第2話 運が良ければ隠し部屋は簡単に見つかる
「申し遅れました。私はルリっていいます!」
「俺は天、いや、光です! よろしく、ルリさん!」
「よろしくお願いします! ヒカルさん……、素敵な名前ですね!」
「あ、ありがとう。ルリさんの名前も良いと思う」
「ありがとうございます! あ、呼び方、ルリでいいですよ!」
「そ、そう? じゃあ俺も光でいいよ!」
「私はヒカルさんって呼びます!」
(……まあ、そこはさん付けでもいいか)
それにしても、なんて素晴らしい時間なんだろう。こんな可愛い子と二人きりで話ができるとは。
俺の運、やっぱりヤバイ。
ちなみに、さっき俺が天草光とフルネームを名乗らなかったのは、異世界なら光だけの方がそれっぽいかな、と思ったからである。
ルリとの自己紹介を終えた後、まず俺は、一回別の世界で死んでしまったことや、その後異世界に転生してしまったことなど、今俺の身に起きていることを全てルリに話した。
異世界に転生したという、俺でもまだ信じきれてない話を、ルリは全く疑わずに聞いてくれた。そして、「きっとなんとかなりますよ!」と励ましてくれたのだ。
もうダメだ。これ以上の癒しがこの世の中にあるだろうか?
いや、まだこの世界のこと全然知らないけども。
「でも、ヒカルさんはこれからどうすればいいんですかね? なんなら、ここにずっといても大丈夫ですよ?」
「いや、さすがにそれは申し訳ないですよ」
「私は全然問題無いです! それと、敬語は使わなくていいですから」
「そう? それなら、俺にも敬語はいらないけど……」
「私は使います!」
それは理屈が通らないような……。
けど、意地っ張りなルリが可愛いから良しとしよう。
「そう言ってくれるルリの気持ちは嬉しいけど、生活費とか色々かかるし……」
「私、こう見えても結構稼いでるんです! ヒカルさん一人増えるだけなら全然大丈夫です!」
「それでも、やっぱり申し訳ないよ。俺の生活は自分でなんとかするからさ」
「なら、生活が安定するまではこの部屋を使ってください! それと、困ったことがあったら、いつでも言ってくださいね。ご飯は作りますから、心配しなくていいですよ!」
「あ、ありがとう。それじゃあお言葉に甘えようかな……」
それ、かなりの部分を養ってもらうことになる気がするんだが……。
かと言って、俺一人ではどうにもならないことは事実だ。ここは、ルリの気持ちに甘えよう。……やましいことを考えているわけではない、決して。
「とりあえず、今日と明日は安静にしておいてください!」とルリに言われたので、二日間はダラダラして過ごした。
ちなみに、ルリが作ってくれた料理は「なんじゃあこりゃあーー!!」と、思わず叫びそうになるぐらい美味しかった。
◇◇◇◇◇
「よし、今日から頑張るか!」
ルリに言われた二日間、安静にしていた俺は、今日から仕事をすることにした。ただ、仕事をするといっても、俺にはこの世界の知識が全くない。
そこで、まずはルリに言われた通り、冒険者ギルドなるところに行ってみることにした。
ルリの説明によると、この世界に住んでいる人は、二種類のタイプに分けられるという。一つは、村で店を開いたり、農業をしたりする人たち。もう一つは、冒険者として村の外を駆けまわり、魔物を倒したりして収入を得る人たちだ。
ちなみに、ルリは村にある店で働いているらしい。そこそこ大きな店で、収入もいいんだとか。
俺も、最初は店で働こうと思っていた。異世界を一人で冒険などできる気がしなかったからだ。しかし、ある考えを思いついてしまったので、一転冒険者になることにしたのだ。
俺が思いついたこと。それは、運に頼って大儲けすることだった!
こういうファンタジーめいた世界には、ダンジョンや迷宮があるはずだ。そして、そういう場所には宝箱があるのがお約束である。
そこで俺は、冒険者になって宝箱を開けまくり、持ち前の運を頼りに、凄いお宝をたくさんゲットしようと考えたのだ。
(我ながら素晴らしい案を思いついたなあ)
その時の俺は、自分が天才か何かだと勘違いしていたらしい。
後から考えると、俺がどれだけアホだったかがよくわかる。
なぜなら、俺がやろうとしていたことは、どこをどう見てもただのギャンブルだからである。
しかし、そういうギャンブルは、俺がやると100%成功する。
そう、今回のように。
◇◇◇◇◇
冒険者ギルドで冒険者登録手続きを終わらせた俺は、武器や防具を一通り揃え、村近くのダンジョンへと向かった。
え? お前財布も何も持ってないのに、どうして色々揃えられたのか、だって?
そんなの決まってる。ルリがお金をくれたからだ。可愛いくて、性格良いとかもう神ですわ、彼女。
さっさと大金稼いで、ルリに恩返しをしないとな!
「これがダンジョンか。思ってたより小さいな」
俺の目の前には、いかにも初心者向け、といった感じのダンジョンがあった。
まあ、俺冒険初心者だし、これぐらいのレベルがちょうどいいよね。
「よし、行くか!」
そう思って意気揚々とダンジョンに入ったのはよかったのだが、そのやる気が魔物に向けられることはなかった。そう、一匹も魔物と遭遇しなかったのである。
「こんなところで運の良さを発揮しなくてもいいのにな……。まさか最下層に来るまで、一回も魔物と会わないとは……」
確かに、俺は宝箱目当てでダンジョンに来た。そういう意味では、運は良いのかもしれない。
しかし、冒険初心者の俺でも倒せるレベルの魔物は何匹が倒そうと思っていたので、この運の良さはありがた迷惑である。
ちなみに、最下層にあった宝箱はもうすでに開いていた。まあ、ここ初心者向けダンジョンだし、当然といえば当然だが。
「さて、この後どうすっかな……」
最下層までは来たが、まだダンジョン内全てを探索したわけではないので、ダンジョンを全部を見てまわるか?
それとも、魔物に会うまでダンジョンを歩きまわるか?
「いや、休憩しよう」
魔物と全く遭遇しなかったとはいえ、最下層まで来たわけだし、初めての冒険だったこともあり、思いの外疲労が溜まっている気がする。
「よっこらせっと」
俺は、とりあえず休もうと、壁にもたれかかった。
すると、その瞬間、俺がもたれかかった壁が崩壊した。
「うわあぁぁ!!」
なんで壁が崩れたんだ!?
普通、ダンジョンの壁って壊れないもんだろ!?
「待てよ……」
ここはただの建造物ではない。ダンジョンである。そして、そのダンジョンの壁が、もたれかかっただけで崩れた。
これは……、
「隠し部屋、ってやつか?」
おいおい、ということはこの先にお宝が!?