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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
42/790

秋の章 「不良」

うちの学校にも所謂ヤンキーという属性の人達がいる。もちろん確認されている個体数は少ないが、彼らは髪の色が違ったり、廊下に直で座っていたり、話し声がデカかったりと比較的発見しやすいため関わり合いになりたくないのであればそばに寄り付かなければトラブルには発展しない。そう思っていた。

「おい、お前ナニ見てんだよ」

タケルと2人で理科室に行こうとしていた休み時間、俺たちはその希少種のオス4体に絡まれた。上履きをみると俺らと同じ色のラインが入っている。なにをどうしたら同じ年月を生きてきたのにこうまで生き方が変わるのか俺には全くわからない。

「いやいや、見てなかったでしょ今」

タケルがその和やかキャラを遺憾なく発揮し回避しようとしたが

「はぁ?見てたろ?俺らのこと嘘つき呼ばわりかお前!」

と叫ぶ不良属性の輩たち。

「お前ケンカ売ってんのか?」

いちいち声がデカイ。俺たちのことを耳の遠い高齢者か何かと勘違いしているのだろうか?

「そんなつもりはないよ。気に障ったら謝るよ。ごめん」

タケルは穏便に済まそうとしている。その努力を無駄にしてはいけないと思い俺は黙っていることにした。

ガッとタケルは輩の1人に胸ぐらを掴まれる。

「なに調子こいてんだ?」

俺はちょっとイライラしていた。なにに?と言われたらそりゃ理不尽に絡まれている事だ。見てもいないものを見たと言う自意識過剰で、謝っているのに調子に乗ってると言う日本語の通じないこのアホ達に。けどもっと根本というか、原始的な不快感が俺の中にドッカリと居座っている。何だろう?

「ちょ、ちょ、待って、悪かったって」

タケルは胸ぐらを掴まれてもなお穏便に済ませようと努力している。俺はちょっと尊敬する。

「お前も、なに黙ってるんだよ!」

俺は輩の1人に詰め寄られる。

あぁそうか。この不快感の原因がようやくわかった。この輩どものしているリーゼントが野島を思い出させるからだ。

「タケル。やろう。」

野島だと思ってぶん殴ろう!

タケルはおいマジかよといった顔をしていた。そりゃそうだろう。ケンカなんてした事ない。せいぜい小学校の時にタケルと俺で2人とも泣きながら素手を振り回してポカポカした程度だ。

「こいつ生意気だな」

同学年に生意気だと言われる筋合いはない。むしろ言葉そのままの意味で言うならお前らの方が生意気だ。

「お前名前なんてんだ?」

1番後ろにいて黙っていた輩の1人が大物ぶっている。

「人に名前を訪ねる時は自分から名乗れよって、本や映画で見た事ないのか?マンガでもいいぞ?」

てめぇとか何とか残りの3人が吠える。いちいち声がデカイ。不快だ。

「4組の中橋光一だ」

「嘘つけ!そんなやつぁ4組にいねぇよ」

輩とタケルが「え???」って顔をする。俺の知りうる範囲ではそんな奴3組にはいない。いや、俺が知らないだけなんだけどね笑。

「いや、コーちゃん3組だけど?」

「だからそんな奴3組にいないって言ってんだろ?」

いるのかもしれないが俺は知らない。だから俺の中では3組には中橋光一なんて奴はいない。うん、屁理屈です。

「え?え?いや、俺、3組だけど?」

「嘘つけ!そこまでしてバレたくないのかよ!」



キーンコーンカーンコーン


ふっ。俺の…勝ちだ〜!

ヤンキー属性とはいえ授業に出ることは大事なようで、鐘の音に焦りを感じている。中途半端だな。グレるなら授業くらいサボる覚悟を持てよ。でなきゃグレんな!

