです! 月夜部長のことはわたしが守りますから大丈夫!」
嫌がる葵を夏野がお化け屋敷の入り口へと無理矢理押し込んでいく。
そう、夏野は狙っていた。怖がる葵が夏野に抱きつくのを。ここで可愛く怖がる月夜部長をギュッと抱きしめて、わたしの包容力を見せつけながらイチャイチャしたい! 夏野の頭はピンク一色だった。
冬草と春木は、そんな2人を見て笑いながら後から入っていった。
数分後、絶叫と共にお化け屋敷から出た2人。
そこには夏野の腰に必死にしがみつく葵がいた。
「月夜部長。外に出ましたから、もう大丈夫ですよ」
夏野が優しく声をかけ、頭をなでると葵が恐る恐る顔を上げる。日の明かりを確認すると、葵はヨロヨロと立ち上がり額の汗をぬぐう。
「助かった……。もう、この世の終わりかと思ったよ……」
「大げさです! というか、入ってからずっとわたしにしがみついてました!」
「いやぁ、空君がいて良かった。ははは」
乾いた笑いをする葵に、自分の思った通りにいかなくて夏野はガッカリしていた。
お化け屋敷の中では、終始絶叫して腰から離れない葵に、こんなはずでは…と夏野は思っていた。おかげで自分は全然怖くなかったが。
遅れて春木と冬草が出てきた。
こちらも春木の腰に冬草がしがみついている。
呆れて見ていた夏野と目が合った春木は苦笑している。
しばらくは立ち直れそうもない葵と冬草をベンチに休ませ、夏野と春木は絶叫系のアトラクションへと遊びに行ってしまった。
ベンチでぐったりしている葵と冬草。意外な冬草の弱さに葵は笑う。
「まさか雪もお化けが苦手だとは思わなかったよ」
「ちげーよ! ただ、ちょっと暗がりが怖いだけだ!」
「ははは。わたしは逆だな。暗いのは平気なんだが、幽霊とかお化けが怖いよ」
「意味わかんねぇ。一緒だろ!」
違うと言いながらも同じにしてしまう冬草に葵は笑う。
近くの自販機で温かい飲み物を買って、再びベンチで休む2人。
ふと気がついた葵が尋ねる。
「そういえば、海と最中君の姿が見えないが…」
「さっき、あたいらとは違う方向へ走って行ってたぞ」
「別行動か……。お姉ちゃんは寂しいぞ、海よ……」
かわいい妹がいないことに泣く葵。せっかく一緒に回って姉妹の絆を高めたいと思っていたのに…海のいけず。
あえてみどり先生と岩手先生には触れない2人。今回は先生たちの恋の進展にもかかわってるため、むやみに突っつくのは止めようと暗黙の了解を部員たちはしていた。
一息ついた冬草が葵に聞いてきた。
「そういえば、空から聞いたんだけどさ。なんで月夜は突然変わっちまったんだ?」
「なんの話しかわからないが、変わってないぞ?」
「ちげーよ! 聞いたぞ!? 高校に入る前にギャルに変身したって!」
冬草の言葉に思い当たった葵は、ジッと彼女の好奇心がうずく目を見てため息をつく。
「……ふむ。少々昔話になるがいいだろうか?」
「ああ」
「自分で言うのもなんだが、それまでわたしは優等生だったんだ。そつなく全てをこなし、成績も上々、皆から好かれる生徒会長。確かにその時は勉強や稽古ごとに夢中だったし、不満はなかった。でも、自分の中では何かが足りなかった。パズルの最後の1ピースがないようにしっくりこなかったんだ」
「それで?」
一旦切った葵に、話しに引き込まれた冬草が続きをうながす。
ちょっと恥ずかしそうに葵は続けた。
「中3の冬に2冊の本に出会ったんだ。1冊は地底旅行の本。ずいぶん昔に書かれたSFの古典だ。現実主義のわたしは夢中になって読んだよ、こんな空想的な世界があるなんて思わなかったから。そしてもう1冊、たままたコンビニに立ち寄って目についたギャル雑誌だった。これも夢中になったよ。こんなにも自分たちの世界を満喫している人たちがいると知って、新しい扉が開いたんだ。そこでわかったよ、これが最後のピースだとね」
「んん? つまり本を読んで?」
予想外の事実にビックリした冬草が聞きてくる。葵は苦笑いだ。
「そうだよ。当たり前の自分じゃない、わたしを表現したかったんだ。まあ、形から入っていたけど」
「……なんか思ったよりも軽いな。重くないじゃん」
ふてくされたように冬草が飲み物を含んだ。
笑った葵が口に人差し指を当てる。
「今のは空君には秘密だよ。言うと説教されそうだから」
「違いない。あたいも説教したいぐらいだよ」
苦笑いの冬草が答えると葵もニヤリとする。
「まあ、雪の場合は家庭の事情があるから無理はないけど、お母さんを大切にするのは良いことだよ」
「うっせー! 今言うなー! 恥ずかしいだろ!」
真っ赤になった冬草が抗議してくる。以前、冬草からグレた理由を聞いている葵は笑ってからかい始めた。
それでも以前の葵を知らない冬草は、今のままが一番だなと思っていた。
しばらくすると夏野たちが戻って来た。どうやらジェットコースターに乗ってきたようだ。
元気になった葵たちが迎えると、笑顔の夏野が次のアトラクションへと引っ張っていく。
「今度のは大丈夫ですよ! なるべく月夜部長たちが乗れそうな物を選びました!」
「空君、別に無理しなくてもいいよ。わたしは君たちと一緒にいれれば楽しいからさ」
「せっかくだから乗りましょうよ! ね?」
ニコニコと夏野が先導していく。
目的地へ向かう途中、ゲームコーナーを発見した冬草は、フラフラと外灯に群がる蛾のように吸い寄せられていく。
なぜか春木もその後を追っていくようだ。
それでも夏野は葵を引っ張って目的のアトラクションへと行く。
「これかね?」
「はい!」
葵の問いに笑顔の夏野が答える。
彼女らの目の前には機関車を模した屋根付きのミニ列車があった。前方には人気キャラクター『くまP』が鎮座している。
どうやら園内を一周しているようで、親子連れなどが列を作って次の列車を待っていようだ。
葵はマジマジと夏野を見て聞く。
「ちなみにわたしたちが今日、何に乗ってここまで来たっけ?」
「もちろん電車ですよ」
「これは?」
「機関車です。もう! いいじゃないですかー! 月夜部長が乗れるアトラクションはこれぐらしかないでしょ!? 他にあるんですか!?」
「いや、ごめん。言い過ぎたよ。空君もそんなに怒らなくても……」
あまり乗り気じゃなかった葵だが、夏野に言われタジタジになる。
プンプンしている夏野が列に並ぶと慌てた葵も追いかけ、機嫌を取り始めた。
それでも列車に乗り込むと2人は楽しそうに会話を弾ませていた。




