24章・戦局の見極め−1
エルフの戦術は森に侵入したものへの対策を主眼に置いており、遠距離攻撃が基本となる。
つまりは魔法と弓で森の死角から相手を包囲して攻撃を仕掛けるのだが、今回のように森の外では視認性の悪さと三次元的な攻撃角度が失われてしまい、その真価を発揮する事は無かった。
だが、その結果が彼らの劣勢に直結する事もなかった。
勇者と呼ばれる山口達に教えられた編成、戦術はどんな状況にも対応しやすいバランスに優れたもので、過去の勇者パーティーも採用していたものである。
この編成で対応力を発揮するには勿論知識と経験の両方が必要になるのだが、特に後者は訓練だけで身につくものではない。
彼女達が訓練をした相手は似たような編成のパーティー、しかも個々の能力であれば魔力のみで圧倒できる相手も多い王国の騎士団が主である。
実戦においてはイレギュラーな動きをするモンスター達は連携に乏しく、逆に連携の取れた人間の山賊を相手にしても魔力の差で圧倒できてしまう個の差が圧倒的で大した脅威になりようがなかった。
対してエルフ達は互いをフォローする連携を取り、条件次第では一撃でも命を奪える攻撃を放って来る。
実戦の経験が桁違いのエルフ達は急襲を仕掛けた山口達よりも落ち着き払って戦闘に臨み、完全な遠距離戦に対応できるのは人数の三分の一以下しかいない相手の動きをほぼ完全に封じつつあった。
「ちょっと!剣士の人達は前出て戦ってよ!」
苛立つ山口の声に答えたのは加藤だった。
剣は帯びていないが格闘で戦うための籠手を装備しており、剣士と同様に前衛を張るタイプである事は明らかである。
「ムチャ言うなよ。距離が詰められねーだろ。」
相手からの遠距離攻撃は最前に立つ盾使い達が受け止めているのが現状である。
その背後で攻撃をやり過ごしているのが山口達であり、盾使いのクラスメイト達よりも前に出れば集中砲火を浴びる事は容易に予想された。
「じゃあ盾使いの人と前に、」
「行ったらお前ら、自分で攻撃防げよ?」
前進を指示する言葉を遮って加藤が反論し、山口は押し黙るしかなかった。
剣や盾を持ち、前衛と思われる戦士達も弓や魔法で遠距離攻撃を仕掛けてくるエルフを見て山口は口撃の角度を変える。
「アンタ達も魔法は使えるんでしょ?あのエルフ達みたいに攻撃手伝ってよ。前衛でも魔法の訓練はしろって言われてたでしょ?サボってたなんて言わないでよ?」
あくまで上からの態度に先程から押し殺し切れていなかった苛立ちを、次は隠す事なく加藤は反撃する。
「お前らだって後衛だけでも戦えるようにしとけって言われてただろ!それにアイツら、盾使ってないのにお前らの攻撃防がれてるじゃねぇかよ!」
加藤の言う通り、山口達の遠距離攻撃はエルフ達に一切のダメージを与えていなかった。
最初の一撃こそ大森林の木を削りエルフを驚かせたものの、戦闘に入ってからはそれほどの攻撃力を発揮していなかった。
交戦状態で相手からの攻撃に晒されながらでは同程度の集中力で魔法を放てるわけもなく、威力の上限を看破したエルフ達は自分達に直接害のある攻撃を魔法で迎撃しながら反撃する戦術を選択し、全ての攻撃を防いで無傷のままだった。
容易く実行しているように見えるが、魔法に魔法を当てるのは高等技術である。魔力の強さのみで出来る芸当ではなく、山口達には出来る訳がなかった。
見様見真似で試したものの、惜しいところにすら届かなかった山口は頬を紅潮させながら怒鳴り返す。
「あんなの出来る訳ないでしょ!魔法練習してたら分かることじゃん!」
不毛な怒鳴り合いが続けられたのは今が膠着状態だとどこかで思っていたからだが、エルフ達はそう見ていなかった。
「どうだ?」
「やはり前に出てくる事はなさそうですね。おっしゃる通り、経験は浅いようです。」
「魔法の威力があれほど落ちれば誰でも分かる。あからさますぎて罠かとも思ったがな。防御も盾に頼るとは、愚かだな。」
「では最初のご指示通り、このまま?」
「ああ。」
指揮官と思われる男のはっきりとした答えは、自軍の優勢を疑わない確信に満ち溢れていた。
山口達は気づいていなかったが、エルフ達の魔法攻撃は徐々に火属性が中心となり、それ以外の属性を使う者は迎撃に魔力を使うように変化していた。
ヒトよりも遥かに多くの魔力を持つエルフ達だが、相手が勇者を名乗る事もあり一般的な優位性に頼った戦い方はしない。
無尽蔵でない以上は消費を最小限に抑え、なおかつ最大の効力を発揮するよう考えられた戦略である。
森に害をなすほどの威力がないなら無視して構わない。
防御のための魔法すら使わず、攻防一体となるよう、攻撃魔法を攻撃魔法で迎撃しつつ回避凌ぐ。
遠距離戦を基軸にするならば基本的な戦略だったが、やはり山口達は対応できていなかった。
いつも通り、前に立った盾使いが攻撃を防ぎ、その後方から反撃を行っているのである。
「戦局は既に我々に傾いている。そろそろだ。」
指揮を取る男の見立ては冷静で、正確だった。




