38_[お決まりの流れ]と[MMORPG]
「この間と同じく、まず四期生全員の前で発表してもらいます。好きなジャンルと、それから“どのあたりが好きなのか”とかもリスナーさんにアピールするポイントになるので忘れずに。先ほど言ったように無いなら無いでも良いですが、とにかく練習だと思って真面目に取り組んで下さい。……上手く出来れば、このへんキッカケでファンになってくれる人だって出てくるんだから」
ケーコさんはそんな風に四期生を焚き付けたのでした。
……まぁ、正直なところ当プログラムとしても若干気になる話題ではあります。何が、ってカオルの好きなゲームの話ですから。今後当プログラムがプレイするゲームにも関わりますし。
というか当プログラムが起動してから、PC内部にダウンロードしてあるゲームデータをスーに“食べ”られ乗っ取られて(といってもまだ起動自体は可能だそうですが)今に至るまで、けっきょくカオルが何らかのゲームに興じているのを見たことがありません。最近ずっと忙しかったというのはもちろんそうなのでしょうが……。
となると、アバター役としてはやはり彼女の趣味嗜好というのは気になってきます。職業的にもいずれモロに関わることが多くなるでしょうし……とはいえ知ってどうなるものでもないですが、やはり興味は湧いてくるのでした。
と、ここでめぐみさんが挙手して質問を投げかけます。
……あ、それとちなみにですが。当プログラムはアバターであって喋りは担当しないので、呼び名に関しましてもカオルに一任して特に改めませんので悪しからず。
「あの! 質問なんですが、“上手く出来れば”ってどういうことでしょう? こういっちゃうのもアレだと思うんですけど、自己紹介だけでファンになってくれる人っているんですか?」
「もちろんです! 当然ながら、ウチくらいの規模なら『取り敢えず興味を持って登録してくれる“事務所推し”勢リスナーもある程度いる』というのはありますが」
「……むしろそれだけじゃない、ってことですか?」
ケーコさんは快活に返事を返しましたが、めぐみさんはまだ釈然としない顔をしています。歳上組の二人は当然分かっているようでしたが、分かっていないのはカオルも同じようでした。ですが構わずケーコさんは言葉を続けます。
「では考えてみて下さい。“あなたはJSBに最近興味を持ったリスナーです。でも事務所の規模的にも所属ライバーが少なくないので、今から追い始めるのはちょっと大変そう。ところがそんな頃、ちょうど新人さんが入ってくるみたいなので見てみることにしました”……。ここまで良いですか? それではめぐみさ、じゃないや、『ミヤビさん』に質問します。ここから四期生のファンになるのであれば、あなたは誰から追っていきますか?」
「え、イヤあの、それは当然わか…………あ」
「お気づきですね? そうです。知らない人たちからすれば、あなたも同期たちも先輩たちも同じなんです。つまり『何もわからない』。そこで先輩たちのファンになる人はアーカイブ見たりですとかネットの紹介記事を見るワケですが、もちろん新人の四期生にそんなものはありませんよね。そこで見るキッカケになってくれるのが“初配信での自己紹介”……というのが流れなワケです」
めぐみさんはともかく、ここまでの説明をされても業界未経験者のカオルはここまでピンと来ていないようです。というか当プログラムも全くなのですが。
「ふぅむ、三人はこのへん基本過ぎて説明するまでもないって感じ? まぁそうね、そりゃ基本だし。じゃ『シシィちゃん』にはもう一回考えてみて欲しいんだけどさ。そもそもあなたは普段どういう配信者見たりする? ……で、もう一つ質問なんだけど、その人たちって自分と共通点の多い人が多いと思わない?」
む?
「“視聴者は配信者と『似たもの同士』だから惹かれる”って話があってね。言葉そのまんま、どっちもお互いに不思議と同じような部分に寄ってっちゃうモンなのよ。リスナーだけじゃなくライバー自身もね。だとすれば、最初の自己紹介の意味もちょっと変わってくるでしょ? それに“好きなゲームのどこが楽しいのか”を言葉で説明されるのって、そのゲームジャンルのファン的にも嬉しかったりするしさ」
ここまできてようやく、カオルの眉が電気が通ったみたいにピクリと動きました。
成る程、確かにその前提があるのなら話は別です。ちょうどお見合いみたいな話で。最初から好きなものを説明できていれば、少なくともそこが食い違うことはないということ。
「……初配信のあの流れって理に適ったヤツだったんだ」
カオルが思ってもみなかったとでも言いたげにつぶやいたのが聞こえます。
そういった感じの説明を経て、やっと四期生全員から納得を得られたところで、ようやく本題である各人の好きなゲームジャンルの話になりました。
めぐみさん曰く「女性向けノベルゲーム・パズルゲーム」、
サーナさん曰く「FPS・2D格闘ゲーム」、
アメリさん曰く「ストーリー重視系のゲームであれば何でも」。
……そして、カオル曰く。
「なるほどねぇ。あんまりゲームはしてこなかったけど強いていうならRPG系と……』
いつの間にか敬語がまた外れていたケーコさんがカオルの発表を反芻するように言いました。
『でもやっぱりVライバーの主戦場ってゲーム・歌唱力・会話力の三つだからね。他に企画力とかも当然あるけど、そのあたりはもっとベテランになってから重視される“付加価値”って言ったほうが良いかな。だから業界慣れするまでの新人のうちは基礎から固めていく感じがいいって思ってる。ここはアタシの個人的な考えだけどねー」
ケーコさんはカオルの話で四期生の自己紹介を総括して続けます。
「さっき言ったみたいに、自分の好きなものを魅力的に話せるようになるのはインフルエンサーとしてとっても大事。けどこればっかりはウチらでアレコレこうしなさいって言えないことでもある。みんな指示通りおんなじような喋り方してたらぶっちゃけ不気味でしょ? だから自分で探してもらうしかないんだけど……まぁだからこそ、そこは置いとくとして。ね?」
ここまで言って彼女は言葉を切りました。何か勿体ぶっているような雰囲気があります。
「さて今日からの講習後半、やっと『実践編』で何やるかってことに戻ってくるんだけど。みんなにはゲーム実況で練習してもらいます! もちろん、配信はしないし録るのも外には出さないクローズドの動画だけなんだけどね? それを研究して、自分にどういう強みや欠点があってどう活動していこうかの基礎を固めていこうってワケ」
そう言って、ケーコさんはPC用ゲームソフトのパンフレット四冊を取り出したのでした。
タイトルは……『イーリアス ODYSSEY』だそうで。
……随分とこう、大層な名前です。




