22章・勇者が現れ、エルフは揺れる−2
数日後、再訪した勇者を含む使節にエルフ達の決定が伝えられた。
「は?魔王との戦争になるかもしれないって言ってるのに、協力しないってコト?」
特別な存在としての扱いに慣れ、自分たちの力を自覚した少年少女達の半分以上は要望が通らない事に不満を隠そうとしなかった。
声を上げた山口美羽も元の世界ではあまり目立たない性格だったが、高い炎魔法の適性を発揮してからは非常に直情的な少女に変わっていた。
「そういうわけではございません。先程も申し上げた通り、資源の提供についてのみ約束するのは半月お待ちいただきたいのです。」
あくまで丁寧な言い方だった。
深い森と一体となりひっそりと生活し、高い魔力とヒトより遥かに長い寿命を持つ。そしてプライドが高くヒトを見下した傲慢な態度を取る。
ファンタジー作品でよく見るエルフの印象と合致したのは前半だけで、彼らの対応は穏やかで高圧的なものには全く感じられず、肩透かしを食らった者も多かった。
だが山口をはじめとした数人はそれでは納得できなかったらしい。
攻撃的な魔力を発して要求への断りを述べたエルフへと明らかな敵意を向け、交渉に来たのか脅迫に来たのか分からない態度をとっている。
心情をストレートに口にしたのは山口だった。
「魔王が復活したら自分達も危ないって分かんないの?掟か何か知らないけどアタマ固すぎでしょ。役所かっての。」
「ヤクショ?とは何でしょう?」
「……っ。自分達のルールじゃなくてもっと柔軟に対応しろって言ってんの!」
役所での手続きなどしたことのない山口はその実感もなく、浮かんだ言葉を発しただけであるため反論にはなっていなかった。
それを聞いたエルフも理解ができ困惑の表情を浮かべたのみである。
山口の怒りを感じることはできても、これではどうすれば宥められるのか、長い人生経験を振り返っても妙案は浮かばない。
少し冷静さを欠いた山口の言動は止まることがなかった。
「これから魔王と戦うことになるんだから皆んなで協力しなきゃダメだって単純な話でしょ?アンタらが大切にしてる森も襲われたら、自力で守れんの?」
山口の感情に戸惑いがらも、窓口役を務めるエルフの対応は冷静だった。
「我々エルフは森と共に生きる者。森と共に運命を共にしますが、魔王の軍が森に危害を加えないならあえて敵対することもありません。その方針は皆様もこれまでの経緯からご存知かと思います。」
その言葉に山口は少し怯んだ。
王国で魔王との争いの歴史を学んだ者ならそのことも知っていて当然の知識だった。
エルフ達が森に住み始めた歴史は人間と魔王の戦いの歴史よりも浅い。
大森林は元々、普通の人間の魔力では方向感覚を失い迷ってしまうため出られない地域だったのだ。
正確には不明だが、ある時期から他の地域からエルフ達が大森林に住み始め、その中を自由に往来できたために彼らと親交を持てた一部の者が大森林の恩恵にあやかれるようになったのだ。
魔族達の地域への案内も、挙兵した魔王が大森林に害を与えてでも通ろうとした時に限られ、森に害を与えない場合にはエルフは争いを静観するのが彼らの基本姿勢だった。
「そして、」
言葉を続けるエルフからはこれまで一切見せなかった感情が込められている。
「自力で守れるのかという問いは、日々森を守るために研鑽を積む我ら全員への侮辱になりません。森が滅ぼされるならば、命運を共にする覚悟は皆できております。」
口調こそ丁寧だが声には明らかな怒気が含まれおり、彼の背後からは呼応するようにエルフの戦士達が姿を現した。
外敵が現れた際、最初に戦う役割を与えられた者達である。
彼らはこの時点ではまだ本格的な戦闘を避け、対話の意思を持っていた。
だが、山口は武力を行使した。
腰に下げていた小型の銃を抜いたのだ。
銃と言ってもSF映画に出てきそうな長方形を途中で折り曲げたようなデザインで、山口の手でも容易に握れるサイズの小ささである。
彼女が使用する魔法を「射出する」イメージを具体化しやすくするために用意された道具でしかなく、本人以外にはガラクタ同然の武器だが、彼女が銃口部分に魔力を集中し引き金を引くとレーザー銃へと変貌する。
「覚悟とか関係ないから!大した力も無いくせに!」
叫びながら放たれた白い炎は無防備なエルフに直撃すれば容易に貫通しただろうが、今回は後方の森に向かって放たれた。
正体を知らない者には白い直線にしか見えないそれは圧縮された炎である。
空に向けて放たれたようにも見えるその魔法は山口の狙い通り、一本の木の先端付近に直撃した。
着弾点からは煙が上がり、木の一部が抉れ、枝の一本がぼとりと落ちた。
「なっ……。森の木を……⁉︎」
「えっ?あれだけしか?」
エルフと山口からは驚きの声が上がったがその意味は逆だった。
大森林はダンジョンに近く、その木の一本一本も本来は容易に破壊できる代物ではない。
ほとんど溜めもなく放たれた魔法ではその表面に触れるだけで霧散して当然なほどである。
故にエルフ達からは一撃で木の枝が落ちた事に驚愕して声を上げたのだ。
対して山口は当たった部分から上を全て消しとばし、何ならその木が燃え上がってしまえと思いながら魔法を放った。
にも関わらず抉れて煙が上がる程度しか破壊できなかったことに驚いたのだった。
どちらにしても、彼女の行為はエルフにとって完全な敵対を示す行為である。
その一撃はエルフ達が持っていた対話の意思を間違いなく消し去り、戦士達全員が戦闘のために抑えていた魔力と感情を解放した。
対峙していたエルフ達はすぐさま森の方へと後退し距離を取る。
山口の行動に慌てふためき、対応が遅れたのは味方のクラスメイトと王国の兵士だった。
魔力に敏感なエルフが彼らを見て脅威を感じ交渉が有利になれば儲け物程度の認識だったが、その勇者本人が開戦の原因になってしまうのは王国の者も想定外だった。
クラスメイトは山口を諌める者とエルフに対応するために臨戦態勢に移る者に分かれたものの、口では諫めた者もエルフに対応するため戦闘態勢をとったことで交戦は避けられない状況へと陥った。




