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わけがわからない人はわからんままでいいと思います。
まだまだ雨は続いて、天気のせいか暗く重い雰囲気になる。そろそろ中間テストが始まるのもあって、勉強に勤しむ人が増えた。
そんな6月のある日、アタシはまた一人で帰っていた。最近はなかったけれど、やっぱり誰かと付き合ってフってフラれてを繰り返していたんだろうか。少し、気分が落ち込む。
今日は、特に夕飯のおかずとか買う必要はなかったけれど、なんとなくでスーパーのある道を歩いていた。別に、天澄を探しにきたとか、誰とデートしてるのか気になったとか、そういうのじゃない。
その周辺は人で賑わっているけれど、少し外れたところは薄暗くて、あんまり治安が良いとか言えない雰囲気がある。スーパーのある通りから、アタシの家がある道に行く時、そこの近くを通り抜けなきゃいけない。
特に用事がないのにくるんじゃなかった、と少し後悔しながらそこを通り抜けようとした時、暗い路地裏から天澄が出てくるのが見えた。
思わず足が止まる。どういうこと?「デートしてくる」とかメッセージに入れていたくせに、全然そういう風には見えない姿をしていた。顔とか少し腫れてるし、手には血が滲んでる。
「アンタ、何してんの?!」
と、声をかけた時、びくりと天澄は肩を震わせた。なんだか少し、怯えているような印象を持つ。アタシの方を見た天澄は、なぜだか自嘲めいた乾いた笑みを浮かべていた。
「酷い怪我してるじゃん!」
でも、そんなことは関係ない。怪我をどうにかしないと。バイ菌が入って化膿とか悪化したとか、そんなことになったら困るだろうし。
急いで近くの薬局で消毒液とガーゼを買ってきて、怪我の消毒だけは済ませた。天澄の手を握った時、その手が少し震えてるのに気付いた。……このまま放って置いて大丈夫だろうか。
「まき、離れて」
なんて、天澄はアタシを遠ざける。
「そんなこと言ったって、今のアンタの状態見て放っておけると思ってんの?」
とりあえずここから移動しなきゃ。天澄の手を引いて、住宅街の方へ移動する。天澄は少し前屈みに歩いていて、見えないところも怪我しているんじゃないかと、焦燥を駆り立てる。
まだ雨は続き、空気がじっとりと鬱陶しい。そろそろ中間テストが始まるケド、ボクには関係ない話。
そんな6月のある日、ボクは人気のないところに呼び出された。だから、先にまきへ「デートしてくる」ってメッセージを送っておいた。なんとも思わないだろうケド。
でも本当のそれは、以前付き合った相手の因縁だとか、ボクを良く思っていない相手とかからの策謀だった。もちろん、相手は返り討ちにした。あの程度の雑魚なんて、ボクの敵じゃない。
殴って、殴られたところが熱を持って、じんじんと痛む。見ると、拳の方が切れていた。顔は多分、大丈夫。跡が残りそうな攻撃からは守ったし、少し冷やせばすぐ治る。
「(……つまんないなァ)」
相手が弱過ぎる。でも、多対1だったし沢山の暴力を避けるのにはスリルがあった。一番の問題は、この興奮を抑える事だ。帰ろうと路地から出たその時、
「アンタ、何してんの?!」
と、彼女の声がかかった。……しまった。夕飯のおかずを買う日じゃないだろうからって油断してた。こんなところを見られたら、嫌われてしまう。そう、思いの外落胆している自分に少し自業自得か、と嘲笑が漏れた。
「酷い怪我してるじゃん!」
と、彼女はボクを拒絶することなく、心配してくれるようだ。そして、彼女はわざわざ近くの薬局まで消毒液とガーゼを買いに行って、ボクの怪我を手当てしてくれた。
誰かに心配してもらうなんて、初めてだった。いつも、怪我をしても、痛めても、気にもされなかったのに。それを隠していたのに。
痺れるような衝動が、嬉しさで甦る。手が震える。こんな、すごく興奮してるタイミングで甘い香りのキミが近くまで来るなんて。不用心過ぎるよね?ボク、あんまり我慢強い方じゃないんだよ?
でも、こんなタイミングじゃあ、さすがにホントに嫌われるだろうから理性を総動員して堪える。
「まき、離れて」
なけなしの理性が、彼女を離そうと肩を押す。
「そんなこと言ったって、今のアンタの状態見て放っておけると思ってんの?」
キミの為に言ってるのに。そんなボクの思いも関係なく、まきはボクの手を引く。歩いてる間に、熱は引いてくれるかな。少し前屈みに歩くけれど、彼女は気にしてないんだろうな。