「俺は名乗ったぞ?お前は名乗らねえのかよ?」

自称3組の中橋光一はクラスに戻ろうと急かす3人をよそに俺を真正面から見据える。

「教えねぇよ笑。自分で探せよ。6クラスしかないんだから」

みるみる表情が怒りに変わっていく自称中橋光一は

「お前、タカアキくんにヤキ入れてもらうから覚悟しとけよ?」

となかなか弱い捨て台詞を吐いてダッシュで教室に戻っていった。


「支離滅裂だったぞ?お前」

化学の授業中、同じ班のタケルは板書をしながらさっきの話題をふってきた。

「普通の会話できないのにこっちが合わせてやることもないだろ?おかげで時間稼げたじゃん」

「お前って、結構好戦的なんだな?」

そんなことないよ。俺は平和主義者だ。ケンカなんてしたこともなければしたくもないし大嫌いだ。

「なんかムカムカしたんだよ。あのリーゼント頭に」

野ぉぉぉぉぉ島ぁぁぁぁぁ!

「けどお前大丈夫か?タカアキくんに焼き入れてもらうって言ってたぞ?」

「誰だよタカアキくんて。知ってる?」

3組の中橋光一すら知らない俺はタカアキくんなる人物を知らない。

「なんかでチラホラ聞く名前だけど知らないな。けど不良とかそっちの話じゃなかったような…」

「何の話?」

突然乃蒼が話に入ってきた。

「タカアキって人知ってる?先輩なんだけど」

吹奏楽部にもしかしたらいるのかも?

「う〜ん?下の名前を知ってる先輩が少ないのもあるけど私は知らないなぁ。そのタカアキ先輩がどうしたの?」

乃蒼が好きそうな話ではなさそうなので誤魔化そうとしたのだが、タケルがベラベラとさっき起こった希少種との遭遇の話を乃蒼にしてしまった。

「で、そのタカアキくんって人に秋が呼び出されそうなんだよ」

ふ〜ん、とだけしか言わない乃蒼はあまり関心がないようだった。もっと「ケンカはダメだよ!」とか言うのと思っていたので意外だった。が、次の瞬間もっと意外な言葉が乃蒼の口から出てきた。

「勝ってとは言わないけど、負けてもほどほどにね。カットバンと湿布と包帯くらいはしてあげるよ」

へぇ〜、と俺は乃蒼の顔を改めて見た。さっきまで呼び出されても行く気は無かったけど、行ってほどほどにケガするのも悪くないかも?と思った。

出来ればその時は膝枕でお願いします。



希少種はその日のうちに動き出してきた。

「おい、旧校舎入り口まで来いよ」

6時間目が終わると4人で俺のクラスまでやってきて俺を取り囲んだ。本当に探しに来たよ笑。他のクラスの人が俺に因縁をつけに来たのでクラス内もざわ…ざわ…となる。俺の心の中でナレーターが叫ぶ。

迷惑。圧倒的迷惑。

だがそんなのはおくびにも出さず涼しい顔で俺は立ち上がって4人について行くことにした。タケルが俺のところへ駆け寄ろうとしたけど「来んな」と制した。お前は彩綾がいるから来ちゃダメ。殴られるのは俺だけでいい。

そして乃蒼には

「湿布と包帯よろしく笑」

と強がった笑顔を作ってみせる。ちゃんと笑えていただろうか?あんまり自信がない。


とりあえずクラスでカッコだけはつけた。あとはほどほどに殴られよう。前に2人、後ろに2人挟まれてノコノコと旧校舎入り口まで歩く。そしたらそのあと乃蒼が介抱してくれる。それで十分じゃないか。

旧校舎入り口は相変わらず人気が少ない。外からは部活前の生徒たちの声が聞こえる。

まぁ入り口で良かった、と思った。これが旧校舎の教室の中なら俺の文化祭の時の思い出が汚されてしまう。入り口には今の所俺自身が関わる思い出は特にない。せいぜいタケルと彩綾と吉田沙保里くらいだ。

肝心のタカアキくんが来るまで希少種どもは何かを言っていたけど全て無視した。人間強度が下がる気がしたから。それにしてもタカアキくんは遅い。ここに来た時はそれなりに興奮していたけれど待ちすぎてすっかり熱が冷めてしまった。

「ちょっと俺タカアキくん呼んでくる!」

1人がダッシュで駆け出してくのを見ながら帰ろうかな?と思った。

しばらくすると声が聞こえてくる。どうやら輩の1人はタカアキくんの捕獲に成功したようだ。

「だから〜、俺そういうのしないって言ってんだろ?」

あれ?

