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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
98/790

花の章 「北海道編5〜小樽〜」

小樽に向かう夕暮れの海沿いを白のストリームが走る。

秋は疲れたのか走り出してしばらくするとウトウトしだし、今は私の肩に頭を乗せスヤスヤと眠っている。

「寝たのか?」

助手席に座っていた住田さんが振り向いて秋の寝顔を眺めた。

「そうみたい。今日は展覧会で挨拶もしたし観光もしてきっと疲れたんだろうね」

ジーっと秋の寝顔を見つめている。いや、違うなこりゃ。意識があるかどうか注意深く観察している時の目だ。

「ちゃんす」

住田さんは低く唸るとスーツの胸ポケットからボールペンを取り出し秋に向け、そして



カチカチカチカチかチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ…


と連打した。

「まだ使ってんの?それ」

三太郎愛用ペン型カメラ。ぶっちゃけ工作員グッズとしては古いタイプのものだ。

「新しいもので手間取るより使い慣れたものが1番いい。何より失敗するリスクが低い」

「なんか秋のストーカーみたい笑」

私がクスクスと笑うと

「お前も気をつけろよ?こいつはしつこいからな笑」

と運転していた森さんがゲラゲラと笑った。






名残惜しさを残し観覧車を降りて秋を待っていたタイミングで住田さんの携帯が鳴った。

「出なくていいの?」

「出たくねぇんだよなぁ」

「誰?コレ?」

私は住田さんに向かって小指を見せる。

「ソレの真反対に位置する人」

「真反対?」

結局住田さんは電話に出なかった。

「よっと。どう?2人っきりで話せた?」

ぴょんと観覧車から飛び降りてきた無邪気な私の天使は小憎らしい笑顔でそう聞いてきた。

「ああ。フラれたよ」

そう言って秋の肩を抱いた。

「だからお前が俺の代わりに頼むな」

「そっかぁ。うん、わかった」

少し秋の表情が残念そうだった。

「ちなみに。お前は花が結婚しても良いのか?花の旦那になるって事はお前のお父さんになるって事とイコールだけど、お前はそれどう思ってんだ?」

残念の表情は爽やかな笑顔へと変容した。

「別に、いい。そりゃ変な人なら嫌だけど。花さんは多分そんな人選ばないと思うし、きっと俺のことまで考えて結婚するだろうから親子関係とかあんまり気にしなくて良いだろうし。花さんが選んだ人なら俺は何も言わないよ」

