前篇 王都へ――紫のバラを添えて
シリーズ化しました。
応援よろしくお願いします。
前作もご覧いただければ、より理解が深まる……かな?
破天荒幼女トーシャ!〜達人級異世界転生者は今日も平常運転で世直し中〜
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アタシは達人級の異世界転生者だ。
何度も死んで生まれ変わり、科学者も医者も怪盗もやった。悪人を斬り散らかす司法関係者だった記憶まである。……なんでだ。
その割に、必要な記憶は都合よく出てこないし、役立たずの人生も多い。
この世界では領主家側室の三女、今は十歳。
一歳で会話、三歳で読み書き、五歳で五カ国語、十歳で学問はほぼ終了。
ただし芸術だけは壊滅している。
歌えば獣が遠吠えし、絵を描けば災害扱い。神にも限度はあるらしい。
見た目は七〜八歳。青銀の髪と琥珀の瞳。時々、年寄りみたいな目をする。
――まあ、それがアタシ、トーシャだ。
* * *
皆様、おひさしぶりーふ……初っ端から派手にスベる効果音の空耳がきこえた気もするが……
昨日も一昨日も、なんなら明日も元気なトーシャです。
先月の騒動(第二王子・大気圏外遊覧飛行事件)もようやく落ち着き、アタシの懐事情もどうにか持ち直してきた頃――
王都から書状が届いた。
「ほう……」
机に置かれた封筒には、見慣れた王家の紋章。
めんどくさい、このまま見ぬふりをして捨てたら、爺がまたハゲ頭で茶を沸かすだろうか――
だいたい、この手の手紙はたいてい、感謝か、依頼か、泣き言だ。
その辺の果物ナイフを使って、雑に開封した。
渋々読む――
……ハァ、しんどらくさい。
今回はその全部だった――
『先般の第二王子帰還事案において、
……前略……
貴殿の迅速かつ独創的、かつ他に類を見ない対応により、王都は重大な政治的混乱を回避できました。
ここに、王家を代表し深く感謝を申し上げます。
なお、第二王子ならびに同行者は、軽度の打撲と多種多様な精神的外傷を除き、残念ながら、全員無事で保護されました。
……中略……
……以下、賛辞多数につき省略……
追伸。
着地の際に発生した爆風により、 王妃陛下ご寵愛の庭園の一部が失われました。
王妃陛下はたいそうお嘆きになられ、以来、少々ご機嫌が優れません。
陛下ならびに側近一同、その対応に大変苦慮しております。
つきましては、もし何らかのお力添えを賜れましたら、この上ない幸甚に存じます。』
「……う〜ん、何というか身も蓋もない書状だね。
これは感謝状を装った、泣き落としおねだり要請状なのか…?」
要するに――
庭を吹き飛ばしたことは、王子たちの捕縛・空送の功で相殺される。
けど、王妃がアタシに当たれない分、周りに激おこプンプンで、激しく巻き添えを食ってるんだろう。
ついに白旗を上げて、「なんか、ご機嫌取りするネタない?」と泣きついてきた。
――そういう話だ。
一応、遠隔監視して人気のないスペースに誘導した。
エアクッションも張って、範囲指定で結界も張り、人命保護に努めた。
人的被害はゼロ――
完璧だと思っていたのだが。
「……制御がまだ甘かったな?
