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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「ドーナツ屋」

吉岡先生が色々と尽力してくれたおかげで、俺らは2年と3年の合同特進組として体育祭に参加できることになった。

「島田先生も協力してくれたから会ったら礼を言っておけ」

と言いながらもみじ饅頭を俺と乃蒼にくれた。

決起集会と称して3年生が俺たち4人をドーナツ屋に集合させたのはその2日後、土曜日の午後だった。机をくっつけて8人が座れるようにし、壁側に3年生、通路側に2年生が座った。

「羽生さんも髪切ったんすね」

野島ほどではないが羽生さんもそれまでのロン毛をバッサリと切った。

「おお。2年伸ばしたから名残惜しかったぞ」

前の10分の1よりも短くなっていた。阿子さんと桜さんは茶髪とショートのまま。けどこの2人はその方がお似合いだ。

「秋、紹介しろよ」

とバカが言うので俺は「こっちが羽生さん…」と先輩達を紹介すると

「秋、覚えとけ。こう言う場合、先に目上の人に紹介するもんだ」

くそぅ、ハゲのくせに…タメになるじゃねぇかこの野郎!

「俺の隣から…」

俺は改めてタケル達を先輩達に紹介する。

「…で、一番奥が鈴井乃蒼です」

一通り言い終わり先輩達を見ると野島以外の3人は乃蒼を見ていた。

「あ、の?なにか?」

怯える小動物の如くな乃蒼だった。

「なんでもねぇよ。お前らも見てんじゃねぇ。怖がってんだろ」

ブワっという首の振る音が聞こえるんじゃないかと思うほど野島さんの左隣にいた3人は一斉に野島の顔を見た。それをわかっているはずなのにあえて無視をする。一体なんだっていうんだ?

「俺は3年の野島貴明」

「羽生宏介」

「私、平井阿子」

「西野桜子です」

3年の自己紹介が終わるとよろしくお願いします、と乃蒼と彩綾は丁寧に礼をした。

「ところで、なんでお前らは体育祭なんかに出たかったんだよ。特進組は免除だろ?」

「それは野島さん達だって同じでしょ?」

「まぁな。だから教えてくれよ。お前らの理由」

左に目線を移すと先輩女子2人がわくわくしながらこっちを見ていた。

あの…、と桜さんの向かいに座っていた乃蒼が話し始めた。

「あの、私足が遅いんですけど、ていうかかなり遅いんですけど…。だから小学校の頃リレーの選手なんて当然なれなくて。だけどずっと憧れてたんです。バトンを受け取って、走って、次の人にバトンを渡して全校生徒の前でクラスの代表として走るの。それをこの4人で出来たらいいなって思って。まぁリレー出るには人数足りなかったんですけど」

静かに桜さんは何度もうなづいていた。

「で、お前らはそれに乗っかったのか?自分の意思じゃなくて、人がやりたいっていうからやりたくなったのか?主体性がねぇな」

野島は露骨に俺達に絡んできた。立ち向かったのは彩綾だった。

「いけませんか?乃蒼がしたいと思うなら私達は一緒にそれをやりたいって思うんですよ。それは私達の意志ですよ」

彩綾の言い方もなかなかにキツかった。

「友達だからか?」

「そうですよ。悪いですか?」

「別に悪かねぇよ笑」

野島と彩綾の間で何だか目に見えない火花がバチバチしているような気になる。

「先輩達は何で去年体育祭に出ようと思ったんですか?」

乃蒼が4人に同じ質問をぶつける。それに答えたのは乃蒼に同意していた桜さんだった。

「あんなふうに言ってるけど私達だって同じ理由だよ。私ね、子どもの頃に心臓のバイパス手術をして激しい運動ができなかったの。ずっと体育とか休んでて」

初耳だった。だから本が好きになったのだろうか?

