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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「3年3組」

「あ、帰ってきた」

校門で待っていた俺たち合同特進組7名の前に吉岡先生の車が停まった。助手席から彩綾が降りてくる。

「どうだった?」と羽生さんは彩綾に詰め寄る。

「詳しく検査しないとわからないみたいだけど、多分アキレス腱切れてるって。すぐに入院することになった」

やっぱりか…。

「センセー。あのさ、もしかしてこの事でセンセー叩かれたりする?」

運転席からガハハと豪快な笑いが聞こえた。

「おいどうした野島。七尾みたいな心配するじゃねぇか笑」

みたいな、じゃなく俺も心配ですって。

「けど、タケルの家の親結構うるさいですよ?父親検事だし母親弁護士だし」

吉岡先生はそれでも愉快そうだった。

「検事だろうが弁護士だろうがそれがどうした。俺は教師だ。文句あるか?」

ははっ笑。ないです。

「お前らちゃんと昼メシ食ったのか?ちゃんと食べないとリレー勝てないぞ」

「あれ?先生私たちのこと応援してくれんの?」

阿子さんはちょっと嬉しそうだ。

「バカ言うな。俺は全部の生徒が勝てばいいと思ってるよ」

俺は生徒で吉岡先生は教師だ。いつかその肩書きが外れた時に吉岡先生と本音の話をしてみたいと思った。

「行くか。昼休み、半分終わっちゃったな。腹減ったよ。」

俺らは先頭を歩く野島さんの後ろについて教室に戻った。




控え室である3年1組の教室に向かう途中、野島さんが突然足を止めた。ちょうど3年3組の教室の入り口あたりだった。

「あいつ、笑えたよな。2年の特進の奴だろ?普段勉強しかしてねぇから怪我するんだよ笑」

教室の真ん中あたりにいた男の1人が机の上に座ってゲラゲラと可笑しそうに笑っていた。

「ウケたよね〜笑。てかリレーくらいでムキになってあいつら超笑える」

男が腰掛ける机の椅子に座っていたブスもとても可笑しそうだ。

「つうかあの女ども超絶足遅くなかった?あれなら俺の歩く速さと一緒だろ?笑」

2人のそばに立つ男もそれはそれは愉快そうだった。

「しょうがないんじゃね?だってアレ西野だろ?心臓病の。体悪ぃなら走ってんじゃねぇよ笑。必死に走ってあれならムリすんなよ笑。死んじゃうだろ?笑」

桜さんは下を向いて震えている。阿子さんは桜さんの両肩に手を置き、乃蒼は桜さんの両耳を手で塞いだ。彩綾はブスを睨んでいた。

「もう1人も心臓悪ぃんじゃね?でなきゃあそこまで遅くないだろ?笑」

机を椅子だと勘違いしたバカがまた笑った。

俺にはこの人達の心理がわからない。なぜ病気だと思いながらも笑えるんだろう?

いや、わからなくていいや。こいつらはきっと脳みそが腐ってしまったんだ。頭の中はそのドロドロに溶けた脳みそでタプンタプンしてるんだ。

「あいつらリレーの途中でポックリ逝ったりしてな笑」

そして数人の男女がゲラゲラと下品に笑った。

冷えた目付きで教室に入りかけた野島さんの肩を、俺は渾身の力で掴み後ろへと放り投げた。

ドガン…ゴッ。

野島さんは廊下の壁に後頭部を強打したが今はそれどころじゃない。

「ちょっと行ってきます」

桜さん達に満面の笑みでそう言ってからツカツカと教室に入る俺の隣に気配があった。

「七尾、右頼む。俺は左な」

「わかった」

雪平が机を蹴飛ばす豪快な音を合図に俺らはそれぞれ受け持つ相手の首を掴んだ。3年3組にいた数人の女子達は気持ちいいくらいの悲鳴をあげる。あぁ…いぃ…。ゾクゾクします。もう濡れそうです。けどブスだ。

「お…おい何だよお前ら」

「悪者ですよ」

正義じゃねぇのかよ笑。まいっか、こいつらの正義から見りゃ俺らは悪者だ。

「ケッ…モッ…ゴッ…ボ」

「おい!お前もちゃんと喋れよ。俺だってなんかカッコいいこと喋りたいんだよ!野島さんなら喉仏押されてもキチンと喋るぞ」

親指に力を入れるとあっけなく可燃ゴミは倒れた。もう少し粘れよ。野島さんなら3分は耐えるぞ。

「ねぇ先輩、眼球触らせてくださいよ。俺将来医者になりたいんですけどまだ素手で眼球触った事ないんですよね?お願いします」

雪平の目が、逝ってる。

「バカ言うな。失明するだろ」

「あれ?どうして失明するって決めつけるんですか?やってみなきゃわからないじゃないですか。お願いしますよ、手洗ってきたんで綺麗です。ね?潰しませんから、触るだけですから」

雪平は逝った目のまま人差し指を目に近づける。

「や、やめろって」

「どうしてですか?俺は別にあんた達の言動を否定しませんよ?低俗だなとは思うし吐き気もしますけど、頭の悪い奴が考えるのはそんなゲスい事なんだろうなと理解してさしあげます。だから俺の事も否定しないでください。お互い様ってやつです。いま俺はあんたの眼球をどうしても触りたいんですよ」

