表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/53

14 学園の裏側

第14話をお届けします。評価とブックマーク、それに感想ありがとうございました。

 担任からの呼び出しから解放されて俺はリュックを取りに教室へと向かう。それにしてもスッキリしたな。あのアホ担任が白目を剥いて失神したからな。これがいい感じで脅しになって、今後の学校生活がスムーズに送れるといいんだけど。もちろん何か嫌がらせがあったら断固として抗議するぞ。俺は大人しくしている良い子ではないから、今日のように実力行使も止むを得ないという決意は一切ブレていない。


 でもできれば普通の高校生活を希望していたというのが俺の本音にはある。こうして担任やクラスメートと対立するのはけっして賢いとは言えないし、不本意と感じているのだ。何とか打開する方策はないかとちょっとだけ考えてみるけど、いいアイデアが浮かぶ前に新たなトラブルに巻き込まれるから、何の策もないままにこうして入学してから最初の1週間を終えることとなった。


 よくよく考えると世間一般の常識からすれば、俺が折り合って学校生活を送るんじゃなくて、周囲がもっと普通の社会常識に基づいた考えや行動をするべきなんじゃないかと思う。ああ、でもその一般常識から外れた存在が勇者なんだな。入学初日に俺は一般人のサンプルだと言われたから、ご要望があれば勇者様たちに一般常識を叩き込んでやっても構わないか。きっとその方が手っ取り早いよな。泣こうが喚こうが骨の髄までこの俺があいつらに俺が知っている限りの常識というものを教えてやろう。四條流の常識というのは相当痛みを伴うけど、それは我慢してもらうしかないだろうな。


 とまあこのようなナイスアイデアが閃いたと思ったらそこはもう教室の前だった。すっかり全員家に帰っているだろうと考えながら扉をガラガラと開けると、そこには1人でロリ長が席に座って待っていた。



「四條、ずいぶん時間がかかったな。鴨川さんは君を待っていたかったみたいだけど、二宮さんに手を引かれてつい今しがた帰ったところだよ」


「信長は俺を待っていてくれたのか?」


「そうだね、実は四條に確認したいことがあったんだ」


「確認? 戻ってくるのが遅くなったのは担任に呼び出されて話をしていたせいだぞ」


 俺は生徒指導室に連れて行かれた経緯をロリ長にありのままに話した。当のロリ長は興味深そうに俺の話を聞いている。



「なるほどね、そんなやり取りがあったのか。四條、この学園はどこかおかしいだろう」


「おかしいことだらけだな。特にあの担任は何を考えているんだ? 俺には全く理解できないぞ」


「あの人は教員ではないんだよ。遺伝子学の研究者さ」


「研究者? 何でそんな人間が高校のクラス担任をやっているんだ?」


「ほら、昨日の朝にこの学校は勇者を管理するために設立されたと教えただろう。あの時は周りに人がいたから突っ込んだ話ができなかったけど、今なら大丈夫だから話すよ。僕の知っている範囲ではここはある種の実験施設なんだよ」


「実験施設? 何の実験をしているんだ?」


「1箇所に勇者と聖女、その他にも優れた戦闘能力を持った人間を集めて、その細胞を集めてバイオテクノロジーやクローン技術に応用していく研究が裏でこっそりと行われているんだ」


「何で信長がそんな秘密を知っているんだ?」


「僕の父親が色々と調べていたからね。たぶんクラスの誰も気がついていない隠された学園の裏側を僕は知っているのさ」


「何でそんな秘密を俺に明かすんだ?」


「四條は勇者ではないだろう。できれば君をあまり巻き込みたくないから忠告しているんだよ」


「もう十分に巻き込まれているぞ。それで、どんな研究が行われているんだ?」


「短期的には遺伝子や細胞の活性化や強化がテーマになっているみたいだね。あとは勇者と聖女が結婚してそこから生まれた子供の能力がどうなるかといった長期的なテーマもあるみたいだよ」


「まるでモルモットだな」


「そのとおり、特にあの担任は言ってみればこの研究のリーダー役を務めている。だから朝と帰りに僕たちの様子を見に教室にやって来るのさ。それ以外は自分の研究室にこもっているよ」