住田さんと私の顔を交互に見ながら秋はそう答えた。

「おい笑、だとよ」

ニヤニヤとした顔で私を見る。

「ほんと、我ながら真っ直ぐに育った良い子だよ」

私は秋の頬を両手で挟み、その手に力を入れると秋が変顔になる。アッチョンブリケ笑。

「褒めるならちゃんと褒めてよね。あ、住田さんまた携帯鳴ってるよ?」

住田さんは携帯をポケットから出して相手の名前を見た後、深く深くため息をついた。

「出てもいい?」

私の顔を見てそう尋ねる。

「出た方がいいんじゃないの?」

もう一度深いため息をつき、

「ねぇ、出た方がいい?」

と言いかたを変えて同じ質問を繰り返した。

「え?だから、出た方が、、、」

「いいのか?出ちゃうぞ?」

出たくないなら出なきゃいいじゃん。私のせいにしようとしないでよ。

「出なよ」

三度ため息をついてようやく住田さんは電話に出た。

「もしもし…」

「もしもしじゃねぇこのヤロー!テメェ今どこにいやがるっ!俺にばっかり面倒ごと押し付けやがって!ぷち殺すぞこのハゲっ!」

凄い!スピーカーにしてないのに声がここまで漏れてくる笑。

「あ〜ど〜もすんませ〜ん。反省してま〜す」

住田さんの顎が…しゃくれている。

「してま〜す、じゃねぇ!今どこだハゲ」

「ハゲはアンタでしょう。観覧車の下です」

「観覧車って…。お前らニセコまで行ったのか!」

「まさか。ノルベサですよ」

「すぐ近所じゃねぇか!さっさと戻ってこい!」

「え〜。めんどくさ〜い」

「おれはもっとめんどくさい事を今までしてたんだ!」

「これから小樽に行って寿司食べるんです」

「来ない理由になら…ん?小樽で寿司?俺も行く!」

住田さんが露骨に嫌そうな顔をしている。

「ほらぁ。だから電話出たくなかったんだよ」

そう言って私を睨んでくる。

「誰?」

「森社長」

えぇっ!と秋は声をあげた。

「ヤバいよ。俺途中で展覧会逃げて来ちゃった…。怒られるかな?」

「お前の仕事はあそこで終わりだから怒られはしねぇよ。ただこの人絶対小樽まで着いてくるぞ。GPS使ってでも」

「凄い、スパイみたいだね」

秋、目の前のその人、スパイだよ笑。ごっこだけどね。本職が遊びでスパイしてる最中だよ。

「わかりましたよ。一旦戻ります。どのみちちょっと説明しなきゃならん事態になりましたし。20分後、ホテル前に車着けて下さい。話はその時に」

電話を切ると四度深いため息をつく。

「ホテル戻る前にちょっとトイレ行ってくるね。またしばらく2人でごゆっくり笑」

小走りに秋はかけて行った。その後ろ姿を眺めながら

「フラれたって言ったじゃねえか」

と住田さんはボヤく。

「フってないじゃん。人聞きが悪い。てかそれより森社長ももしかして、誰か私が知ってる人?」

「森社長は実在するぞ。小梅花展のスポンサーなのも本当。けどお前らが見た森社長は別人。中身は最近娘が口利いてくれなくなったハゲた中年親父」

心当たりが1人しかいない。

「ザッキー?」

「ご明察」

きゃ〜!やった〜!ザッキー久しぶりぃ〜。

「てか何でこんな手の込んだ事してんの?」

そもそもの話をそろそろ聞かせていただきたい。

「あぁ。そうだな。そもそもはアレだ。こないだの話」

「こないだ?」

「あぁ。秋の文化祭に行くって話」

「もしかして、秋と会っても緊張しないように、とか?」

それだけでここまでやるなら、ただのバカでしょ。

「まさか。実はこないだもらった写真に知ってる子が写ってたんだ」

知ってる子?

住田さんはさっきとは別の携帯、私がよく見慣れている三太の携帯を取り出して何度か画面をタップした後私に差し出した。

「秋の隣にいる女の子。その子、俺のマンションに住んでて良く顔合わせるんだ。だからたとえ秋が俺の事わからなくてもその子は俺のことを認識できてしまう。その子が知ってるって事で秋も練生川三太郎を認識してしまうだろ?それはちょっとマズイかなって思ってな」

「アンタあのバカでかいマンションに住んでたの!はぁ、これだから国家公務員は…」

国家の狗め!

「お前も国家公務員だけどな」

「私はパートタイマーだよ!」

時給で親子2人暮らしてんだよ!

「この話やめてもいいか?」

「ダメっ!」

「なら最後まで話を聞け。ちょっと本業の方で森を拘束することになったんだが、小梅花展の話が出て来てな。資料読んだら茜さんが招待されてたけど一身上の都合でキャンセルになったって書いててな。それでちょっと閃いたのよ。お前と秋を北海道に呼んで住田って男と知り合って秋の文化祭に俺ではなく住田として行くってのはどうかって。それだとその女の子も俺だとは気付かないだろ?」

何で回りくどい…。

「だから森を拘束したことはしばらく内緒にして山崎さんに森役を頼んだってわけ。最初は嫌がってだけど花と会えるとわかるとノリノリだったぞ笑」

相変わらず可愛いなザッキー。

「というわけでまだ住田と森の正体を秋に知られるわけにはいかないから。お前もちゃんと演技しろよ?」

「わかったよ。まったく。人のことめんどくさいめんどくさいいう割にアンタの方がめんどくさいよ」

秋が戻って来た。

「お待たせ。仲良くしてた?」

まぁまぁな、と住田さんは秋の頭に手を置いた。

「さあホテル戻るか。ハゲが待ってる」

「え?森さんてハゲてなかったよね?」

さっそくアンタがやりやがってるじゃない!

