20話 生きてる!
部活の無い放課後、夏野 空は幼馴染の春木 桜と一緒に下校していた。
話題が葵 月夜に及ぶと春木が疑問を口にした。
「そういえば部長のお父さんって見てないね?」
「あー確かに…。最中ちゃんも3回泊ってるらしいけど1度も会ったこともないって言ってたな…」
自分で言っておきながら夏野はハッと気がつく。
「ちょっと思ったけど最中ちゃんってずるくない? 3回もお泊りしてんだよ!? 3回も!」
「はい、はい。あんたみたいにガツガツじゃないからでしょ」
春木が言うと膨れた夏野が反論する。
「そ、そんなにガツガツしてないし! わたしずっと一途じゃん!」
「あははは。そーね」
笑って春木はスルーした。
ふと閃いた春木が夏野に話す。
「ねえ、今思いついたんだけどさ」
「なにを?」
「部長のお父さんについて! だってほら、1度も見てないし」
「そんで?」
「でさ、部長が言うには部屋に引きこもっているらしいじゃん?」
夏野は春木の言わんとしていることが飲み込めず首をかしげる。
「?」
「それって言い訳でさ、ひょっとしてこの世にいないんじゃない?」
「ええっ!?」
驚いた夏野に怖い顔をした春木が続ける。
「葵家の女3人。母と姉妹がいつも小うるさい父をある時、ささいな切っ掛けで殺害してたとか。それを周囲に悟られないように、引きこもりとふれ回ってるのかもしれない……」
「そんな…コワイ! って、月夜部長は間違ってもそんなことしないよ!」
一応、春木の話に乗っておいて怒り始める夏野。
「あはははは。だよねー」
春木は笑って同意した。
──その夜。
自宅に戻った夏野は、風呂を上がると自室のベッドにゴロンと横になった。
はぁー、部活が無い日はつまらないなぁ。月夜部長とも会えないし…。
そう考えて目をつぶると下校時に話していた春木の顔が思い浮かぶ。
まさか、ね……。
あの冗談話を真に受けるなんて変だし……。
そんな思いとは裏腹に段々と心配になってくる。
つ、月夜部長がそんな事するわけないし…たぶん。
……。
ガバッとベッドから起き上がると、慌ててスマホを取り出す。
もうダメだ。確認しないと今日は不安で寝れないかもしれない!
呼び出しのメロディが流れている間、夏野は早く出ないかとイライラする。
『はい、月夜だが?』
「月夜部長! 夜にすみません! 確認したいことがあって!」
葵が出ると早口で夏野がまくし立てる。
緊急事態かと驚いた葵が尋ねてくる。
『そ、空君!? どうしたんだい?』
「月夜部長のお父様についてなんです! それで…」
夏野は春木と会話の内容をかいつまんで説明した。
すると葵は笑いだす。
『はははは、そういうことか。どれ、お父さまに報告しよう』
「えっ!」
驚く夏野を無視して葵は父の部屋へと向かっていく。
『お父さま、入るぞ』
『お、どうした月夜?』
初めて聞く月夜の父親の声に夏野は緊張する。思っていたよりも若い声だ。
『どうやらわたしの友人の間で、お父さまは死んでいることになっているぞ』
『それは聞き捨てならないな。どういうことだ?』
いぶかし気な父親の声に夏野は背筋が寒くなる。お、怒っている……?
葵が夏野から聞いた話を手短に説明するのが聞こえている。
そして聞き終えた父親が笑い始めた声が響く。
『わははは。なるほど、姿を見せないからとは! それに傑作だ! ひきこもりで小言を言うから家族に殺されるとは! ハッ! いいことを思いついたぞ! いいぞ、これは! その友人にはお礼を言っておいてくれ!』
『わかった。おやすみ、お父さま』
『ああ。ひひひ、面白い!』
部屋を出た音がすると葵が言ってくる。
『と、いう感じなんだが、安心した?』
「も、もももももちろんでーーす! いろいろ本当にすみません!」
一部始終を聞かされた夏野は、耳を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
絶対、桜に文句を言ってやる! 明日の朝に速攻言ってやる! 夏野は天に誓う。
すると葵月夜のやさしい声が耳に届いた。
『いや、いや。ちょうどお父さまは行き詰っていたようだから、むしろ助かったよ。わたしからもありがとう空君』
「そうですか!? なら良かった! とにかく安心しました!」
『ふふっ、君も面白いね。それでは明日』
「はい! 明日に!」
テンションが上がって挨拶する夏野は静かに通話を切った。
再びベッドに横になるとスマホを抱きしめる。
やばい…月夜部長と夜のおしゃべりしちゃった。
嬉しくて眠れそうもない。
それはそれとして桜には言おうと思った。お礼も兼ねて。