そもそも庭園の植栽にまで、気は回らなかった」
開発途上の試作魔法だったから、多少は仕方ない。
――だからまあ、今回は少し手を貸すか……庭園の花に罪はないからね。
* * *
一応、こちらの案については、王宮の担当者とひと通り擦り合わせた。
最後は泣きながら頷いていたけどね。
アタシは机に向かい、さらさらとメモを書いた――これでも、日ペンのお手本の字のように整った筆跡だ。
「紫のバラの苗を進呈」
まずこれ。
そして――
「ハーマス」
目力のすごい美形庭師――
通称、紫のバラの庭師。
まだ未発表の新種の苗の移設責任者として送り込み、ついでに王妃のご機嫌も取ってもらおう。
これでよし。
「まあ、あいつは年下の少女趣味だし……」
王妃に籠絡されて帰って来ない……なんてこともあるまい。
……たぶん。
* * *
そういえば、先日どさくさに紛れて買収したエチドヤーガ商会――
中身は案の定、腐って納豆のごとく糸を引いていた。
なので王都からやり手の役人を一人、半ば拉致同然にヘッドハンティングし、そこへ誠実で、出世欲がなく、信念だけで動く部下をつけて放り込んだ。
その部下は、年の頃四十手前――
温厚そうな顔をしているが、妙に人たらしだった。
配属される先々で、なぜか仕事は回り、女性社員との距離感も絶妙で、気づけば組織の空気を変えてしまう。
本人は「いやあ」と頭を掻いているが、あれは一種の才能だと思う。
だから、「多少の社内恋愛は許可する。上手くやれ」 と一言だけ添えて――
あとは知らん。現場に任せる。
* * *
さて――
今日も巡回だ。
「どこの串焼きを――」
――違う。断じて違う。
「どこの町を巡回しようかな」
……くっ、危うく本音が出た。
とはいえ、今日は先にお仕事だ。
王妃へのご機嫌取り用――紫のバラ……と、美形。
その仕込みを確認しに、まずは郊外の農場――もとい、秘密研究所へ向かう。
* * *
「お待ちしておりました、トーシャ様」
紫のバラの庭師――ハーマスが、一礼した。
切れ長の目に強い眼差しを宿した、冷ややかな美丈夫。
黒髪を整えた長身の男で、土に触れる庭師というより、大商会を率いる若き商会長のような風格がある。
どう見ても庭師じゃない。
花より商会買収の方が似合う顔である。
「王都まで悪いね」
「いえ。むしろ、このような機会をいただき光栄です」
真顔で言うハーマス――
おそらく本心だろう。
この男、花に関してだけは変態である。
……いや、たぶん“だけ”ではない。
「進捗は?」
「献上用の苗は三株に絞りました。うち一株は、まだ名も与えていない新種です」
「いいね」
「移植後の環境変化にも耐えられるよう、根の活着処理は完了しています。輸送箱も専用のものを用意しました」
「さすが」
やはり仕事が早い。
……まあ、何がとは言わないが全般的に早そうな男ではある。
「ちなみに最初は、ここの一区画をそのまま切り取って、王都へ空送しようかと思ったんだけどね」
「は?」
「ダメになった庭園に、そのまま据え付ければ早いだろ?」
実に合理的だ。
「……それで?」
「王都の担当者に提案したら、泣きながらやめてくれって言われた」
「当然でしょう」
ハーマスが呆れたように即答した……解せぬ。
……まあいい。
庭を送れないなら、次善策だ。
「王妃の機嫌も、ついでに直してきて」
「善処いたします」
善処……都合のいい言葉だ。
だがこの男の場合、その“善処”が、一番怖い。
そのときだった。
「トーシャおねーちゃん!」
併設されている孤児院の子どもたちが駆けてきた。
アタシと同じような背格好なのに、ちゃんと"お姉ちゃん"と呼んでくれる、実によい子たちだ。
先頭を突っ走る子はマーヤ。
八歳と、まだ小さいが、やたら元気な子だ。
「お話済んだ〜? お庭いこうよ!」
私の両手を掴んでおねだり。
「ん〜〜」
しばし考え、ふとハーマスを見やると……顔がすっかりデレてるぞ。
