第8話 運が良ければ封印は簡単に解ける
「なんだか凄いことになったな……」
「ブラッディベアを倒したんですから、英雄扱いされても無理はないと思いますけどね」
サミ村入り口近くにて、今まさに村に入ろうとしていた厄災級の魔物、ブラッディベアを倒した俺とルリ。
それを目撃したサミ村の人たちは、真夜中にも関わらず、俺たちを歓迎するための宴を開いてくれたのだ。
「ヒカル様! どんどん食べてくださいね!」
「おかわりはたくさんありますから!」
「あ、ありがとう」
村の人たちにお礼を言ってもらえるのは嬉しいことなのだが、俺には凄いことをした自覚がないので、リアクションに困る。
「それにしても、ヒカルさんとてもカッコ良かったです!」
「カッコ良かった? 一体どこが?」
「あんなに大きいブラッディベア相手に、思い切り跳かかったところですよ! あれは、そうとう勇気がないとできないことだと思います!」
「そうなの? 俺は、首を攻撃するには高さが足りないからジャンプしただけなんだけど」
「……前から思っていましたけど、やっぱりヒカルさんは何かがおかしいです!」
い、いきなりルリにおかしい呼ばわりされた……。
俺のメンタルにかなりのダメージだ。
これ以上傷を大きくしないためにも、まずはルリの誤解の原因を解かねば……。
「お、俺のどこがおかしいんだ?」
「伝説の神器や道具を簡単に見つけたり、もともとこの世界にいたわけじゃないのに、魔物と戦うのを全く怖がってなかったり、とりあえず色々おかしいです!」
あー、確かにそれはおかしいな。
正確にはおかしいのは俺じゃなくて、俺の運なんだけども。
この際、ルリには正直に説明するか。
「ルリ。ちょっと俺の話聞いてくれる?」
「ヒカルさんがおかしい理由なら聞きます!」
「うん、その話だ。実を言うとだな……」
俺は、生まれてからずっと、運が良すぎることを包み隠さずルリに話した。
「……というわけだ。今まで黙ってて悪かった」
「ただ運が良いだけで、こんなに色々不思議なことが起きたんですか?」
「イエス。最初は信じられないかもしれないけど、これが俺の運の良さなんだよ。な? 俺は何も凄くないだろ?」
「いや、ヒカルさんはやっぱり凄いですよ! ほら、運も実力の内って言うじゃないですか!」
う、運も実力のうち、なのか?
まさか、異世界でことわざを聞くことになるとはな。
まあ、ルリに褒められるならなんでもいいんだけどな!
◇
次の日、俺たちはサミ村の村長の家にいた。
勇者パーティーにいた賢者、ミサト様の情報を聞くためである。
「本来なら、よその村の者にミサト様のことは話せないのじゃが……、ヒカル様ならオーケーじゃ」
「え、ホントにいいんですか?」
「かまわんかまわん。ヒカル様はサミ村の英雄じゃしな。それに、なぜかはわからんが、ハヤテ様の剣を持っておられるからのぉ」
「あ、ありがとうございます!」
ブラッディベアを倒しといて良かった〜。
それに、神速の剣がこんな所で役に立つとは。
「さて、ミサト様に関することは全て話すつもりじゃが、その前に神殿に行くとするぞい」
「神殿?」
「ミサト様を祀るために建てられた神殿じゃよ」
おお、そんなものがあるのか。
それはぜひ行ってみたいな。
俺たちは村長に案内してもらい、神殿に向かった。
サミ村から徒歩数分の所に神殿はあった。
「お、大きいですね」
「凄い迫力だな」
「それでは中に入るとするかのぉ」
中に入ってみると、そこには大量の石版と、大きな扉があった。
扉はともかく、この石版はなんだ?
「あ、言い忘れておったが、ここから先に行こうと思うなら、その扉の封印を解くのじゃぞ。もっとも、わしの知る限り封印を解けた者はいないがな」
「えーっと、その封印はこの石版を使って解くんですよね?」
「その通りじゃ。その石版をうまくはめれば扉は開くぞい。一つでも違うところにはめたら、その瞬間封印の形が変わって、一からやり直しじゃがな」
なるほどなるほど。
これは……勝ったな。
今こそ俺の実力を見せる時だ。
「これをここにはめて、これはそこで、それはあっちで……」
俺は石版をはめ始めた。
もちろん、俺は正しい封印の解き方なんて知らない。適当にはめ込んでいるだけである。
だが……、
ゴゴゴゴゴゴ。
適当であっても、とりあえずはめれば、俺の場合必ず扉は開く。
俺の運、やっぱりヤバイ。
「な、なんでじゃ? なんで扉が開いたんじゃ?」
「詳しくことは、俺もわからないので聞かないでください」
そう言うと、俺は先に進んだ。
ルリはもう慣れてきたのか、あまり驚かずについてきた。
神殿の奥は広いものの、何もない空間が続いた。
だが、一番奥には、俺の運やっぱり……、と言いたくなるものがあった。
「こ、これは、太陽の杖?」
そこには、光り輝く杖が存在した。
ルリ曰く、これはミサト様が使用していた、太陽の杖というらしい。
ちなみに、ルリは今銅の杖を武器としている。
どう考えても、銅の杖より、ミサト様が使っていた太陽の杖の方が強いだろう。
と、いうことで……、
「ルリ。これはルリが使えよ」
「い、いいんですか?」
「ああ、この壁にも、ここにたどり着いた者にこの杖を授ける、って書いてあるしな」
「ありがとうございます! 私、大切にします!」
◇
村長からも、太陽の杖を神殿から持ち出す許可を得ることができた俺たちは、これからも旅を続けることにした。
サミ村の人たちに送り出してもらった俺たちは、タヤルトという街を当面の目的地として、再び歩き始めた。
「これからもよろしくな、ルリ!
「はい! よろしくお願いします、ヒカルさん!」
俺たちの旅は、まだまだ始まったばかりだ!