第7話 運が良ければ厄災級の魔物は一撃で倒せる
ビックカウを無事討伐した俺たちは、要塞天幕で寝る準備をしていた。
「いやー、さすがに一日中歩くと疲れるなあ」
「私もこんなに歩いたのは初めてですよ。今日はよく眠れそうです」
お互い、そこそこ疲労が溜まっているらしい。
寝巻きに着替えて、さっさと寝るとしよう。
うん? 寝巻きに着替えて?
「ヒカルさん、早く着替えて寝ましょうよ〜」
そう言うルリの方から、何やら物音が聞こえる。
これは……、間違いなく、ルリ着替えてるな。
よく気づいたぞ、俺! これは対処可能!
「オッケーオッケー。ちょーっと待ってくれ」
よしよし。このまま時間を稼げばミッションコンプリートだ!
「何してるんですか?」
「うわあぁぁ!!」
おい、ルリ! こっちに来るなよ!
ガッツリ下着見ちゃったぞ!
「なんで驚いてるんですか? あ、ヒカルさん何もしてないじゃないですか! 嘘つくなんてヒドイです!」
「そりゃ驚くだろ! ルリには、恥じらいというものがないのか!?」
「なんで私が恥ずかしがらなきゃいけないんですか?」
「……は?」
えーっと、もしかしてだが、ルリには常識が欠落しているのか?
間接キスを知らないのはまだしも、さすがに、下着姿で異性の前に出ることを、全くためらわないのはおかしいだろ。
「さっきから言ってることがめちゃくちゃですよ、ヒカルさん。一体どうしたんですか?」
「すまん」
「え?」
よくよく考えてみれば、ここは地球ではなく異世界である。俺の知っている常識が通用しなかったとしても、別におかしいことではない。
そもそも、間接キスや一緒に寝ることを恥ずかしがるのは、それらのことを意識している証拠ではないか。そうだ、そうに違いない。
そうして俺は、今までに起きたことを全て気にしないことにした。
決して、ラッキーなどとは思っていない。絶対に。
「色々変なこと言って悪かった、ルリ。俺もすぐ着替えるよ」
「私なら大丈夫です!」
よし、これで全て合法的に……、ゲフンゲフン。
これで全て解決だな!
寝巻きに着替えて寝るとしよう!
「ヒカルさん。布団、敷きましたよ〜」
「ありがとう。俺も今着替え終わった……へ?」
おかしい。おかしいぞ。なんで布団が一枚しかないんだ!?
「ル、ルリ? なんで布団が一枚しかないのかな?」
「布団は、二枚に分けて買うより、大きいの一枚を買った方が安かったからです!」
「へ、へぇー。そうだったんだ……」
「かなり大きいですから、二人で寝ても全然問題ありません!」
もうこれは、喜んでいいのかどうかわからないぞ。
ルリと一緒に寝られるなら、それは嬉しいことなんだけど……。
こうも色々続くと、俺の中での常識がおかしくなりそうだ。運が良いとかいう次元を超えている気がする。
(いや、ダメだダメだ! 気にしたらダメだ! 無心に、無心になるんだ!)
覚悟を決めた俺は、布団に入った。
と、同時に明かりを消してくれたルリも、布団に入ってくる。
「ヒカルさん、おやすみなさい」
あ、これは、気にしないとか絶対に無理ですわ。
俺、今日寝られるかな……。
◇
次の日、俺たちはときどき魔物と戦いながら、勇者様と共に魔王を倒したとされる賢者、ミサト様の出身地であるサミ村を目指して再び歩き始めた。
何? 結局昨日の夜は眠れたのかって?