「今までずっと激しい運動したらダメって思い込んでたんだけど、先生に聞いたら問題ないってアッサリ言われちゃって…。だけど今までしてこなかったから足、激遅なのよね。だから私もリレーの選手になるの夢だったんだぁ。あのバトンを選手として触ってみたいの」

乃蒼が向かいに座る桜さんに向かってうんうんと目を輝かせている。

「で、桜子さんに乗っかったんですか?自分の意思じゃなくて。桜子さんがやりたいからやりたくなったんですか?先輩こそ主体性ないんですか?」

彩綾がさっきの野島さんの言葉のままやり返す。

「ああ、そうだよ。桜がやりたきゃ俺らはやるんだよ」

「友達だからですか?」

「違うね。お前らと一緒にするな」

力一杯否定する。

「じゃあ何ですか?」

「親友だからだよ」

はぁぁ?と彩綾がついにキレた。

「何それずるいっ!私と乃蒼だって親友だもん!」

何がおかしいのか野島は笑っていた。

彩綾の隣で乃蒼の目はうるうるしていた。

嬉しいのか?笑。嬉しいよな?笑

「タケル、お前の彼女はおっかねぇな笑」

「え?は?あ、はい」

「タケル!アンタ彼氏ならそこは否定!」

「え?は?あ、はい」

振り回されてんぞタケル。

「いや、褒めてんだぞ?芯があって圧でもブレないいい女だって言ってんの」

「今さらそんな褒めてるとか言われても素直に受け取れるわけないじゃないですか!」

仏頂面で野島さんからそっぽを向く。あとでこっそり教えてあげますけど、いま彩綾はすごく喜んでます。

「はいそこまで。遊んでんじゃねぇよ。本題入んぞ」

やっぱりこういうときにしっかり仕切れるのが羽生さんである。

「うちの体育祭はクラス対抗で競う。だから総合優勝なんて8人しかいない俺らには無理だ」

さすがに優勝までは狙ってない。俺らの目標はリレーに出ること。

「だからリレーだけは勝つぞ」

思わず苦笑いした。この人何言ってるんだろう?一緒にいすぎてバカのバイ菌が羽生さんの脳に感染したんじゃないだろうか?本気で心配になる。そんな俺をバカは睨んでいた。

「ムリムリムリ!私の足の遅さを舐めないでください!私1人で残り7人の速さを帳消しにできる自信があります」

間違った方向に自信を持ってしまった乃蒼の主張だった。

「多分私の方が乃蒼より遅いって」

桜さんも間違った方向に自信を持っている。しかし俺は乃蒼より遅い人類を知らない。

「ちなみに100mのタイムは?私は14秒くらい」

おお阿子さん速ぇ。乃蒼の口が開いていた。羨ましいんだろうな。

「私、自己ベスト23秒フラットです」

いつ聞いてもフラットという単語がこれほどまで虚しく響く時はない。

「やった勝った!私のベスト26秒!」

居たっ!乃蒼より遅い人!けど桜さん、誇るベクトルさっきから間違っています。

「彩綾は?」と羽生さん。チラッと見るとバカはメモを取っている。

「私は14秒の真ん中くらいです」

「男どもは平均くらいはいくんだろ?」

俺とタケルもハイと答えた。

「どう?いけそう?」

ちょっと待って、と野島は何かを計算している。

「う〜ん、他のクラスのも見て見ないとわからないけどだいぶ厳しいかな?」

そりゃそうだろう。乃蒼と桜さんで1人分近くのハンデだ。勝つどころか予選突破も厳しい。

「お前ら、当日まで1秒縮めろ」

そんな急に早くなるなら陸上部はいらない。

「野島さんも1秒縮めるんですよねぇ?」

人にだけ要求するのは不公平だ。

「バカ言え、無理だ。よし、今日は以上。とりあえず当日まで自主練習な」

納得できないのは俺だけじゃないはずだ。けどきちんと話したのが初めてだった3人はハゲに文句の1つも言えずその日は解散となった。帰る間際に俺らは連絡先を交換した。野島と羽生さんのは知っていたが阿子さんと桜さんのを交換出来たのはちょっとした収穫だ。ま、電話もメールもする勇気はないけど。


次の日から各々が自己練習をしていたがそんな急にタイムが縮まるはずもなく俺と乃蒼は放課後にお互いタイムを計りあったけど自己ベストすら出なかった。不安を抱えたまま当日を迎える。

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