第6話 運が良ければ美少女と一緒に寝れる
「どうしたんですか、ヒカルさん? なんだか顔赤いですよ?」
「な、なんでもないよ。ちょっと疲れただけだから大丈夫大丈夫」
「そうですか。なら、もう少し休憩しましょうか!」
「そ、そうだな。ありがとう」
よし、なんとか顔が赤くなってる原因をごまかせた!
だが、顔が赤くなるのも無理はない。
人生初の間接キスだぞ。しかも、ルリみたいな超可愛い子と。
(間接キスを知らないルリには申し訳ないが、今回のことは黙っておこう。それにしても、まさかルリと間接キスできるとは、俺の運、やっぱり……あ!)
ここで、俺は大変なことに気づいた。
今後、旅を続ける上で、俺たちは無限の聖水で水分補給をしなければならないのだ。
それは、これからも間接キスをしないと水が飲めないことを意味している。
(俺としては、ルリと間接キスできるのは願ってもないことなんだけど……。これ以上、ルリに事実を隠しながら間接キスをするのは気が引けるな。どうにかして対策を考えないとな)
今後の対策は考えないといけないが、今は素直に喜んでもいいだろう。
俺に悪気があったわけじゃないしな!
◇
その夜、俺たちは要塞天幕を組み立てた。
組み立て終えた途端、要塞天幕を中心としてかなり大きな結界が展開した。
「これが要塞天幕ですか。大きい結界ですねぇ」
「だな。これは安心して寝れるぞ」
要塞天幕も凄さはこの結界だけではない。
天幕の中の広さもヤバかったのだ。二人で寝るには十分過ぎる広さである。
天幕の中でめちゃくちゃくつろぎながら、ルリが作ってくれた晩ご飯を食べた。
美味いご飯でお腹がいっぱいになり、そろそろ寝ようかなと思った時、外で音がした。
「なんの音ですかね? そんなに大きくはなかったですけど」
「天幕の入り口の反対側から聞こえたな。ちょっと様子を見てくる」
「気をつけてくださいね」
「ああ。結界からは出ないから大丈夫だよ」
そう言うと、俺は神速の剣を持って、天幕を出た。
そのまま天幕の裏側へ向かうと、そこにいたのは牛だった。どうやら音の原因はこいつらしい。
それにしても、この牛……
「大きいな、おい!」
「仕方ないですよ。この牛、ビックカウっていう魔物ですから」
「え? こいつ魔物なのってうわぁ! なんでここにいるんだよ、ルリ!」
「すいません。ヒカルさんが心配で来ちゃいました」
「そ、そう」
結界からは出ないから大丈夫って言ったのにな……。
でも、俺のことを心配してくれるのは嬉しいから、別にいいんだけど。
それより、やっぱりルリめちゃくちゃ可愛いな!
こんな子に心配してもらえるなんで、俺めっちゃ幸せ者だぞ!
「ても、安心してください、ヒカルさん。ビックカウはそんなに強い魔物ではありませんから」
「え、そうなの? こんなにでかいのに?」
「大きさと強さは比例しませんから」
「それもそうだな」
なら、まだ一回も魔物と戦ったことがない俺でも勝てるかもしれない。
「ルリ、こいつとは俺が戦う」
「わかりました! 頑張ってください!」
「おう、任せろ!」
俺は神速の剣を鞘から抜いて、結界の外へと出た。
当然、ビックカウは俺を目がけて突進してくる。
ここで、俺の能力を一つ紹介しておこう。
それは、俺の目の前で何が起きたとしても、ビビらない、という能力である。
幼い頃から幸運だった俺は、ケガをしたことがない。
大きなケガどころか、かすり傷一つ負ったことがないのである。
そして、ある頃から俺は、自分はケガをしない、と確信した。(それだけに交通事故に遭ったのはかなり衝撃的だったのだが)
そう確信した時から、俺は起こることに対して、ビビることがなくなった。
どうせケガをしないんだから、何があっても大丈夫だと思い始めたのである。
つまり、異世界でかなり大きい魔物が突進してきているこの状況でさえ、俺にとってはなんともない。
「ハッ!!」
突進してくるビックカウをかわし、その首に向けて神速の剣を一閃。
ドッ。
それだけで、ビックカウの胴と首は離れた。
恐ろしい切れ味だな、この剣。
「い、いくらビックカウが弱い魔物でも、戦闘経験の少ないヒカルさんが一撃で倒すなんて……」
「戦闘経験は少ないどころか、これが初めてだけどな」
「えぇっ! それで一撃ですか!? ヒカルさん凄すぎますよ!」
「俺の力というより、神速の剣がヤバイだけなんだけどな」
「確かに、その剣も凄かったですけど、攻撃する前にビックカウの突進を避けたのなんかは、ヒカルさんの実力ですよ! あんなギリギリで攻撃を避けられる人は、そんなにいないと思います!」
「自分じゃあ、そんなに凄いこととは思ってないんだけどな」
まあ、ルリに褒められるのは嬉しいからいっか。
避けるだけならできるし、これからもカッコいいとこ見せられるかもな。
その後、ルリの指示で、比較的高く売れる部位を、ビックカウから剥ぎ取り、俺たちは天幕に戻った。
「これを売ればルリに少しはお金返せるかな?」
「お金は返さなくていいって言ってるじゃないですか」
「いや、それは返さないとダメだ。じゃないと俺のプライドが……あ」
その時、俺はある意味間接キスよりも大きな問題が、俺の身に迫っていることに気づいた。
俺はこれから、要塞天幕の中で寝ようとしている。ルリと二人で。
(こ、これは、どうしようもなくないか!?)
なんで、俺はこのことに気づかなかったんだ!
結婚前の異性が二人きりで夜を過ごすなんて、どう考えてもヤバイだろ!
「ヒカルさん? 急に黙って、どうかしたんですか?」
「い、いや、その、なんというか……」
「一体何を言ってるんですか? 早く寝ないと、明日も結構歩くんですよ?」
俺は、そう言ったルリの言葉を聞いて、ルリが俺と一緒に寝ることに何も疑問を抱いていないことを悟った。
(えーっと、ルリが嫌がっていないなら、一緒に寝るのも……もしかしてセーフ?)
俺の思考が、ダメな方向に傾いているのは認めよう。
でも、でもな、これはどうしようもできないことなんだよ。
俺が外で寝ると言っても、ルリに止められるのは目に見えてるしな。
ということで……
(俺の運、やっぱりヤバイぜ!!)
ちなみに、この時の俺は、この後にもう一つ問題が控えていようとは、微塵も思っていなかった。