39話 会議をしよう!
市立深原中学校・高等学校。
その高等学校の会議室では来年度の部活会議が行われていた。
書記の女生徒がホワイトボードにせっせと議題の要点を書いている。
上座には生徒会長の女性、秋風 紅葉が一人の生徒を注視していた。
その視線の先には、右手に並ぶ各部長たちに混ざって、地底探検部部長の葵 月夜が熱心にノートをとっている。
秋風は思った。──見えてるの! さっきから! あんたが落書きしてるのが! そう、葵の落書きに突っ込みを入れていた。
しかも、その落書きはドへたくそ。人か犬かわからない何かを先ほどから熱心に描いている。
会議の話をきいていない葵にいら立ちを隠せず、秋風はシャーペンをクルクルと手で回している。
隣に座っていた副会長の山口 拓がそっと進言する。
「会長。あまり葵さんばかり見ていると皆が注目しますよ?」
「あっ! ち、違うの! 見てよ、あいつのノートを!」
書類で口元を隠し、小声で返す秋風。ククッと抑えた笑いをした山口がチラリと葵を見て視線を戻した。
「わかりますけど見過ぎです会長」
「私はああゆうのが許せないたちなのよ!」
ぷんぷんと秋風が頬を膨らます。もちろん書類で隠しているが。
秋風は成績優秀、運動もバッチリ、容姿も端麗と三拍子揃う正に生徒会長になるべくしてなった、自他ともに認める人物だ。しかし、葵と比べるといつも劣っていた。
同学年のため、中学生時代は葵に全く勝てず、常に副会長という2番手に甘んじていた。
ところが高校に進学して勢い生徒会長に立候補したのはいいが、なぜか葵が出馬せず、楽に生徒会長の座を射止めてしまった。
肩透かしもいいところだ。不完全燃焼な秋風は、高校デビューして気ままに学校生活を送る葵に嫉妬していた。
その憎い葵が落書きに夢中で、まるで会議を聞いていない。
秋風は視線を反対側に座る風紀委員長、氷河 岬に移す。
ちょうど葵の対面に座る氷河はずっと彼女を見ていた。ときおり、ため息をついて。秋風は眉をひそめる。なんなの? と。
そこへ山口がそっと教えてくれた。
「風紀委員長は葵さんが好きみたいですね。かく言う僕も中学時代に3回告ってフラれましたよ」
「あんたのことは知ってるよ! 氷河は何をやってるの!? 目の前に校則をバリバリ破りまくりの人間がいるのに!」
書類で口元を隠しながら、小声で文句を畳みかける。イライラがますます募ってきた。回すシャーペンが高速になる。
それでも会議は順調に進み、各部の活動報告へと移っていった。
この報告によって、来年の部の予算規模が変わる。当然、数多くの部員を抱えるところは活動内容も活発で必然的に部費が多く支払われることに。だが、少ない部員でも上手く立ち回れば倍額のチャンスも当然あった。
ずっと落書きに夢中だった葵はピタリと止めて、カバンから何かを出し始めた。
自分の番が来ると、用意した書類を生徒会の面々に配り始める。
秋風は嫌な顔をして受け取ると、その書類に目を落とした。
そこには詳細な地図と活動内容、かかった費用に部活動における社会性と公共性、地域振興へと広く評価が書かれてあった。
自信満々な葵が席に戻ると話始める。
「紅葉たちに配ったのは、我が地底探検部が今年行った活動の記録だ。それによって引き起こされる社会とのイノベーションや地域の貢献度を評価している。実際に我が部は机上の計画だけでなく、調査や体験を通じてより深原市とこの高校を強力に結びつけているといえよう!」
書類を見て|呆れた秋風が聞く。
「この回転寿司って何?」
「うむ。良い質問だ。これこそ現地調査であることは間違いない!」
ドヤ顔で葵が言いきる。
あまりの自信満々な葵に一同は、そうなのかも? と思い始めていた。
秋風は思い出していた。そう言えば去年楽だったのは、茶髪の先輩がだるそうにしてたお陰で地底探検部の部費を少なくしても文句が出て無かったことを。
予算要求に目を向けると去年の3倍になっている。
葵の話は無茶苦茶だが、この書類によると自費の活動が多く、バイトでまかなっていると報告されていた。
あまり自費での活動が多いと校長の目に留まりやすい。すなわち、生徒会の管理能力が問いただされる事態になる。
葵め……。痛い所を突いてきたなと秋風は舌を鳴らした。
秋風が頭を回転させている間にも葵の演説は続いていた。それは中学時代の生徒会を彷彿とさせた。
いつも前で熱弁をふるう葵の背を見てきた秋風。
悔しいながらも葵に憧れを抱いていたのを思い出していた。
ふと、ある項目に目が留まる。部員の構成に地底人とある。さらによく見れば中学生も載っていた。
「ち、ちょっと! 葵! なにこれ、地底人って!?」
「ん? 何か?」
慌てた秋風にキョトンとした葵が答える。
「地底人よ! 地底人! どう考えても変でしょ!」
「はは~ん。紅葉は疑っているわけだな?」
「当たり前でしょ! そんなの聞いたこと無いし!」
怒る秋風にふふんと葵は鼻で笑う。
「そう言うと思ったよ。さあ出てきてくれ! 最中くーーーん!」
葵が叫ぶと会議室の後ろのドアが開いて倉井 最中がスタスタと入ってくる。ドアの陰では副部長の夏野 空と顧問の岡山みどりが顔を出していた。
頬を染めた倉井は葵に近づくと袖を引っ張る。
「そんなに大声で呼ばないで。恥ずかしいから……」
「そうか? ごめんよー最中君。ほら! 紅葉、彼女が地底人だ!」
葵が秋風に倉井を紹介するが返事が無い。
「紅葉?」
目の前にいる秋風は倉井を見て固まっていた。
「か……かわ……いい……」秋風の口から小さい声が漏れ出ている。
すると副会長の山口が出てきて、そっと秋風の耳元に告げる。
「秋風会長。見とれすぎ」
ハッと気がついた秋風は周りを確認すると、頬を染め、オホンと咳で誤魔化しながら自分の席へと腰を降ろす。
ついで書類をまとめながら葵をチラリと見た。
「地底探検部の報告は以上ですね。予算は了解したから」
「ホントかい!?」
あまりにも、すんなりと事が運んで驚く葵。
笑顔の倉井が秋風に感謝する。
「ありがとうございます!」
「い、いや、当然だから……」
照れた秋風が視線を逸らした。隣の山口は笑いを必死に耐えている。
自分の出番が終わった倉井は、会議室を出ようと足を向けたところで秋風が呼び止めた。
「も、最中さん! み、苗字は?」
「倉井…倉井最中です。あまり月夜部長を悪く言わないでくださいね」
「もっもちろん! そんなことはしないよ! 中学からの腐れ縁だからね! ハハハハ……」
倉井の言葉に真っ赤になった秋風が渇いた笑いで返す。くすっと笑った倉井は軽く頭を下げ会議室から出ていく。
ドアの陰にいた夏野とみどり先生は笑顔で親指を上げて倉井の健闘を称えている。
他の部員は唖然と事の成り行きを見守っていた。
秋風はいつまでも会議室のドアを見て、倉井の後ろ姿の幻を目で追っていた。
それを見ていた葵は、ニヤリと会長の弱みにつけこむ算段をしていた。




