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神楽坂探偵事務所bar  作者: 十代
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一人のバーテンダーの物語

地球上には自分一人しか存在していなかと思わせるほどに、店は閑散としていた。

「今日はもう閉めるか。」  

店内の片付けを済まし、一つ一つキャンドルの灯を消していった。最後の灯を消そうとした瞬間、玄関に付けてあるベルがカランカランと鳴った。店に駆け込んだことがわかる落ち着きのない音である。

「ごめんなさい、まだ開いてるかしら?」

そう言ったのは、40代半ばくらいの女性で、身なりは上流階級を思わせるような、毛布のような毛皮のコート、目には紫色のアイシャドウをこれでもかというくらいに塗りたくられている。しゃべり方も貴婦人といった感じである。この女性をみたら誰しもがマダムというあだ名を付けたくなるだろう。

「はい。開いてます」

閉店時間は午前2時だが、時計の長い針は10を指していたので本日は閉店だと言えなかった。もともと早く閉めたかったのは一人でこの空間にいると孤独感や閉塞感を感じ憂鬱になるからであって、来客は別に億劫ではなかったからだ。

「相談したいことがあるのよ。」

大体この店に来た客の一言目はこれである。しかし、男はここで決まって言う。

「すみません、うちはバーなのでそういうご注文は一切承りません。」

このような返答をプログラミングされたロボットのように言うのが営業中の大概の仕事になっている。店内は薄暗く、光源にはキャンドルが使われていて、棚にはお酒が陳列している。神楽坂というくらいだから辺りのお店は居酒屋、小料理屋、ガールズバーなどが占めている。それにも関わらず、なぜ訪問した客はこのようなこと言うのか。答えは明白である。

『神楽坂探偵事務所』

店の入り口の掛け軸にこの文字がかかれたプレートが引っ掻けてある。また、Googleマップで検索しても同じように神楽坂探偵事務所と出てしまう。そう、この店の正式名称なのである。男がここに勤めるようになってからすっとこの店名である。

 バーなのに探偵事務所という的外れな名前を原因に、男は数奇なバーテンとしての道を歩んで行くのであった。



「そこなんとかお願いできないかしら。」

このマダムは人の話を聞いてないのだろうか。それともバーであることを知っててのお願いだろうか。どちらにしろお願いには応じようとは思わない。しかし、バーを理由に一回断ったあとに諦めずにお願いをされたのは初めてのことだった。

「いいわ。とりあえず飲みやすいカクテル一つ。」

分かっていた上でお願いしたのか。少し頭にきた。逆に探偵事務所と間違えてバーにはいったのにカクテルを注文するという適応力には驚いた。この一連の思想を顔に出さないようにして既にしまわれていたカクテルをつくるための道具をとりだし、マダムのまえにグラスを置き、作ったカクテルを注いだ。

「どうぞ、こちらはファジネーブルです。」

「ふうん。」

といってマダムはグラスを傾け、のぞくように観察した。そして上品にその赤く分厚い唇にグラスを運んだ

「まぁまぁね。」

グラスを静かに置き、ぼんやりと遠くを見た。何か考えごとをしているようにも見えるし、カクテルの余韻に浸ってるように見える。何も言わずにため息をついている。空気が少し重たい。

「何か困ったことでも。」

男はこの空気を打開するためにさっきの相談内容を聞いてみようと思った。それ以外に会話は思い付かなかっただけだが。

「うちの子猫ちゃんが今日家出しちゃって、どこ探してもいないのよ。」

「それは困りましたね。なにか心当たりは?」

「外に出したことないから、どこにいったかわからないの。」

猫が家出してから、ずっと探していたらこの時間になり、帰ろうと思う矢先にこの店を見つけたとのことだった。どうやら探偵を雇って猫を探すのは手伝ってもらいたかったらしい。はなして、わざわさこの程度のことに探偵様を雇う必要あるのだろうか

「でも思うのよ。別に探偵じゃなくても、あなたでもいいわよね。」

男の心を見透かしたかのように言った。

「しかしですね…」

返答に困り悩んでると、

「あなたお金に困ってない?」

突然の言葉に男はマダムの力強い目とあってしまった。男を目で圧倒しながらいった。

「もし見つけてくれたら10万円報酬としてあげちゃうわ。」

「10万?!」

バーには似つかわしくない大きな声をあげてしまった。客は他にいないのでよかったがその声にマダムも少し驚いたようだった。

「明日は時間あるかしら?」

はい、と答えると、マダムは続けて

「じゃあ、明日の午後1時に近くの十字路の交差点の薬局の前で待ってるわ。じゃあそろそろ失礼しちゃうわね。お代は3000円でお釣りは結構。足りなかったら明日払うわ。」

と言い、嵐の如く店をでていった。最後の方はボクシングのインファイトでラッシュを決められてるのかのように言葉を発していて、着いていくのに精一杯になり気疲れでへとへとになった。店は2時をちょうど回った頃だった。店じまいを急いでやり、徒歩5分で帰れるアパートに帰り、食事、風呂を済ませすぐに床に就いた。寝る前に色々考えごとをしたが、10万円のことで頭がいっぱいになった。



初めて書きました。

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