安心してくれ。ルリのことが気になって全然眠れなかったよ。
しかし、睡眠不足でありながら、俺は魔物との戦闘を問題なくこなすことができた。
なぜなら、全ての魔物が、神速の剣で一撃だったからな。これなら百匹同時に出てきても勝てる気がする。
ちなみに、ルリは後方から魔法による支援や攻撃をしてくれる。
ルリの魔法はタイミングが抜群で、今のところ苦戦どころか、ダメージすら受けていない。
その調子で歩き続けていると、前方に村が見えた。
時刻は俺の腹時計で、午後五時。おそらくあれがサミ村だろう。
「ヒカルさん。サミ村が見えてきましたよ!」
「だな。思ってたよりも大きな村だな」
「サミ村はこの辺りの地域では、一番大きい村ですからね」
これだけ大きければ、ミラナ村で買えなかったものの購入や、消耗品の補充は簡単にできそうだな。
見た感じ雰囲気も良さそうだし。
「よし、今日は村の宿に泊まるとするか」
「賛成です!」
「なら、早めに村に行かないと……」
ゴゴゴゴゴゴ……。
気のせいかな? サミ村の方から大きな音が……。
「ヒカルさん! サミ村の入り口近くに、大きな魔物がいます!」
「なんだって!?」
村の入り口に魔物だと? それはかなりヤバイ状況だぞ!
「とにかく急ごう、ルリ!」
「わかりました!」
そう言うと、俺たちは猛ダッシュでサミ村へと向かった。
そして、村に近づくにつれて、魔物の大きさが……、
「この魔物デカすぎるだろ!」
村近くにいた魔物は、ビックカウの数倍は大きな熊だった。
今は四つ足で立っているが、それでもデカイ。
こいつが村に入ったら大変なことになるぞ。
「ルリ! 俺に身体強化魔法頼む!」
「はい!」
ルリはサミ村に向かう途中に、自分が使える魔法のレベルはそれほど高くないと言っていた。
だが、そう言うルリ本人が、「この魔法には自信があります!」と言った魔法、それが身体強化魔法である。
身体強化魔法。
その名の通り、付与した人の身体能力を強化する魔法である。
俺は、この魔法をルリに付与してもらい、巨大熊の首に剣が届く高さまでジャンプしようと考えたのだ。
身体強化魔法の効果は、ここに来るまでの道中で確かめている。
巨大熊が二本足で立っていたら届かないだろうが、今熊は四つ足で立っている。
これなら届く。
「付与できました!」
「了解! 行くぜ、巨大熊!」
そう叫び、俺は熊に向かって全力ダッシュした。
身体強化魔法のおかげで、走る速さも上がっている。
巨大熊までは、ほんの数秒だ。
「うおぉぉ!」
巨大熊の足元に着いた瞬間、俺は思い切り地面を蹴った。
後は、神速の剣で、この熊の首を切るだけだ。だが……、
「クッ!」
どうも、ギリギリ届きそうにない。
だからといって諦めるわけにはいかない。
この状態から届きそうなのは……、
「目だ!」
巨大熊は四つ足で立っているため、首より目の位置の方が低い。
片目を切ったところでたいしたダメージにはならないだろうが、遠近感を奪って、時間を稼ぐぐらいならできる。
「くらえぇぇ!!」
ザシュ。
神速の剣が巨大熊の右目に突き刺さった。
ズドドーン。
巨大熊が倒れた。
「はああぁぁ!?」
俺は大声で叫んだ。
ところで、これは後からルリに聞いた話なのだが、この巨大熊の名前はブラッディベア。一匹で村や街をいくつも破壊する厄災級の魔物らしい。
そして、ブラッディベアには弱点がある。
察しのいい人は、ここまで言えばもうわかるだろう。
そう、ブラッディベアの弱点は、目である。
「まさか、目を刺すだけで倒せるとは……」
まあ、倒せたのならいっか。
それにしても、ルリの身体強化魔法はエグいな。試しに付与してもらった時も思ったけど。
しっかりお礼をしないと……、
「おい、見てみろ! ブラッディベアが倒れてるぞ!」
「本当だ! 一体誰が……」
「俺見てたぞ! そこにいる少年だ!」
「なんだって!? みんな、この少年をサミ村の英雄として歓迎するぞ!」
あれ? なんだか凄いことになってないか?