 なんだかちょっとだけこの学園のおかしな空気の理由が見えてきた気がするな。あの担任は教育者ではなくて研究者だという訳か。どうりでいつも事務的な雰囲気を漂わせていたはずだ。あいつにとっては生徒の人格や個性などどうでもよくて、研究対象としての勇者の存在こそが大切なんだ。だからそこに紛れ込んだ俺の存在などただの不純物程度の認識しか持っていないんだな。



「やっと話の辻褄が俺の頭の中で噛み合ってきたぞ。信長、色々教えてくれてサンキュー」


「どういたしまして、それよりも僕が四條に聞きたかった件なんだけど、四條はもうダンジョンに入っているよね」


「げっ! 秘密にしていたのに何でバレたんだ?」


「入学してまだ数日しか経っていないのに、四條の身体能力が急激に上昇しているだろう。君自身は気がついていないかもしれないけど、僕の目は誤魔化せないよ」


「実は入学式の翌日に見学しに行ったら、その場で登録していつでも中に入っていいと言われたんだ。四條流の有段者には資格があるらしい」


「そんな規定があったのか。ちょっと調べてみようか」


 ロリ長は自分のスマホを取り出して何かを検索しているな。ちなみに俺は携帯は通話しかしないから今でもガラケーを愛用している。そもそもアプリとかメールとか使い方を知らん。



「ああ、きっとこれだね。ダンジョン管理協会に登録している格闘技団体、武道協会、道場等の有段者に限りダンジョンの探索を許可すると書いているよ。僕も一通り目を通したつもりだったけど、ここは見落としていたな」


「どうやらボクシングやプロレスの経験者とか柔道、剣道、空手の有段者も中に入れるらしいんだ。俺の実家の貧乏道場も登録だけはしてあったようだな」


「ダンジョンにはどのくらい入っているんだい?」


「登録の翌日から毎日3時間以上1階層をウロウロしていた。今のレベルは8だ」


「レベルがもうそんなところまで行っているんだ! ずいぶん差をつけられたな」


「それでもまだ体力の数値は信長に追いついていないぞ。勇者っていうのはスタートラインが俺たち一般人よりもかなり恵まれているんだな」


「確かにそのとおりだけど、四條は魔物に対する戦闘経験や技術を積み重ねているだろう。それは数値には表せない実戦でしか得られない貴重なものだよ」


「確かにそうだな。ところで信長、俺がダンジョンに入っている件は誰にも秘密にしてくれ。ただでさえ色々と風当たりが強いし、鴨川さんに知られるとまた泣かれてしまう」


「いいよ、誰にも話さないから安心して。僕は剣を扱う訓練しかしていなかったから、ダンジョンに入るのはクラスの他の生徒たちと一緒になってしまうな。ちょっと残念だよ、そんな抜け道があると知っていたら剣道でもやって段を取っておけばよかったよ」


「さすがに今からじゃ間に合わないな。信長が中に入る頃には俺が案内を務められるくらいになっているから任せておけ」


「期待しているよ。それから1人で探索可能なのは5階層までだと言われているから、それより下の階層には行かない方がいいよ。まあ四條のことだから止めても行ってしまうんだろうけどね」


「信長、誤解しているようだからしっかりと聞けよ! こう見えても俺は慎重派だからな。けっして無理はしないつもりだぞ」


「はいはい、それじゃあ帰ろうか」


「ああ、そうしよう」


 こうしてロリ長と2人でこの日は下校するのだった。






 翌日・・・・・・


 本日は待ちに待った土曜日だ! 丸1日かけてダンジョンの2階層以下を探索するために今朝は5時に起きて顔を洗って装備を整える。昨日はロリ長と話し込んだおかげで帰宅が遅くなり、ダンジョンに入るのを自重した。その分まで今日は時間をかけて2階層の隅々まで回るつもりだ。


 そして今日の俺は昨日までとは一味違っている。それは2階層では魔物が複数同時に出現するのを想定して昨日の学校帰りに新たな装備をホームセンターで購入したのだ。


 ジャーン! 右の腰のホルダーにささった2本目のバール、これが俺の新たな装備だ。今日からは両手持ちのバール使いとしてダンジョンで暴れまわるぞ!


