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『あー、やっぱりアカンかったかぁ……。残念やな』

『Oh、仕方ないです』

『まあ、オレらが見えて話せるだけでも普通じゃねえからな』


がっかりを隠さない3人をよそに、私は大いに戸惑っていた。

だって、さっきは間違いなく、万葉集女王の手に直接私の手が触れたのに。

どうして………どうして、この3人とは触れることができないのだろう?


残念だけどしょうがないと、それはそれでおしゃべりを繰り広げる3人と離れて、私は自分の手のひらをじっと見つめた。

私の錯覚だった………?

この家ではじめて烏帽子男と鉢合わせしたときのように、私は自分自身の体験なのに、みるみる自信が減っていってしまう。

だけどそのとき、ふと視線を感じて顔を上げた。


視線の送り主は軍服マントだった。

そして私と目が合うなり、軍服マントはスッと人差し指を唇の前で立てたのだ。

それはまるでお芝居の演出かと思わせるような、綺麗な仕草だった。


”し―――――っ。ね?”


唇が、そう動いたように見えた。

ということは、つまり、さっき私が万葉集女王に触れたのは勘違いなんかじゃなかったということ?

正解を求めて本人に振り向くも、万葉集女王は我関せずといった態度で賑やかに騒いでいる3人を眺めていた。


やがて、おしゃべりな3人がどんどん話題を転がして転がして、いつの間にか私が彼ら(・・)に直接触れる、触れないというのは遥か彼方に置き去りにされてしまったのだった。

むしろ、自分で好きにリモコンを操作できるようになった彼ら(・・)には、そんなことはどうでもよかったのかもしれない。


ただし、彼ら(・・)がリモコンに触れるのは私が手渡したときだけで、そこから一度テーブルに置いたりしたら、また触れなくなってしまうのだ。

そういうわけで、私は真夜中を過ぎても、ずっと彼ら(・・)に物を手渡し続ける羽目になったのだった………






『お嬢ちゃん、アタシたちのせいで寝不足になってないかしら?』


軍服マントがひらりと軽やかにターンしてソファに腰をおろした。


「……寝不足に決まってるじゃない。いったい何時まで付き合わされたと思ってるのよ」


盛大なため息でクレームを告げると、軍服マントは『ごめんなさいねえ』と苦笑った。


『でも、こんなことはじめてだったのよ。こうなって(・・・・・)日が浅いアタシならともかく、もっともっと、もう気が遠くなるほど長い時間、何にも触ることができなかった人もいるわけだから、あの狂喜乱舞も大目に見てあげてほしいのよ』


気が遠くなるほどの時間…………

そう言われてしまえば、私はそれ以上怒ることもできない。

すると軍服マントはイケメン全開のお姉さまといった表情で笑った。


『うふふ。お嬢ちゃんは本当にいい子ね』


よしよし、と今にも頭を撫でられそうな雰囲気で言われ、ちょっと照れ臭くなった私は「そんなことより!」とやや言葉を尖らせた。



「ねえ、昨日さ、あの3人と握手できるかどうか試したとき、私に向かって ”しーっ” ってしたわよね?あれって、どういう意味だったの?」


短い睡眠時間をさらに削ってしまうほど、ずっと気になっていた。

たぶん、軍服マントは私と万葉集女王の手と手が触れたことに気付いていて、”しーっ” は、それを指しているのだと思うけれど……


この軍服マントは人当たりが良いようで、実は読めないところがあるから、すんなり私の質問に答えてくれるかは疑わしい。

そう考えながら、もし誤魔化されたりしたらどう対応するかと思案はじめたものの、


『あら、そのままの意味よ?お嬢ちゃん、あのヒト(・・・・)と手が触れたのよね?それをあの3人が知ったらジェラシー燃やしちゃうかもしれないから、それはヒミツにしておいた方がいいわよ、っていう意味だったんだけど。てっきりお嬢ちゃんには通じてるものとばかり思ってたわよ?』


