31章・頼りになる味方−1
(言葉がキツくなっちまったけど、強化くれた奴にも礼を言わなきゃな。)
会心の一撃を放った加藤の気分は、一度は腕を失う危機に直面した反動もあり高揚していた。
珍しく歓声を上げるクラスメイトに手を挙げて応えたが、その瞬間に歓声が止んだ。
「加藤、危ない!」
誰の警告かは分からないが彼らには見えていた。
地面に叩きつけられると思われたムゥは接地直前に体を捻ると、着地と同時に地面を蹴って反撃に転じたのだ。
振り向いた加藤が反撃に気付くよりも早く間合いを詰めたムゥは蹴りを放つ。
『崩界』とは違いオーソドックスな右脚の蹴りは、加藤の胸ほどの高さへと綺麗な弧を描いて放たれた。
本能的に腕を曲げて防御姿勢を取れたのは強化魔法の恩恵があってこそだったが、ムゥの蹴りを防ぐには不十分だった。
加藤に残された鉄甲も防御のための腕も、ムゥの一撃は容易く貫通した。
体内から響く骨の悲鳴は加藤本人にしか聞こえない。
一撃で蹴り飛ばされた加藤は力無く宙を舞うと、クラスメイト達の近くへと落下し、数度、転がると動かなくなった。
勇者として指折りの戦闘能力を持つはずの加藤が一方的に敗北するという光景を信じられず、戦場に静寂が訪れた。
そして、それを破ったのは加藤が吐血し、咳き込んだ音だった。
加藤の生存が確認できた事で我に帰ったクラスメイトだったが、躊躇う事なく彼に駆け寄れた者は半分もいなかった。
加藤、山口、渡辺がいなくなった今、彼らの戦力は半減したと言ってもいい。
単純な戦闘能力以上に、戦いに慣れていない者や、恐怖を拭いキレない者が多数いる事の方が問題だと気づいた者も数名いた。
怯えを隠しきれない勇者達を見ながら、ムゥはゆっくりと息を吐いた。
「勇者と呼ぶには頼りないが……。」
様子見は終わったと言わんばかりにムゥは剣を抜いた。
やはり剣での戦いが彼の本来のスタイルらしい。
それを見た勇者達の中で、手を抜いているにも関わらず加藤を容易く退けたという事実がさらに重くなる。
体の震えを止められない者も一人や二人ではない。
それでも何人かが勇気を振り絞り構えを取る。
特に盾を持つ者はその手にいつも以上の力が込められた。
数の優位は圧倒的でも、どちらが怯えているのかは誰が見ても明白な中、ムゥは無言で剣を納めた。
不意の行動に力の抜けたクラスメイトとは逆に、王国兵達は魔法を警戒して強張った。
戦場での危機感の違いがそうさせてのだった。
幸運にも今回は王国兵達の警戒が杞憂に終わる。
ムゥは一切の攻撃行動に移ることなく空を見上げたのだ。
ぼんやりと眺めるのではなく。どこか一点を見つめるムゥの視線に目を向けたクラスメイトの一人が声を上げた。
「な、中村と森下か?」
ムゥには初見の物体。
形状は鳥に近いが明らかな人工物が人影を二人載せて、陽光を照り返しながら高速でこの場へ向かっている。
全員が無言で見守る中、それはを下げながらクラスメイト達の近くへと降りてくる。
横幅を増やしたサーフィンのボードに取っ手と両翼を付けた簡素な作りだが、魔法が存在するこの世界ではそれでも飛行が可能だった。
だが、その最後は不時着というのに近かった。
ソレが何なのか知らないムゥにすら不自然な挙動だった。
こちらに向かってくる中村は真剣な表情で、後ろの森下は怯えたように中村にしがみついている。
地面に接触する直前、中村は森下を抱えて飛び降りると、乗り物は減速することなくクラスメイト達から離れた所に大きな音を立てながら滑って静止した。
目の前で繰り広げられた光景が理解できず眉を顰めるムゥに対し、クラスメイト達はどこか安堵した表情を浮かべていた。
「みんな、お待たせ。」
そう言って周囲を見渡すと中村の表情はクラスメイトと逆に曇っている。
「何があった?戦ってたように見えたし、魔法を使った跡がみえるけど?」
何と答えるか迷うクラスメイト達の横から王国兵が起きた事をかいつまんで説明した。
彼も中村ならば戦闘には至らなかったであろうと思う者の一人だった。
「そうですか。」
少し困った顔でムゥに向き直った中村は、
「僕の仲間が申し訳ありませんでした。話し合いで解決はできませんか?」
と問いかけた。
ムゥは当然のように、
「無理だ。」
と答えた。
「武力による解決は本来、僕達が望むところではありません。」
中村は説得を試みたがムゥは短く、
「無理だ。」
と繰り返した。
「取り付く島もないって感じだな。やるしかないぞ。」
中村の背後から姿を現したのは加藤だった。
続いて山口、渡辺が姿を見せた。
治癒魔法を使える者が残った魔力を振り絞って彼らを回復したのだ。
中村と森下を含めたフルメンバーであればムゥも倒せると判断してのことだった。
中村は名残惜しそうに、
「仕方ないか……。」
と答えて剣を抜いた。
「聖剣、か。」
ムゥの言葉を中村は肯定した。
「はい。王国が最も厳重に保管していたうちの一本です。」
中村が勇者の中でも特別に評価されているのは、これを使うことができた事が大きい。
「僕も完全に使いこなせているわけではありません。出来ればもう一度話し合いから始めたいんです。」
中村の言葉にムゥは、
「違うな。」
と、冷たく答えた。
「え?」
「お前は、いや、お前達は闘争を望んでいる。己の力を試すためにな。」
「そんなつもりは……。」
「お前は抜いた時点で剣に魔力を込めていた。戦意のある者の行動だ。二度とそんな気が起きぬよう、その剣もここで叩き折ってやる。」
中村の発言を否定した言葉と同時にムゥから初めて闘気が発せられた。
「みんなは下がって。僕達がやる。」
クレイを上回る圧力に中村のパーティーメンバー全員が身構える。
ムゥと戦い、敗北した加藤も怯えている様子はない。
それは対峙した経験からフルメンバーでかかれば十分に勝てる相手だと判断したとの表れだった。




