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星月夜の白うさぎ1

「捨てられた狗神の子ですが、人間界で愛されています」の続編です。

おっす!

おれ、わんこのナイト。


阿波の狗神(父ちゃん)とロシア生まれのボルゾイ(母ちゃん)のハーフで、今は葉山夏輝という人間と暮らしている。

夏輝っていうのは、世界で一番大切な飼い主なんだ。


おれが苦労して仲を取り持った人間の文太と夏輝は、今は一緒に暮らすようになっていた。

由緒あるおんぼろアパートの夏輝の部屋に、月初めから文太が転がりこんできて、夏輝はすごくうれしそうだった。


アパートの大家さんが「ルームシェア」を認めてくれたんだって話していたけど、おれは知ってるんだ。


あの二人がいると、傷んだアパートの修理は安心だよって大家さんがご近所の人に言ってたもの。


たぶん、夏輝と文太は一緒にいてあんあんしたいだけなんだ。

文太はおれが背中を向けて眠ったふりをしているのをいいことに、夜ごと激しく夏輝をあんあん言わせている。


おれはくるりと寝返りを打って、部屋の隅っこで、やもりみたいに白い体で絡み合う二人をこっそり盗み見ていた。

夜目に浮かぶ夏輝は、薄く汗を光らせて文太にしがみついていた。

おれはちびのわんこだから、まだ誰かと睦みあったことはない。 ……というか、父ちゃんが言うには、まだ運命の相手には出会っていないらしいんだ。


二人が何だか羨ましくなって、そうっと夏輝の前しっぽを舐めにいったら、文太に駄目だと叱られた。


「こら。ナイトの寝床はあっちだろ」


「わん~(遊んで~)」


「子供はもう寝る時間だから、駄目だ」


夏輝は文太の膝の上で前しっぽをこすられて、上体を反らして大きく息を継いだ。

月明かりに浮かぶ夏輝はうっすら白く輝いているけど、目が合うと時々嬉しさと辛さが混じり合った顔をする。

照れくさいのかな?


夏輝の白い肌は、あんあん言う時、わんこの目じゃ何色かわからない。

だけど、こっそり人型になって見た時、庭に咲いていた八重桜の花弁の色のように儚い紅色に染まっていて、その姿におれの胸はどきどきした。


夏輝は正直言うと人間の雄にしておくのが惜しいくらい、綺麗な男だった。


いっそ、犬に生まれ換われたら良かったのに。

わんこだったら、文太じゃなくておれとあんあんできるのに……。


でもおれの夏輝は、誰よりも文太のことが大好きだから、夏輝が幸せならおれはそれでいいんだ。

おれの「おひさまのふとん」夏輝は、文太と暮らすようになってどんどん綺麗になってゆく。

おれは立ちあがった自分のちっぽけな紅い茎を握り締め、わん…と切なく啼いた。

おれは「本能」で知っていた。

きっと、これがおれの初めての恋。

そして決して叶わない恋。 大好きだけど、夏輝はおれの「飼い主」で「恋人」じゃない。

人間とわんこは、種族の違いがあって、決して恋人同士にはなれないんだ。


月明かりに夏輝がぶる…と震えるのが見えた。


「文太ぁー……あ……ん」


「夏輝っ、いいか?」


「う……ん。いい……あぁーーーーーっ!」


あんあんの後、丸まっておふとんで眠る幸せな夏輝と文太。


それなのに……二人をじっと眺めていると、じんわりと涙が出てくるのはどうしてなんだろう。

幸せそうな二人を見ると、うれしいはずなのに、おれだけいつも一人ぼっちのような気がしていた。

胸にびょうびょうと風が吹く気がする。

夏輝がおれを拾ってくれてから、明日でちょうど一年になる。


大家さんとの約束があったから、今、おれは庭にあるワンルーム(犬小屋)で暮らしているんだ。

しょっちゅう部屋に戻って知らん顔してるけど。

まあ、いつまでも夏輝の指がないと眠れないなんて、狗神の血を引くおれが子供っぽい泣き言を言うわけにはいかないからな。

一歳と言えば、人間でいうなら17歳くらいで、ほぼ一人前になってることだし。

でも、たまに夏輝が寝てる時に傍に寄って、内緒で人差し指をちゅうっとする。


「仔犬。そろそろお前も、恋の季節だね。お前は、誰とでも恋が出来るよ」


祠に封印された白狐さまがそう言って、自分で人型になる方法を教えてくれた。

白狐さまは、お寺の境内にある荼枳尼(だきに)神社の祠に封印されている。

何でも、荼枳尼天さまの可愛がってる情夫に手を出して、足腰を立たなくさせてしまい怒りを買ったらしい。

でも、それは仕方ないと思うんだ。


一度会えばわかるけど、何しろ結界の中の白狐さまは、豊かな銀色の糸のような髪を持った眩いばかりの別嬪さんで、誰でもうっとりと夢中になるほど綺麗だった。

たまにやってくるおれの父ちゃんの恋人の一人で、あんあんの相手だったりする。 狗神の恋人は不実な人間のように一人じゃないから、哀しい想いをしているはずだ。


…あ、人型になる方法だった。


夏輝の買ってくれた紅い首輪を外して、左足に巻く。

愛情のこもった品物は封印や、呪を掛ける時の必須アイテムらしい。

そして白狐さまに教えてもらった印を結び、九字を切るんだ。

犬と言っても誰でもが簡単に人型になれるわけじゃない。

おれには狗神の血が流れているから、妖術が使えるのだよと白狐さまが言ってた。


ぽんっ!


ついこの間までちびだったおれは、人型になった時はきっと夏輝よりも年上に見えると思う。

人型になった時のおれは、少し前のふわふわじゃなくて、かなり凛々しく男らしくなっているはずなんだ。

腕もちょっぴり太くなってるしね。


くん…?


おれは不思議な匂いを感じた。 風に乗って、妙な屍肉の匂いがする……?


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