これは、コイツも行く気満々だな………
「行くか――」
なんか……もう、どうでもいいや。
* * *
庭は平和だった。
初夏の陽射しが柔らかく降りそそぎ、手入れの行き届いた花壇には、色とりどりの花が揺れている。
風が吹くたび、紫のバラの若い枝がさらさらと葉を鳴らし、どこからか土と草の匂いが流れてきた。
その間を、孤児院の子どもたちがきゃあきゃあと駆け回る。
笑い声が跳ね、靴音が芝を踏み、小さな手が花びらを追いかける。
――平和だ。
こういう景色は嫌いじゃない。
――ブゥゥゥゥン。
「……?」
耳に入った瞬間、生理的危機感を覚える羽音。
黄色と黒――しかも、大きい。
「すずめ蜂だー!」
子どもたちが怯えて叫ぶ。
アタシの表情が消えた――
苦手だ――
いや、ハッキリ言って嫌いである。
なぜかわからんが、 黄色と黒を見ると、 二十四時間こき使われ、過労死した記憶の断片 が蘇る。
……なんだったんだろう、あの人生。
もういい――消そう。存在意義の欠片も見いだせない。
アタシは片手を上げた。
「結界、展開」
透明な膜が蜂を囲う――
その中で、座標が歪む。
前世――
科学だけが異様に発達した世界で、選りすぐりの狂科学者をやっていた頃に考案した理論だ。
局所空間を圧縮し、対象の存在そのものを自己崩壊へ導く。
対軍用殲滅術式として設計したものだが――
「まあ、蜂一匹に使ったところで問題らなかろう――いや、ない!」
空間が捻れ、対象の輪郭が崩れ、自己認識を失った物質が、己の中心へ向けて自壊する。
【事象圧壊】
――ぎゅっ。
一瞬だった。
蜂は、 潰れ、 消えた。
微塵の欠片も跡形もなく。
時空の彼方に消えた――
静寂……
施設職員たちが揃って口を開けていた。
「い、今のは………」
「なんか、凄まじい圧を感じたぞ」
「えっと……たかが蜂退治に?」
戸惑う職員たちを見やり、ただひと言――
「黄色と黒は嫌いだ」
ちなみに蜂に罪はない。
だが、アタシにも事情がある。
以上、終了――
* * *
「準備が整い次第、王都へ向かいます」
ハーマスが苗木箱を確認しながら言った。
脇にいた別の職員が、冗談めかして笑う。
「王妃様は美形好きと聞きます。少し心配ですな」
「……」
アタシは腕を組んだ。
「大丈夫。たぶん」
「たぶん?」
「アタシの子分に手を出したら……
王家がどういう目に遭うか――」
遠く、王都の方角を見る。
「……あいつら、身をもって知ってる」
職員たちが黙った。
そっと視線を逸らしている。
よろしい ――
実にいい判断だ。
* * *
「トーシャおねーちゃん! 王都って、お城あるんでしょ!? 見たい!」
目を輝かせるマーヤに、周囲の年長組もこくこく頷く。
なるほど――便乗犯がいる。
しかし、視界の端に見えている領都の城は、お城ではないのか?
「遊びに行くんじゃないぞ」
「お勉強だよ!」
……ここでもできるだろ。
「社会の窓の見学〜!」
いや、それは見たらアカンやつだ……。
「見聞を広めることは大切かと」
ハーマスよ……お前もか。
いい歳して、混ざるんじゃないよ。
ちらりと見ると、当の本人は真顔である。
だが視線の先は、しっかりマーヤだった。
……ハァ、なるほど。そういうことか――
「まあいい。連れていけ」
王妃のご機嫌取りを押し付けたんだ。
このくらい、手当として認めよう――
こうして――
紫のバラと、
紫のバラの庭師と、
“社会見学”の名目を得たマーヤたちは――
一路王都へ向かうことになった。
――この時は、まだ。
誰も知らなかった。
王都で、くだらない勘違いをした馬鹿が、余計なことを思いつくことを――
そして……
その“余計なこと”が、 どれほど高くつくかを。
前篇・中篇・後篇。
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悪ノリ作品です。でも、後悔はしてない。




