55_[代表者数名]と[ある依頼]
でもって、さらに二日後。
Jackie-S in the Boxの事務所運営の社屋ビルにて。
私はビルの上の方にあるこないだまでの会議室とは別の、かなり内装も物々しい感じな会議室にいる。会社のスタッフさんはケーコさん・量さん・街山社長、その他重役っぽいスーツの人たち数名。
対する“社外の人たち”は……。
「この度はお時間を設けていただき誠にありがとうございます。我々はゲーム制作会社のオリュンポスゲームズと申しまして、私は代表取締役の岡谷裕貴と申します。ボルボックス社さんとは、Jackie-S in the Boxのメンバーさんたちの案件配信などでウチの作品であるイーリアスODYSSAY - INFINITYをご紹介戴いております。発売元ではなく制作会社である我々とは初対面になりますが……」
中年で眼鏡をかけた小男が歩み出て、名刺を差し出しながら挨拶する。
要するに、長々とカタカナや英語の羅列を並べるこの人物はゲーム制作会社? の代表と他数名らしかった。
いくら案件でお世話になっている企業とはいえ、こういうときに販売とかを担当するのは発売元のハズだ。制作スタジオが出張ってくるなんてそうそうあるとは思えない。まぁ、業界のことに詳しいワケじゃないからド新人の推測でしかないけど。
「こうして御社に直接伺ったのは他でもありません。御社のライバーとして所属していらっしゃる浦賀カオルさん、彼女に依頼があるためです。単刀直入に申し上げます、浦賀カオルさんにデバッカーとしてご協力をお願いしたいのです!」
岡谷社長はそこまで言ってから深々と頭を下げた。
もちろん、ここまでのことは私だって一昨日急に話しかけられたゲーム内でのやり取りで既に聞いてはいた。
リューナとスーの二人で事態収束まで導いたエイデュイアの暴走事件。何でも、あれは制作スタジオ内でも全くもって把握できていない事象だったのだという。運営しているネットゲームにおけるあまりに突然の暴走。恐らくAI絡みの問題だというのは誰もが分かったが誰も急に対処は出来ない。
そんな折に、たまたま現場に居合わせて鮮やかに事態を解決したのが私(であるようにスタジオの人々からは見えたの)らしい。
さらに始末の悪いことはもう一つある。今回の件で問題になったAIの挙動、実は何らかの“異常”があったのをスタジオ上層部も把握していた。しかし彼らはスペック以上の性能を発揮しているらしいAIを何も問題視していなかったのである。そしてゲーム全体に被害が及びそうになったところで現れた私に縋り付くことにしたらしかった。
「カオルさんはゲームをプレイヤーとして操作していただけに過ぎません。しかし見るも鮮やかにゲーム内で起きた問題を解決して見せたのです! 本来なら運営として断固たる手段を講じなければならないのですが、ここまでの活躍を見せられたのでは話が変わって参ります」
調子の良いことを岡谷社長は捲し立てる。しかも私が逃げられないように本来なら悪者という扱いもしてきた。実際言い逃れもしようがないのだけど。
「ところでですね、海外では名の知れたハッカーが刑務所で捕まると、そのハッカーの保釈金を名だたるIT企業が払って雇うことがあるそうです。ハッカーはシステムの脆弱性を知り尽くした存在ですから、彼らの力でセキュリティを強固なものにする狙いがあるのでしょう……もう、おわかりでしょう? 我々もカオルさんを同じように雇いたいのです!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
対する街山社長はモロに困惑しながら言葉を漏らす。
「彼女は大事なウチの新人です、そんな風に協力をすることは……」
「放送電波騒霊対策報奨金制度、いわゆる騒対報制度なんてものも世の中にはあります。JSBさんもIT企業ですから、最近のネット社会がキナ臭いのはお分かりのハズです。この制度を使えばさらに報酬は増やせると思いますし、それにもちろん! 我々にだって譲歩の準備はありますから!」
そして、なおも岡谷社長は食い下がる。
「そもそも我々がお願いしたいのはわずかに手伝って貰う、それだけです。デビューまでの講習が妨げられるようなお時間を取らせることもありません! そしてカオルさんが我が社での仕事を成功した暁には報酬としてイーリアスODYSSAYの——
「あの、私やります」
「ちょ、え⁉︎」
「浦賀さん⁉︎」
言葉の途中で私は歩み出て、ただ簡潔に“引き受ける”と宣言した。街山社長もケーコさんも相当驚いている。量さんに至っては声も出せないほどらしかった。そしてそれは目の前の岡谷社長も同じだ。が。
「ま、まだこちらの譲歩の話は終わっていませんが……」
「いえ良いんです。もちろんその話は後で街山社長としてくだされば良いんですが、少なくとも私は自分の意志でやりたいって言っています。そりゃ、大変かも知れないけど」
私は自分が引き受けた理由を説明する。なるべく淀みなく、堂々とはっきりと。
「まず単純になんですけど、あのゲームは“友達”がすごく好きなんですよ。結構色々あった子なんですけど、あのゲームをやってる最中はすごく生き生きしてて。それに私とその子がちょっと仲良くできるようになった原因とか他の仲間とかもあのゲームが作ってくれて……だから、私が何かのためにやれるって言うんでしたら私やりますよ」
そこまで言い切って、何やら涙ぐんでるらしい岡谷社長に私はお辞儀した。




