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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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彩綾の章 「普通の女の子」

なんか…バトン貰う時…乃蒼が歌ってた…。

乃蒼の走りは途中劇的に速くなり、追い抜かれるどころか前を走っていた4位の2年女子との距離を縮めるほどの走りだった。

もしかしたら歌っていたことに速くなった秘密があるのかもしれない。

それはいい。ただ…何だ?

何なんだ!くるみ☆ぽんちお♡って!!!

気になって仕方がない!

けど今はそれどころじゃない。

あとで乃蒼に聞くことにして今は走ろう!


私は今、何がしたい?

汗でベタついた体をシャワーで洗い流したい。

タケルに会いに行きたい!

頑張った自分のご褒美に何か服を買うのもいいかな?

もっと先輩達と話がしたい。

乃蒼に「さっきの歌、なに?」と問いただしたい。

秋に褒められたい。

野島さんにも褒められたい。

全部、全部したい!私は全部したいのぉ!!!

だから抜く!抜いてやる!もういっぱい抜いてやる!

私の足は今、前を走る全ての人を抜くためだけに存在している。

たぎれ血液!動け筋肉!

明日筋肉痛でも構わない!痛くて動けなくなってもいい!

私は、勝ちたい!


私には秋達にも言えないことがある。

それがあまりにも普通すぎて、秋達の抱えるものよりも軽すぎて私はみんなに言うのを躊躇っている。

私は、普通なのだ。

秋のように父親がいないわけじゃない。

乃蒼のように日本人の血が薄いわけじゃない。

タケルのように学歴のプレッシャーに押しつぶされそうな家庭で育っているわけじゃない。

何にもない、ごく普通の一般的な女子中学生。

それが、荒木彩綾。

私には何もない。悲劇のヒロインになれるものが、1つもないの。

みんなはそれを幸せだと思うだろうか?

お前何言ってんだよ!と怒るだろうか?

けど私からは、あんた達の方がずっと輝いて見える。

その重荷を背負いながら、必死にもがき苦しみ耐え忍び、泣きながら這いつくばって前へ進もうとしているのが、とても輝いて見えて仕方がないのだ!

なぜ私には乗り越えるべき壁がないの?

私は何を目標に成長していけばいいの?

何を超えたとき私は成長したって思えばいいのよ!

ねぇ、私には何があるの?

私は何を持っているの?

私は誰なのよ!

なんで私生きてるのよ!

わかんないよ!

なんで私だけ普通なのよ!みんなと一緒がいいよ

私1人、仲間はずれは嫌だよ…

みんな何かに抗いながら前に進んでいくんでしょ?

寂しいよ

私を置いていかないでよ

私1人じゃどうやって生きていけばいいかわかんないよ!

苦しいよ秋。助けてよ!初恋の相手でしょ!

寂しいよ乃蒼。助けてよ!親友でしょ!

悲しいよタケル。助けてよ!彼氏でしょ!

誰か、私を冷たくて暗い部屋から助けてよ…


いつだって笑いながらそれでも心の片隅で歪んだ目をしてみんなを見てしまう。

私には3人が眩しすぎた。

だから私はそっと目を閉じるのだ。

太陽に近づきすぎて、目が潰れてしまわないように…。


「彩綾ぁぁぁぁぁぁぁ!」

秋の声で我に帰ると4人いたはずの背中は3人に減っていた。

秋、なんて顔してんのよあんた。

嬉しいの?悲しいの?よくわかんない顔してるよ?

なんて、眩しいんだろう?

なんて素敵なんだろう?

「彩綾!もうちょっと!あと少し!」

乃蒼も笑。なんて顔してんの笑。可愛い顔が台無しじゃない笑。

ああ…秋も乃蒼もタケルも大好きだ。

この、バカげたチームが大好きだ!

イカロスは太陽に近づきたいとロウで作った羽をはためかせ飛んでいった。

私はその気持ちが今ようやくわかった。

イカロスが太陽神ヘリオスに近づいたのは、傲慢だからではない。

ただ、そばに居たかったのだ。

無理とはわかっていても、近づこうとせずにはいられないほど一緒にいたいと願ったのだ。

私はイカロスだ。

けど、私のヘリオス達は私を堕としはしない。

きっと、いつか小さな暗い部屋から私をその輝きで照らしてくれる。

それまではしがみつこう。

人差し指の爪の先になるまで私は無様にしがみつくのだ。

「阿ああああ子おおおお…さあああああん!」

バトンを渡すと同時に力尽きた私はグラウンドに倒れた。

くるりと体を上に向ける。

空は相変わらずの曇天だったけど、その隙間に青い空がいくつか見える。


野島さん、私はあなたの信頼に応えることができましたか?

褒めてくれますか?

秋、私は秋にとって自慢の幼馴染ですか?

そばにいてくれますか?

乃蒼、私は乃蒼にとって親友と呼べる存在ですか?

一緒にいても良いですか?



私は今、何がしたい?



勝ちたい!

なんでもいいから!勝ちたいよ!

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