あっけらかんと打ち明けてくれたのだった。



「……まあ、たぶんそうだろうなとは思ってたけど」

『あらやだ、やっぱりわかってたんじゃない。やあねえ、知らないフリなんかしちゃって』

「別に知らないフリなんかしてないけど……。でも、じゃあ、どうしてあの3人には触れなかったのに、どうして私はあの人(・・・)とは触れたの?」


それが一番の謎だ。

果たして軍服マントがその理由を明かしてくれるかはともかく、昨日の感じからは、何か(・・)を知っていそうだと思った。

すると軍服マントは『そうねえ……』と、ちょっと考えるように腕を組みつつ頬に手を当てた。


『たぶん、あのヒト(・・・・)が大きな力を持ってるからじゃないかしら?』

「大きな力?……って、昨日も言ってた、その……人の名前を呼ぶだけでその人を……って、あれのこと?」

『そうそう。あのヒト(・・・・)ならそれが現実になっても不思議はないもの。だから、お嬢ちゃんとも触れることができたのかもしれないわ』

「なるほど……」


私は一旦納得したのち、


「………あれ?ちょっと待って。昨日、あなたも一般よりはパワーがあるとかなんとか言ってなかった?ということは、あなたもあの人(・・・)と同じで、私と直接触れるんじゃないの?」


ふと降ってきた疑問をぶつけてみた。

軍服マントは俊敏に反応した。



『やだ何それスッゴク面白そう!やってみましょう!』


両手をパン!と叩いて、ウキウキわくわくといった妙なハイテンションだ。

でもせっかく乗り気になってるなら今のうちにと、私はごくりと唾を飲んで右手を差し出した。

そして軍服マントも私に手を向けた、まさにそのとき―――――



『おや、二人揃ってここにいたのか』



どこからともなく、万葉集女王が姿を現したのだった。


「―――っ!びっ…くりした……」


私も軍服マントも、反射的に手を引っ込める。


『あら、おはようございます。あ、ねえお嬢ちゃん、さっきの話、直接ご本人にお訊きしてみたらどうかしら?』

「え?ああ、そうね…」


唐突な提案にも、私はそれもそうかなと納得した。


「あの、ちょっと訊きたいことがあるんですけど……」


どうも万葉集女王には敬語になりがちで。

だけど私は、いつも彼女がそうしてるように、今日もすんなり私の話を聞き入れてもらえるだろうと思い込んでいた。

ところが、


『それは構わぬが、先に我の話を聞いてはもらえぬだろうか』


万葉集女王は珍しく自らを優先させたのである。

その威厳から、いつもはわざわざ主張せずとも万葉集女王が優先されていたけれど、この時は、自身が望んでそれを求めたのだ。

この意外な返答に、私は「それは、もちろん……」と頷くしかなかった。


『ありがとう。実は少々前ほどから、其方と似た気配の者がこの家に近づいてきているようだ。其方にも其方の弟御にも似た気配だが、我はこれまでに一度も顔を合わせたことのない者だ』

「え………?」


万葉集女王が言ってる ”弟御” というのは、たぶん文哉のことよね?

だったら、私や文哉に似た気配の人間ということで…………それてって、ひょっとして…………



『えらいこっちゃえらいこっちゃ――――っ!!!!』

『超ベリベリベリービッグニュースですっっ!!!!』


私が万葉集女王に詳細を尋ねようとした瞬間、袴三つ編みと烏帽子男が壁をすり抜けて居間に飛び込んできたのだ。


『どうしたの?アナタたち。ゴーストでも見た顔してるわよ?ああ、ゴーストはアタシたちよね。うふふ』

『そんな冗談()うてる場合ちゃうねん!』

『ザッツライトです!!』

『だからどうしたのよ?』

『今、玄関に!』

『スクールユニフォームの!』

『男の子が!』

『フォトグラフのボーイです!』

『大きい方の!』

『ユアブラザーです!』


二人の掛け合いのような返事に、私は一目散に駆け出していた。


まさか、まさか音弥が…………?













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