花の章 「文化祭5」
昨日の夜、秋から「明日の文化祭は5人で一緒にまわることになったよ」と聞いた。
増えた1人は乃蒼だとすぐにピンときた。
乃蒼は秋が中学で出来た女の子の友達。
秋は日に日にタケルや彩綾の話題よりも乃蒼の話題が増えていった。
乃蒼は学年で2位なんだ。
けど運動はてんでダメ笑。
俺とは普通に話せるのにタケルとだと変な敬語になるんだ。
もったいないんだよ。頭もいいし可愛いのにコミュ障なんだ。普通にできたら絶対男子からモテモテなのに。
そんな話を秋から聞いて私は素敵な女の子なんだろうと思った。
この間、秋が乃蒼の家に行った時の話なんかはとても可笑しかった。乃蒼の母親、イレーヌの破天荒さや乃蒼のキレっぷりの良さに涙を流しながら大笑いしていたら看板猫のいる喫茶店のマスターに出禁にされたっけ笑。その事はとても残念だ。
私は明日の文化祭を春先からとても楽しみにしていた。中学校は小学校ほど学校に行く機会がない。なので秋がどんな場所で勉強をしているか、どんな人達と話をしているのか、どんな景色を見ているのかを知りたかった。中でも絶対に会ってみたかったのは乃蒼だ。乃蒼という子はどんな素敵な子なのかこの目で見てみたかった。ただでさえ楽しみだった明日がより楽しみになった。
今日は寝れるかなぁ?
小学校の遠足の時のように明日を待ちわび心臓がドキドキした。
ピーンポーンというインターホンに秋は反応しなかった。私は様子を伺ったが焼き魚と味噌汁を堪能していて出る気がないようだったので私がかわりにタケルを出迎えた。
「あ、花さん!おはよう」
タケルの学生服も半年も見続けると見慣れてしまった。最初の頃はなんだか可愛らしかったのに今ではすっかり板についている。
「おはよタケル。秋まだご飯食べてる途中。あき〜。タケル来たよ〜」
うん、もうちょっと〜、と口に何かを頬張りながら秋は叫んでいる。
もう、はしたない。まったく、私がいなきゃダメなんだからっ。
あ、私なんか今日乙女モードだ。ちょっと浮かれすぎてるみたい。
「今日鈴井さんも一緒になったの秋から聞いてる?」
タケルには乙女モードを悟られないように
「うん。昨日秋から聞いたよ。」
しっかり者の花さんを顔で演じる。演じ切れてるのかな?
「タケルは仲良しなの?」
秋から聞く話ではタケルや彩綾と絡んだ話は出てこない。そこだけがずっと違和感があった。
「仲良しではないかな?彼女はちょっとなんて言うか、人見知り?だから笑」
いくら人見知りでも同じクラスに半年もいたらある程度は仲良くなるもんなんじゃないのかな?私の頃と時代が違うんだろうか?
「実は俺、楽しみなんだ今日。この機会に鈴井さんと親しくなりたいと思ってさ」
「彩綾にバラすぞ。いってきま〜す」
朝食を食べ終えた秋がいつの間にか私の後ろに立って靴を履き終えていた。
「花さん、12:00に生徒玄関前にいてね。タケル達と迎えに行くから」
私は少し寂しくなった。今日という日をずっとずっと前から楽しみにしていた。そしてとうとう本当に今日という日が来てしまった。明日から何を励みに頑張ればいいのだろう?
いってらっしゃいと2人に笑顔で手を振って見送った私の顔は、きちんと笑えていただろうか?それとも秋にはこの寂しさがバレていただろうか?
生徒玄関はちょっとだけパニックになっていた。私が12:00より少し前に到着すると、ものの数分で私は中学生に囲まれた。そしてその距離およそ2m。ワーっと来るのではなく少しだけ距離を置いて囲まれている。
「可愛い〜」
「モデルかなぁ?」
「前にCMに出てた人じゃない?」
「うそ〜、芸能人?」
「おい、でも貧乳だぞ?」
「うわっ。ホントだ笑」
おい最後の2人!いや、違う違う。そこのブサイクとハゲ。そう、お前とお前。ちょっとこっち来いや。
「なにしてんの?」
秋はタケル、そしてその後ろに色白の可愛らしい女の子を連れて生徒玄関に迎えに来てくれた。
「ちょっと待ってて。今こいつら2人の指と爪の間に針をーーー」
はいはい行くよ、と私の話を軽く流した秋に腕を掴まれ私はその場から連れ出された。
私の上機嫌とは逆に秋は若干うんざりしていた。私は秋に掴まれた腕を絡み返し、まるで恋人のように腕を組む格好で学校内を闊歩していた。
「ねぇ?彩綾は?」
「それが花さんに見て欲しいからって今クラスの模擬店の方に行ってるよ」
私に見て欲しい?なんだろう?
