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浮遊嬢は落ちぶれない  作者: 七色
第一章 浮遊嬢は落ちぶれない
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プロローグ 夜が更けたって気が抜けない

 深夜零時。とっくに日は落ちきっていて、星のか細い光だけが地上を照らす新月の夜。

 街の東側では、眠ることのない人間の灯す光が夜を照らしているが、街の西側、閑静な住宅地で光と呼べるものは少ない。だんだんと空気が冷たくなるこの時期、こんな夜に出歩く人間なんてほとんどいない。いるとしたらそれは、よほどの事情を持っている人間なのではなかろうか。

 例えば、街を守るためだとか。

 

 深夜の住宅地、静けさと暗黒がみたすそんな世界に、一粒の嫌悪感が産声を上げた。

 大きさは、高さ四メートルほど。闇に擬態するかのような、溶け込むようなその体は、黒いガラスのようであり、突如として現れたソレはおよそ生物らしい体組織ではなかった。

 まるまると太った芋虫の、本来頭がある場所に、巨大な口がついている。巨大な口にはギザギザとした牙が生えそろっており、ソレがもつ攻撃性の高さを如実に表していた。

 生まれ堕ちたばかりのソレは巨大な口を大きく開き、世界を破壊せしめんと咆哮をあげ―――ることはなかった。

 黒い嫌悪感を複数の剣が刺し貫いたのだ。

 無数の剣が暗がりの向こうから発射される。鈍色の剣は無抵抗な黒いバケモノをハリネズミにするくらい刺し貫いた。

 暗がりから現れたのは、鈍色の影。鈍色の影は周囲に次々と剣を出現させ、それをとてつもない速度で発射する。虚空から現れた長剣を手にして、鈍色の影は発射された剣以上の速度でバケモノへと突っ込み、その体を一刀両断した。

 淡い光となって夜に溶けていくバケモノを背にして、セーラー服の鈍色の影は呟いた。

「こんな時間に精神怪物(メドモ)が現れるなんて。どうなってんだ?」

 そんな影の下に、ふわふわと浮いている小さな茶色い獣が追いついた。

「ありがとう! つくるん! 君がいなかったら今頃……」

「いいっていいって。こんな時間にほかの子働かせるわけにもいかねえだろ?」

 ウルフカットの髪を柔らかく揺らしながら、鈍色の影は笑いながら答えた。茶色い犬のような獣を肩に乗せて、来た道を引き返し始める。

「ったく、普段は夕方……逢魔が時、っていうんだっけ。そういう時間にしか出てこないのに、なんでこんな時間にでてきたんだ?」

「なんでだろうね……大きさも中型だったし」

 肩に乗った茶色い獣は口元に肉球を当てて考える。夜の闇のように先の見えない考えが二つの影の思考を占領した。

「そういえば、ダモモンってうちの高校の噂知ってる?」

 鈍色の影は、答えのでない疑問をいったん追い出して、小さな獣に問いかける。

「噂?」

 ダモモンと呼ばれた茶色い獣は疑問符を浮かべながら問い返す。暗い夜道を歩く鈍色の影は、迷うことなく帰路を辿る。

「そ。最近聞いた話なんだけどさ」

 そこで一区切りした鈍色の影は、すこしだけ遠くに見える学校の屋上を指さした。夜の帳がおりた校舎は窓の奥から、底のない闇を吐き出している。

「最近同学年のE組の女の子がよく一人で屋上に行ってるんだって」

「それがどうかしたの?」

 その高校では屋上は常に解放されている。昼休みは多くの学生でにぎわい、街を一望できる屋上は学生にとって人気のスポットになっていた。

「それがさ、人がいない放課後に、フェンスを掴んでいるところを見たっていう噂なんだよ」

「ふーん。確かに気になるけど……なんでそんなことが噂になってるの?」

 通常噂というものはもっと奇妙なもの、面白いものにさらに尾ひれがつくものである。鈍色の影が話す噂は、茶色い獣にとってあまりにもパンチにかけていた。

「そのE組の人がさ、友達とか全然いないし、静かで暗い人なんだってさ。だから飛び降り自殺でもするんじゃないかって噂。なんか、心配じゃないか?」

「たしかに。なんだか心配になるね」

 漆黒を吐き出す校舎を眺め、茶色い獣は見たことのない少女を憂いた。

「ちょっと前、その人に話しかけてみたんだけど、面識なかったから全然話聞いてもらえなくて……ちょっとダモモンに気にかけてもらいたいんだ」

「任せて! そういう子を助けるのがボクの役目なんだから! ……でもちょっとだけ不安だな。明日、一緒に屋上に行ってくれる?」

 茶色い獣のお願いに、しかし鈍色の影は首を横に振る。

「ごめん。明日は単発バイトあるから無理。喜読さんとかに頼めない?」

「こころちゃんは……どうだろう。一応相談してみるけど、たぶんクラスの子と遊びに行っちゃうんじゃないかな……」

 二つの影はうーん。と悩みながらも、目的のアパートへ到着する。

「まあ、喜読さんは誘えたら誘うってことで。とりあえず、ダモモンにおねがいしてもいい?」

「もちろん! 明日、放課後に屋上へ行ってみるね!」

 古くさびれたアパートの前で茶色い獣と鈍色の影は別れた。鈍色の影は暗い住宅街へと消えていく。

 新月の闇夜に平穏は保たれ、深夜の怪物退治は数分にして終わりを迎えるのだった。

 バイトあるから仕方ないとはいえ、ダモモンに任せちゃって大丈夫かな……?

 え?このスペースはなにかって?次回予告だよ次回予告。

 え?アタシはだれかって?それは数話あとのお楽しみってことで。

 次回、浮遊嬢は落ちぶれない、第1話!

『飛び降り少女は死にたくない』

 お楽しみに!

 あなたにしか、救えない人がいるんだ。

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