「秋、絶対にバラすなよ?森社長はな?ヅラだ!」

まあ確かにヅラだよね笑。

「わかった!絶対に髪の毛の方は見ないようにする」

人間は不思議な生き物で見ないように気をつければ気をつけるほど見てしまう。同じように、笑わないよう笑わないようにすると思わずニヤッとしてしまう。秋がホテルの前で森社長に会った時、秋の目線はしっかりと森社長のヅラを捉えていた。しかし秋は優しい子だ。ちょっと強い風が吹くたびに森社長の頭皮の被り物に手を差し出そうとしてしまう。ねぇ秋?それはね、優しさとはちょっとだけ違うのよ?見て見ぬふりも大人の優しさの1つなのよ?




「久しぶりだな花。元気だったか?」

運転しながらバックミラーで私と目が合った。

「元気だよ。ザッキーも元気そうで良かった」

俺はいつでも元気だよ、とガハハと豪快に笑う。ちょっとしゃがれた渋い声。顔はいま森社長だけど、昔懐かしい元上司の声だった。

「あの頃は歳も若かったけど、今も全然変わんねぇなぁ」

「可愛い?」

「あぁ。娘の次に可愛いよ」

えへへ〜。褒められた。

「そういや娘さん口利いてくれないんだって?」

私はそんな時期が来なかったけどそんな年頃の女の子は周りにたくさんいた。

「そうなんだよ。たまに帰っても部屋に篭ったっきり降りて来ないし、お土産だけ貰ったら用無しだ」

特殊なメイクだとはわからないほどリアルにしょんぼり顔だ。

「ほっときゃいいよ。そのうちまたお父さん子になるって。そんなもんよ」

「だといいけどな。ま、打つ手なしだからお前の言う通りほっとくとするよ」

ところで、とザッキーは続けた。

「その子か。お前の世界の全てってのは」

あ〜、そうやって啖呵切ったこともあったっけ笑。若かったな、あの頃は。

「そうよ。可愛いでしょ〜」

「似てるな」

それは…どっちに?私に?それとも…。

「森社長!そこ右折です」

少し大きめの、住田さんの声で三太郎が急に会話に入る。その瞬間に秋が起きた。

「あ、ごめん。寝ちゃった。今どこ?」

凄い!隣にいるのに秋が目を覚ましかけてることも気付かなかった。さすが現役。

「もう小樽だよ。あ!秋、よだれ笑」

ポケットからハンカチを取り出して口元に光るよだれを拭いてあげた瞬間に気付いた。これ、住田さんのだ!笑。ま、いっか。

「もうちょっとで着くぞ。秋くん、君の寿司の味の概念をひっくり返して上げるから楽しみにしてなさい」

「せっかくなんですけど森さん。俺、何食べても美味いって感じるバカ舌なんです」

嘘つけ〜!私がこないだ作ったビーフシチューにバター入れ忘れただけでいつもと違うって大騒ぎしたじゃないのよ!

「じゃあ今から食べるのはきっと目ん玉飛び出るほど美味いぞ〜!」

「そんなにハードル上げていいんですか?」

住田さんが訝しげにそう言うと

「アホか。俺はただ無駄に肥えてる訳じゃないって事を見せてやるよ」

ねぇザッキー。少し痩せた方がいいよ。今度の誕生日プレゼントは健康器具にしよう。



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