それは彩綾のクラスの模擬店「お伽話食堂」に行くとすぐにわかった。
「花さ〜ん!いらっしゃ〜い」
彩綾は青いドレスを着て頭にティアラを乗せた白雪姫の格好をして私達を出迎えてくれた。
「彩綾可愛い!似合うよ。タケル、あんたはホントいい女を選んだねぇ」
タケルも彩綾も嬉しそうにしていた。それと反比例して未だ私に腕を組まれている秋のゲンナリした顔と…、生徒玄関から下を向いたままの少女。
彩綾は白雪姫の衣装を着たまま「こっちこっち」と5人がけのテーブルに座る。タケルも彩綾の隣に腰掛け、私が腕を離すと秋も逃げるようにテーブルに座る。そして少女も、、、
ガシッ
秋にしていたように私が少女に腕を絡ませると、少女は初めて顔を上げ驚いた目で私を見つめた。
「あなたは私とこっち」
秋達から少し離れた席に少女を座らせ私も座る。タケルと彩綾は腰を浮かせ何か言いたげにしていたが、秋はチラッとだけ私と乃蒼を見たあと、意味深な笑みを浮かべて幼馴染2人に何か話しかけていた。そっちは任せた。こっちは任せろ。
少女の緊張はありありと私に伝わって来る。
「アの、ハジメマしテ、鈴井乃蒼デす」
そう言ってテーブルに頭をぶつけるんじゃないかと心配になるほど深く深く頭を下げる。すごい!今まで聞いたことのないイントネーションの敬語だ笑。
「初めまして乃蒼。七尾花です。これからよろしくね」
コレかラ?と小さな声で私の言葉を繰り返す。
「そうだよ。秋にとって大事な友達は私にとっても大事な人なの。タケル達とは長い付き合いだけど、そんなの関係ない。乃蒼も私にとってタケル達とおんなじくらい大事な人になったの、たった今から。だから乃蒼『ちゃん』なんて呼ばないよ。」
乃蒼はまた顔を下に向けたけどその表情は少しだけ和み、そして少しだけ笑っていた。
「アの、私も花さンて読んでもいいデすか?」
少しだけイントネーションが日本語に近くなる。そうか。この子の変な話し方は、フランス語に似ているんだ。イレーヌ譲り、か。いいな、羨ましい。
「花さんて呼んでくれなきゃイヤだよ」
大の大人が子どもじみた話し方をしたからか、乃蒼はその大きな目をまるまるにして、そしてクスクスと笑う。不意に横から
「あの、あちらのお客様からです」
人魚姫の格好をした女の子は銀色の大きな皿にうどんを2つ持ってきてくれた。この子も若々しくてそれだけで可愛らしい。ただ汁物を持って来るのは出来れば二足歩行のキャラクターにして欲しいな。彼女の辿ってきたであろう床はうどんの汁でぐちょぐちょだった。
「たぬきうどんの方」
それはきっと私だろう。秋とうどんを食べに行くとほぼ100%私はたぬきうどんだ。
「えっと…ぶっかけうどんのお客様」
乃蒼がハイというと人魚姫はうどんを乃蒼の前に置き、回れ右をしてまたピョンピョンと飛び跳ねながら戻っていった。
「好きなの?ぶっかけ笑」
「はい、ぶっかけ好きなんでス。響きは乱暴ダけど良いですよね、さっパりしてて。ずっと前に1度だけ秋に言ったこトあったけど、まさか覚えてルなんて思いませんでシた」
「そういう子なのよね、あの子」
1度聞いた女性の好みは忘れたりしないなんて惚れ惚れする。いい男に育ってるなぁ。いや、育ててるなぁかな?笑。
秋がこちらを見てたのでウィンクしてあげると気付かないふりをしてうどんを啜り始める。照れちゃって、もうっ。ここからうどんの中身は見えないけど、あの子のも絶対にたぬきうどんだ。間違いない。
それからは乃蒼と色んな話をした。例えば私も夜寝るときはノーブラ派だよ、とか。同じノーブラ派でも乃蒼は私のそれよりも大きい。いいなぁ羨ましい。触っていいか聞くと「え?今度2人っきりの時なら。けど裸になるの恥ずかしい…」と顔を赤らめ恥ずかしそうにいう乃蒼は、可愛らしい小悪魔だという自覚はあるのだろうか?服の上からでも良かったのに笑。今度2人っきりで会わなくちゃ、と私は思った。
時間はいくらあっても足りないのにその時間自体が足りなかった。けれど乃蒼とは距離が近づいた気がする。本当にこの子は可愛い子。そしてちょっとだけ天然で、ちょっとだけエッチな子笑。
食べ終えてクラスから出る時、秋は人魚姫とシンデレラと赤ずきんに囲まれ何かを話していた。キャッキャしている女子とは対照的に秋は何だかゲンナリしていた。そのまま彼女達と離れこちらに戻ってきたのでさっきと同じように腕を組むともっとゲンナリした顔になった。後ろでおとぎ話の3人少女が黄色い悲鳴をあげていた。もしかしてあの子達は秋のこと好きなのかな?腕組んじゃってごめんね笑