 ちなみにホームセンターは学園から500メートルくらい駅に向かった場所にあるので、電車通学のロリ長も付き合わせた。『これが俺のメインウエポンだ!』と言ってバールを手にした俺を見て、ロリ長は大笑いしていたな。あやつが言うには、このうえなく俺に似合っているそうだ。


 まあ普通は剣やナイフを手にしてダンジョンに入るから、バールを武器にするのはウケ狙いと思われても仕方がないかもしれない。でも俺は心底このバールを命を預ける友だと思っているのだ。丈夫で長持ち、鈍器としての性能は折り紙つきで、振っても良し突いても良し、特に反対に握った時の突き刺す性能は中々の威力を誇る。これをロリ長に説明したらあやつも納得した顔をしていたぞ。この俺の手によってここからバール最強伝説は作り上げられていくのだ!


 水と食料をリュックに詰め込んでヘルメットとプロテクターをつけたら俺は家を出る。4月になると朝日が昇るのが早いな。もう外は十分明るいぞ。カラスの鳴き声を遠くに聞きながら俺は歩いて5分のダンジョンへと急ぐ。今までは下校後の時間帯にこの道を通っていたから、朝の雰囲気はなんだかちょっといつもと違うな。



「おはようございます」


 管理事務所に顔を出すと、カウンターには初めて見る女性の係員が2人座っている。片やオバチャンで、もう一方は20歳前後のロングヘアーのきれいな女性だ。よし、きれいなお姉さん一択!



「すみません、今手が離せないのでお隣のカウンターで受付をしてください」


 ハイ、あっけなくオバチャンの元に回されましたよ。実に無念だ! 普段クラスの聖女たちから無視されている俺だけど、こんな場所でもきれいなお姉さんと話す機会が奪われるのか!



「はいはい、こちらにどうぞ。おやおやずいぶん若い人だね」


「どうも、今週登録したばかりです」


「はい、ではカードを出してください。まあ、四條君ね。あそこの道場の息子さんでしょう。近所だからうちの子も10歳になったら通いたいと言っているのよ」


「ぜひよろしくお願いします。必ず心身ともに強い子に育てて見せます」


 貧乏道場では営業活動も必要だ。門弟確保のためにこうした営業トークもきちんと心得ているのだ。毎月赤字ギリギリでやっているから1人でも多くの門弟を確保せねば! それにしてもこの管理事務所は地元密着で運営しているのか? このオバチャンもどうやらご近所にお住まいの方らしいな。



「それでは気をつけていってらっしゃい」


「ありがとうございます。それではいってきます!」


 こうして受付を済ませると、俺はゲートを潜ってダンジョン内部に踏み込んでいく。それにしてもこの中に入って5日目だけど、これまで他の冒険者には1度も出会っていないな。このダンジョンは人気がないのかな? まあいいか、余計なことは考えずに早く2階層に下りていく階段を目指そう・・・・・・








 ほう、ここが2階層か! 階段を下りるとそこには1階層と同じような幅が3メートル、高さも3メートルの通路が先に延びている。仕組みがどうなっているのかわからないけど、通路自体がボーっとした光に照らされて視界はそれほど悪くない。地図を見ながらまずは向かって右側のエリアを進んでいこう。


 こうして通路を15メートル進んだ場所で俺のスキルに触れる何者かの気配を感じる。たぶん進行方向の先にある横道にいるはずだ。足音を立てずに慎重にその場所に近づいていく。横道の角からそっと顔を覗かせて向こう側の様子を確認すると、そこには2体のゴブリンが座っていた。


 これは先制攻撃のチャンスだな。腰の2本のバールを引き抜くと両手に持って感触を確かめる。うん、手に馴染むな。それにこの長さだと四條流の体術を生かす上でも邪魔にならない。


 こうして俺は呼吸を整えてからバールを手にしてゴブリンたちに襲い掛かっていくのだった。



次回はダンジョン2階層から3階層に足を伸ばす重徳の様子になりそうです。果たして彼がどこまでレベルアップするのか・・・・・・ 投稿は一日おいて火曜日の予定です。どうぞお楽しみに!


ここ1週間ほどローファンタジーランクの20位前後に張り付いたままで上にも下にも動きません。日間総合ランクも250位前後をウロウロしています。まだこの小説に上に突き抜けていくだけのパワーがないんだと思って、今後とも面白い内容で皆様に満足していただけるよう精進いたします。どうか読者の皆様、応援をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