突如ドンっ、という衝撃を受けて俺はそばにあった机に豪快にダイブした。『喉仏先輩』が起き上がって俺を突き飛ばしたようだ。

「ちゃんと潰しとかないからだよ」

雪平が俺を見下した。確かに詰めが甘かったなぁ。よし、潰そう。

「お前ら2年のくせに3年の教室でなに暴れてんだよ。殺すぞ」

『喉仏先輩』が威圧する。バカだなぁ、あんたより彩綾の方がもっと怖ぇよ。今までに何回漏らしたと思ってんだ。

「だったら先輩、あんたの家族ごと俺の母親に殺されますよ?断言してもいい、あんたの苗字は日本から消えます」

花さんにとって俺はこの世の全てだ。下手すりゃ日本自体が消えてしまう。

「はぁ?母親?笑。お前の母親は暗殺者か何かかよ笑」

冗談が下手くそですね。

「パートタイマーですよコノ野郎」

今度こそ喉仏を潰してやろうと掴みかかろうとした瞬間だった。

「ストップ!お前らもういい。行くぞ」

野島さんが後頭部をさすりながら制止する。

うちの大将からの命令なら従うしかない。俺と雪平は3年生から離れ自陣に戻った。

「野島ぁ、お前調子に乗ってんじゃねぇぞ?」

『目ん玉先輩』が野島さんにありきたりなセリフを吐いた。

「おいウンコちゃん、ハリーポッターくらい読めるようになってから俺に話しかけろよ」

それは聞き捨てならない。

「え?あの人ハリーポッターも読めないんですか?あれ学童書ですよね?あ、原文のままって事ですか?」

「バカ言え。日本語訳だ」

「日本語訳って、日本語ですよね?文字読めないんですか?」

「秋、さすがにそれはバカにしすぎだ。文字は読める。書かれてる意味が理解できないだけだ」

「Megaphragma mymaripennですか笑」

「あ、お前もこないだのNG読んだの?あれ脳の神経細胞4600しか無いんだな?」

「けど体長0.2ミリですよ?それで4600は立派な数字です。それにひきかえ…虫以下ですね」

「あんま見るなよ。可哀想だろ」

「あ!目が合った!怖い…脳が世界最小になりそうで…僕、怖いっ」

「ダメよ秋、目を合わすんじゃありませんっ。さ、早くこっちいらっしゃい」

俺と野島さんが『ハリポタ先輩』で遊んでいるとなんだかよくわからない叫びをあげ俺と野島さんに掴みかかろうと突進してきたが、どこからともなくイスが飛んできて『ハリポタ先輩』に当たった。飛んできた方向を見ると後頭部を抑えた羽生さんが怒りの形相で立っていた。

「ゆきひらぁぁぁぁあああ!てめぇ殺すぞこの野郎!」

先輩、怒りのベクトルが間違ってやしませんか?

「なんかしたの?雪平」

「お前と一緒。髪の毛掴んで壁にぶつけて気絶させてから教室入ってった」

俺はそこまでしてねぇよ…。

「俺が言うのも何だけど一応先輩なんだから気ぃ遣えよ」

雪平が微妙な顔をする。

「だって俺、飯塚さん嫌いだもん」

誰だよ。



「恥ずかしい…子どものケンカを見ているようだ…」

俺らの前を歩いている阿子さんは野島さんの隣で呆れ返っていた。

「子どものケンカだよ、あんなの」

野島さんは否定しない。

「2人ともやりすぎだよ」

後ろを歩いていた乃蒼は、振り向いた俺と雪平を睨んだ後、にっと笑った。

「ホント。暴力反対!」

乃蒼の隣の桜さんも今はすっかり笑顔だった。

「雪平てめぇ!オイシイとこ持って来やがって」

「あ、すいません。なんか顔がムカついたんで」

「それはどっちにだよ!」

雪平は返事をしなかった。

「あれ?彩綾は?」

彩綾の姿がどこにもなかった。

「お〜い、彩綾〜?」

俺が廊下で名前を叫ぶと遠くから「いま行く〜」と聞こえ、3組の教室から出てきた。

「お前何やってたの?」

彩綾はえへへっ、と可愛らしく笑ったけど、付き合いの長い俺は背中に悪寒が走った。3組の教室の中をみると、ブスの先輩が顔色を真っ青にしてガタガタと震えていた。

「だって、あの女もタケルや乃蒼や桜子さんのこと笑ってたのにお咎めナシなんてムシが良すぎない?」

「お前…、何したの?」

「何もしてないよ?ただ『アンタのーーーーにーーーーーしてからーーーーーーしてやろうか?』って囁いただけ」

痛いっ!俺にその臓器はないけれど聞いてるだけで痛いっ!

彩綾と並んで1番後ろからこの合同特進組のメンツを見た。


野島さん、阿子さん

乃蒼に雪平

桜さんに羽生さん

そして俺と彩綾

いま病院だけどタケルも


「なぁ、なんか俺、このメンバーかなりイケてるんじゃないかって思うのは気のせい?」

彩綾に問う。誰かのその答えが欲しい。

「そう?こんなもんじゃない?」

そうか。俺だけか。

「けど、このメンバーに自分がいるってのは嬉しいね。外から見てるだけだったら憧れちゃうかもしんない」

だからそれはサイコーってヤツじゃねぇか笑


1組の教室に入ると当たり前だけど俺たちの2年1組と変わらなかった。ただ、やっぱりどこか雰囲気が違う。目隠しして連れてこられても、ここが自分たちの教室じゃないってわかるほどやっぱり何か違う。その何かは何なのだろう?今はいない、この教室に所属する生徒達の持つ空気の名残なのかもしれない。少しだけ居心地の悪さを感じる。窓から校庭を見下ろすと端っこの方に「天上天下 唯我独尊」の旗が風で揺れていた。ここよりも俺はあそこの方が居心地が良かった。

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