15章・勇者の自覚−2
「基本は変えずにやるぞ。長谷川さん、強化は出来る?」
「大丈夫。」
長谷川は素直に答えたが村上は舌打ちした。
「またお前の指示かよ。」
だが伊藤の対応は変わらなかった。
「基本は変えない方がいい。逆に崩れるぞ。」
「イトウの言う通りだ。」
伊藤に従うのは不服そうだが、クレイには逆らえなかった村上はそれ以上反論せず、ただ、
「俺は『使う』からな。」
とだけ答え、伊藤も、
「好きにしろ。」
と返しただけだった。
長いやり取りではなかったが相変わらず動く様子のない相手に、再度波状攻撃が仕掛けられた。
最初に突っ込む山田からしてその動きには変化が見られた。
ただただ猛進し続けず、衝突する直前に雄叫びと共に盾を叩き付けた。
闘技場内に響くほどの音と共に砂煙が舞い上がる。
が、攻撃対象は側面に回避していた。
山田の後方から、
「ガトリング!」
という池田の声と共に土属性魔法で生成された弾丸の雨が降り注ぐ。
回避方向の前方に向けて放たれた魔法は狙い通りその動きを止めた。
移動方向を転換するため完全に止まった一瞬を見逃すことなく、砂煙を突き抜けた伊藤が斬りかかる。
完璧と言っていいタイミングでの攻撃は一段階ギアを上げた速度で回避されたものの、フードと手で押さえた仕草は余裕を失っているのが見てとれた。
そして腹部に反撃の蹴りを受けた伊藤だったが、
(イケる!)
と直感した。
その一撃には体重が乗せきれておらず、咄嗟に後方へと飛び退いた彼には大きなダメージを与えられていなかったのだ。
自分達の速度が上がった事の効果を伊藤は実感していた。
野球部の彼は速球が打たれにくい投手とは単に球が速い投手ではなく、変化球で速度に落差をつけることができる投手だと理解しているのだ。
今回もここまで肉薄できたのは速度に落差があったからに違いない。
蹴り飛ばされた伊藤と入れ替わるように攻撃を仕掛けたのは最後の前衛、村上である。
「くらえぇぇぇ!」
叫びと共に繰り出される攻撃は雷を纏っている。
村上が『雷神形態』と名付けたこの状態は身体強化魔法に近い。
触れれば電気が流れるため防御すればもちろん、接触するだけでも電気が流れる攻防一体の魔法になっている。
近距離であれば狙った方向への放出も可能であるため打撃を避けても攻撃出来る。
放出の問題は村上も制御が完璧ではないため付近の味方を巻き込む可能性もあることで山田も伊藤も巻き添えになった事があるためこの状態では近づき辛いのが難点なのだが、これを攻略できた者はほとんどいないという信頼性は高い。
村上の正拳突きを正面から受け止めて拳を掴んだ瞬間、対峙する二人の周囲に閃光と電流の音が迸る。
敵の行動不能を確信した伊藤の耳に響いたのは金属が折れる音と、村上の呻き声だった。
突き出された村上の右拳は真正面から左手で受け止められ、足首と同様にただ握力で握りつぶされそうになっていたのだ。
援護に動かねばと思った伊藤の動きを鈍らせたのは以前受けた電流の記憶である。
苦悶の声を上げながらも村上の雷神形態は解除されず電流を放ち続けているため、近づけば伊藤も影響を受けるに違いなかった。
そうなれば村上を助けるどころか敵前で行動不能という絶体絶命の状況を生んでしまう。
逡巡する伊藤をよそに村上を救ったのは、炎を纏った剣による斬撃だった。
飛び退かせたことで解放された村上の襟首を掴んで強引に後方へ放り投げながら、逆の手で持った剣で斬りつける。
完全に隙をついて飛び込んだつもりだったが、見事な身のこなしで避けられたクレイは苛立ちを全く隠すことなく舌打ちした。




