始まり、それは運命の歯車 Ⅱ
・・・――――――ッ!――――・・・ぶ―――じか―――こ・・・れはッッ――――
「はっ!!」
俺は飛び起きた。それは目覚ましが鳴るより早く、まだ薄暗い、ひんやりとした心地よい雰囲気の中だった。それなのに何故か胸騒ぎがする。
(いつもと可笑しい。なにか怪しい。俺は昨日・・・新作のラノベを買って、それで?)
俺は周りを見渡した。散らかった少年誌や漫画。服などがハンガーに掛かって、半開きのクローゼットから覗いていた。手元には鞄が有り、自分の生徒手帳などが置いてある。
(ここは・・・俺の部屋だ。何か可笑しいってわけじゃ―――ッッ!!)
突然頭に、ピシンッと激しい痛みがやってきた。
(黒い影、に襲われて、白?髪?なんだ?何か言っている。小学生?小さい?耳?頭の上に?あぁ、髪じゃなくて尻尾か・・・)
「尻尾ぉぉッッ!!!??」
突然やってきた痛みと共に、昨日の出来事がうっすらと蘇えった。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
視界の端に蠢く影。俺はそれが気になった。俺はそいつの後を追った。そいつはでかかった。だが早かった。俺はチャリを必死にこいで、後をつけた。三度目の曲がり角に差し掛かったところで追いかけっこは終わった。
巨大な影は急に止まった。急いでチャリをこいでいたが結構距離があり、土手を下れば早く追いつく事が出来る。が、俺はその巨大な影が止まった理由が分かった。獲物をみつけたのだ。俺の所からでも分かる白い髪。暗く、黒に塗りつぶされたこの闇夜で一滴の白。純白で染まることがない真っ白な粉雪。その白は、色なき世界から俺を掬い上げた。
「―――ッッ!!あんな所で―――何やってんだよっ。」
影が動き出した。さながら駆ける混沌。俺は土手からチャリで駆け降りた。多少、転びそうになったが関係ない。あのままじゃ――――ッッ!
追いついた、影に追いついた。やはりでかかった。カンケーない。チャリから降りた。駆け寄った。・・・そこで俺は凍りついた。
白く白く白い。処女雪のように白く聖く清い。世界が白く染まった。この感覚はあの声を聴いた時以来だ。その白さはまるで暴力。この闇夜に染まらぬ白。
影が伸ばした。影を伸ばした。槍のように真っ直ぐに、曲がることなく。
(あぶねぇッッ!)
足が出ていた。気づかぬうちに出ていた。恐くないかって?恐いさ。死にたいのかって?生きたいさ。じゃあ何故かって?・・・俺は小さい頃から夢があった。光の巨人みたく、悪い奴をぶっ飛ばしたい。菓子パンのヒーローみたく、愛と勇気で生きてみたい。そして、ラノベの主人公みたく、命がけで助けたい。
俺は喧嘩が出来るわけでも、強いだけでもない。勉強だってそこそこ。運動が少し出来るだけ。―――でも、守りたい。諦めきれなかったんだ。小さい頃からの絶望、『非日常』がないこと。今目の前にある。日常が変わる。『非日常』に変わる。
「しゃぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!」
振り返る白、白い髪を靡かせ、立ち荒んでいた。
貫く感覚。影が突き刺さる。腹から先端を覗かせる。
影が吹き飛んだ。後方遙かに吹き飛んだ、って言うかぶっ飛んだ。
「こぼっっ。」
変な声が出た。地面に衝突した。ぼんやりとする。駆け寄る白。顔を覗かせる。―――白く聖く清い。整った顔立ち。まだ幼さを残している。ここまでなら、絶世の美少女で通るかもしれないが、頭の上に耳。それも猫の様な。九ツに分かれた尻尾。九尾と言う奴か。
「―――じょぶか?―――今治してや―――な無茶を・・・これは・・・今日発売のライトノベルッ!」
ん?可笑しくなって来た。
「こやつ、なかなか趣味が合うの~。名前は・・・みるも―――とうや?漢字が変わってるの~。さてと、治して記憶を消すかの~。」
痛みが引いてく。
「さて、記憶をの前に、・・・ちょっとだけなら・・・読んでも罰が当たらぬのじゃ。そうにちがいないのじゃ。」
~~~~♪携帯の着メロがなった。
(俺のではないからあいつのか。アニソンか・・・こいつとはうまい酒が飲めそうだな。)
「のじゃのじゃ?のじゃ?のじゃ~、あいつか?・・・逃げたのじゃ。そして巻き込まれた一般人が一人おるの~。のじゃ。分かったのじゃ。家に送ってってやるのじゃ。ナビ、宜しくなのじゃ。」
そして俺は、家に送られて、記憶をけされるのを忘れさられてた。
「ちょっとだけなら―――って時間がないのじゃ。・・・ちょっと借りてくだけなら問題ない・・・はずなのじゃ。」
(ありだよ。おおありだよッッ!)
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「そうして俺は、新刊のラノベを取られたと。・・・じゃないだろッッッ!」
(くっそ~、今日のうちに読み終わる予定なのに。あのキツネヤロ~、覚えとけってんだい。)
「兄ちゃん起きてんの~?さっきから騒がしいよ。思春期なの?もしかして思春期なの?青春なの?可愛い可愛い妹に欲情しているの?やらし~。でも・・・お兄ちゃんなら・・・発情しちゃった?ねーねー、妹にヤラシイこと言われて発情しちゃったの?「いや、ないから。「即答ッッ!」
こいつは俺の妹の、覗茂菜護梨。中学3年生だ。顔だけはパーフェクトな奴だ。ただ、残念。何と言うか、残念。何かと、残念。
うちは、妹と二人暮らしだ。親は生きてるが、なにかと経験だとか言って妹を、俺の住む一軒家に送ったのだ。
「昨日、帰って来るのおそかったね。」
「え?あ、ああ、ラノベ買って帰ったからな。」
「にしても、遅かったような。もしかして、いやらしいおもty「言わせねーよッッ!」
「俺、少し汗かいたから風呂はいるわ。」
「なるほど。そこで妹に対してのリピドーをはっさn「しねーから。」
俺は、何か起こる気がした。長く待ち望んだ、『非日常』な何か。
吉と出るか、凶と出るか。鬼が出るか、蛇が出るか。後が分からない状況でも、淡く、強い高揚感を覚えていた。
この感覚は、あの声以来だ。―――――――
・・・長くしちゃいました。てへぺろ。