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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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桜の章 「赤いバトン」

パァン、と耳の近くで響く甲高いピストルの音に驚いて隣にいたリレーの選手よりも2歩ほど遅れてスタートした。私の遅さでなおかつ2歩のハンデはすでに致命的なロスだ。あ〜あ、何で私はいつもこう鈍いのだろう?


心臓が一生で拍動する回数はどんな生物でも大体同じなのだそうだ。短命のものは拍動回数か早く、長寿のものは拍動回数が遅い。その話を聞いた時、私はこの世に生きとし生けるもの全ての心臓に回数制限型時限式爆弾が埋め込まれているような印象を受けた。

私は脈が早い。普通の人なら平常時90前後だとすると、私は100を下回ることはない。だからきっと他の人よりも早く死んでしまうだろう。けどそれも、きちんと時限式爆弾が作動すればの話だ。きちんと作動したって人より短命であろう私の心臓は、あろうことかエラーを起こした。電流の流れが悪くなってきちんと時限式爆弾が作動しなくなったのだ。そんな私のポンコツを、主治医の先生が直してくれた。ようやく人並みの短命を得ることができた。

手術の後、いつ死んでも後悔しないよう今を懸命に生きることに決めたけど、やっぱり私は死にたくはない。だから心臓の拍動がゆっくりになるように生きてきた。ゆっくりと歩き、ゆっくりと話し、ゆっくりと動くようにした。1秒でも長くここで生きていられるように。


けど、今だけは話は別!

動いて、もっと動いて心臓!

血が、全身に巡って足の回転が早まるように!

寿命?20数秒分の長生きなんて、いらないっ!

今、私はこのリレーに勝てればその生きられるはずだった20数秒を後悔はしない!

むしろよくやったって自分を褒めてやる!

今日この日のツイッターに、死にかけの私は「いいね」を連打してやる!


ビリっけつで最初のコーナーを曲がろうとした時思いもよらない光景が眼前に広がっていた。前を走っていたうちの2人が地面でのたうちまわり、「はやくどけっ」とか「いた〜い」とか焦りの声が聞こえてくる。

もしかして、転倒したの?

私は出遅れた2歩のおかげでこの転倒に巻き込まれることなく無事だったとでもいうの?

「桜!右から抜け!」

タカの声に従い人溜まりを右から抜く。私は生まれて初めて人の前を走った。

「桜さん、そのまま!そのままぁ!」

秋の必死な声が聞こえる。わかってる!約束したじゃん。

桜子史上最高の走りをするって。

抜けないよ?そりゃ無理だよ笑。

けどこの順位は絶対守り抜く。

ああ、心臓が痛い。

けどやめたくない。走ってたい。でもそろそろバトンを後輩に譲らなきゃ。

バトンを握るのは生涯でこれが最後。

夢が叶って本当に嬉しかった。

バイバイ、赤色のバトン。

死にかけの私はあなたのことを鮮明な赤色とともに思い出すことだろう。そして懐かしさで笑みが溢れるかもしれない。私は走ったって。20数秒の命と引き換えに懸命に走ったんだって。

「乃蒼ぁぁ!」

叫ぶなんて、すごい久しぶりだ。気分が良い。

私は今、死んだって後悔しない。


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