新しい家族 4
「レイ、危ないから私が持つわよ」
「やっ!」
魔剣は半分になっているとはいっても、まだ二歳のレイは重いことだろう。
しかし、レイは聖剣と魔剣をズルズルと引きずって運び続ける。
不思議なことに、魔剣と聖剣は光りもしない。
まったく光らないなんて、珍しいのだ。
だから、もしかすると何か問題があったのかもしれない。
「レイブランド、フィアレイア……?」
呼びかけると、二振りの剣の宝石から視線を感じた気がした。
なんとなく深刻な空気を感じていると、レイがピタリと動きを止めた。
「……ぴーちゃん!」
いつの間に忍び寄ったのか、ぴーちゃんが天井に張り付いている。
おそらく、アンナが近くにいるのだ。
まもなく、遊びに出ていたルティアとハルトも戻ってくることだろう。
「まけんしゃんとせいけんしゃん、いたいいたいの?」
「……え?」
その瞬間、魔剣と聖剣が人に姿を変えた気がした。
レイブランドとフィアレイアは床にペタリと座り、レイに髪の毛を引っ張られている。
そういえば、もう少し小さい頃には、私もよくレイに髪の毛を引っ張られていたが……。
まさか、引きずっているように見えて、実は髪の毛を引っ張っていたというのだろうか。
しかし、二人は怒っている様子も痛そうな様子もなく、ニコニコとされるがままだ。
その姿はまるで、レイにほっぺを軽くペチペチされたときのお祖父様や、同じく髪の毛を引っ張られてしまったときの旦那様のようだ。
「ごめんなしゃい」
レイが、シュンとして髪から手を離すと同時に、二人の姿は掻き消えるように消えた。
もしかして、レイには常時二人の姿が人に見えているのかもしれない。
――それより、ぴーちゃんと会話している?
そんなはずないと思いながら、ぴーちゃんを見つめる。
『ピ……ピピピピッ!』
「……ぴーちゃん? レイと会話できるの……? まさか、ね」
「ぴーちゃん、いたいのだめって」
「は……?」
確かにぴーちゃんは、こちらの言葉を理解しているように見えることがあった。
しかし、会話できるかといえば『ピピピ』という高い音が聞こえるばかりだ。
「ぴーちゃんってしゃべることができるの?」
『ピピピピピ!』
レイは小首を傾げた。
「ずっと、おはなししてたよって」
「……」
ぴーちゃんの目の部分。
ハルトとルティア、そして旦那様やレイブランドとお揃いの柘榴石のような宝石がこちらに向けられた。
私とぴーちゃんは、しばしの間見つめ合う。
「神代の……てくのろじー?」
思わず呟いていた言葉は、魔導具同好会で研究されているという失われた古代の技術だ。
こんなとき、急に思い出してしまったが……。
ぴーちゃんは、三百年前の魔導具。
実際に、アーム部分にはどう採掘するか今となってはわからない冥鉄が使われていた。
「あの、ぴーちゃんは、なんて」
「うみにいこうって」
「うみ?」
もしかして『うみ』とは東端の外れにあるという海のことだろうか。
もう少し聞こうとしたとき、ハルトとルティアが戻ってきた。
二人は、薔薇の花を手にしている。
ハルトとルティアは、魔剣や聖剣の言葉を聞くことができる。
しかし、ぴーちゃんに話しかけはしても、何を言っているか理解している様子はなかった。
――まさか、ね。
「まけんしゃんとせいけんしゃん、にーにとねーねのとこいくの?」
「……レイ」
「はい、どーじょ!」
「……眩しいっ!」
「まぶち……っ!」
突然、赤と淡い水色の閃光が室内を染め上げた。
しばらく目がチカチカとしたが、ようやく視界が戻ってくる。
「「あれ、聖剣さんと魔剣さんに、触れるみたい」」
――ハルトが魔剣を、ルティアが聖剣を手にしている。
そして、レイはよほど眩しかったのだろう、小さな手で両目を押し隠していた。