「お願いしますよ!ちょっとだけで良いんで!」

なにやら揉めてる声が聞こえる。

「知らねぇよ。お前らが勝手に絡んだんだろ?なんで俺を巻き込むんだよ」

あれ?

「先輩からちょっとかましてくれるだけでいいんで。生意気な奴なんですよ。お願いしますよ」

タカアキくんはダッシュで消えていった輩に背中を押されながら旧校舎前に現れた。



怒りのコントロール。俺の怒りは俺だけのもの。誰も俺の怒りを同一に理解はしてくれない。共感もしてくれない。だから抑えろ。いつか俺自身が傷つkーーー



「野ぉぉぉぉ島ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

怒りを堪えきれずタカアキの苗字を叫ぶ。

「あれ?秋、お前なにしてんの?ってグェっ!」

俺はタカアキの首を絞めた。

「待て、待て秋。入ってる。秋、入ってるよぉぉぉ」

「アンタ何してんすか!俺はちょっとドキドキしながらココ来たんすよ!で、来たのがアンタって、舐めてんすか?」

輩4人は頼りの先輩が同学年の男子に首を絞められているのをポカンと眺めていた。

「知らねぇよ。俺だって無理矢理ここに連れてこられてって、お前ちょっと離せ。死んじゃうって」

「死ねぇぇぇぇ野島ぁぁぁぁぁぁ!!!」

「待てって、俺が死んだら阿子が泣くぞ!」

くそっ!別れて阿子さん!でなきゃこいつ殺せない!

喉仏にかけていた親指を離してやると生意気にもムセている。

「お前、今本気で殺ろうとしただろ?てか、何でお前がいるんだよ」

「呼ばれたんですよ。そこの奴らに!」

俺が指差すと4人は俺を怯えた顔で見てた。

「あんたいつもこんなことしてんすか?」

返答次第ではまた喉仏を潰す作業に戻る気でいた。

「なわけないだろ!俺も迷惑なんだよ。オイ!お前らのせいで俺が後輩に怒られた上、喉仏ギューンてされたじゃねぇか!いい加減にしろよ!」

4人はイキっていた昼間の勢いはどこにいったのか静かに下を向いたままだ。

「あ〜腹が立つ。阿子さんにチクろう」

「七尾くん。僕ソレやめて欲しいな〜」

「帰ったら花さんにも盛ってチクろう」

「秋くん。僕ソレもっとやめて欲しいな〜」


俺とタケルに2度と関わらない事を4人に誓わせて俺は旧校舎の入り口からカバンを取りに教室に戻った。

「おかえり。あれ?大丈夫だった?」

乃蒼は教室で1人本を読んでいた。

「お前、待っててくれたの?部活は?」

しおりを挟んでパタンと文庫本を閉じる。今日は何を読んでいるんだろ?

「秋が袋叩きにされるのに帰ってくるまで部活なんて行けないでしょ?」

タケルと彩綾もついさっきまで居たらしい。

「それにしても顔綺麗だね?お腹は?」

全然、と叩いてみせる。

「逆に殺しかけた笑」

なんでそうなるの?と驚きと可笑しさが混じったような声を上げる。俺はさっきの話を乃蒼に聞かせると可笑しそうに笑いながら聞いてくれた。

「いいコンビね笑」

「俺と野島が?やめてくれ」

「なんで?好きなくせに笑」

そうなんだよな。バカだ野島だと罵ってはいるけど俺はあの人のこと結構、いや、かなり好きなんだよな。

「否定はしない。けど認め難いなぁ笑」


俺は母親に恵まれている。

友達にも恵まれている。

その上、先輩にもどうやら恵まれているらしい。

なんだかんだで、この世界は俺に少しだけ甘い。

花さんほどじゃないけど、結構甘い。

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