30日目 実験中に隙を見つけて買い出しに行く
捕まって今日で一カ月。ちょくちょく手伝わせてもらって、知らないことを割と補えた気がするわ。…ここからうまいこと逃れるすべは見つかってないけど。
え? 見つける気がないんじゃないかって? 失敬な。あるわよ。見つからないだけで…。
「てか、咲。貴方、研究はいいの?」
さっきから論文を読むわけでもなく、書類を書くわけでもなく、ただひたすらに珍しく寝てる雷を近くから見てるだけよ?
「大丈夫よ。これを見越してこれが許される実験を組んでるもの。使ってるのTGよ?」
TGか。なら大丈夫かしら。あれ、中見えないし、勝手にパソコンに結果出るものね。音…も加熱してるだけだから、バグらない限りでないものね。
って、駄目でしょ。何、丸め込まれかけてるのよ!?
「待ってる間に別の実験の準備が出来るんじゃないの!?」
「出来るけどー」
「人手が足りないとか言ってわたしを確保したのはどこのどいつよ!?」
「それはヨーロッパかしら」
「ふぁっく!」
確かにドイツはヨーロッパだけど! そんなこと聞きたいんじゃないわよ!?
「あら、貴方、英語喋れたのね」
「今ので喋れる認定するのはさすがにがば過ぎないかしら。てか、喋れるって言ったじゃない」
7日目に。耄碌するには早すぎるわよ。
ガシャーン!
「殺すわよ?」
あい。悪気はなかったのだけど……。怖い。即座にビーカー投げてこないでよ。
「ぽぽぽぽ」
「ありがとうね」
「ご苦労様」
わたしは悪くないから片付けないけど、尺八様がやってくれるみたいね。そんなんしてるから、気づ……だまっとこ。また投げられても困るもの。そもそも、明らかに雷側に問題あるしねぇ。鈍すぎる。
「てか、何でそんなの言い出したのよ」
「ほら、メリーってお人形さんみたいでしょう?だから」
あぁ。なるほど。
「ステレオタイプの日本人みたいな見た目だものね。わたし」
メリーさんって言ったら何となく金髪の女の子のイメージがあるけど、わたしは黒。
「怪異の発生源が捨てられた人形だし、色んなタイプがいるんじゃないかしら。昔ならわたしみたいなのと金髪幼女だけだったかもだけど、褐色幼女とか黒色幼女とか」
「確かに。人形が発生源だったらそうなってもおかしくないか。私はたぶん、私だけね。だって、元が塾に行きたがる子を怖がらせる冗談でしょう?」
冗談というか怪談というか…。まぁ、元がそれとは言われてるわね。ネットもない時代だったのにそんな作り話が世間を席捲して、社会問題になってめでたく怪異になりましたとさ。めでたしめでたし。
それが口裂け女。つまるところ、口裂け女は日本人がイメージする怖い日本人でしかない。だって、日本は基本的に汝の隣は日本人だ。別の国の人を想定する人はそんなにいないでしょうし。
「てか、話を逸らすんじゃないわよ!?」
「逸らすつもりはないわよ。全力で流れて行っただけで」
そんなことは……あるかー。わたしが乗ったとこあるしね。
「駄菓子菓子!それに気づいたわたしはスムーズに話を戻すのよ!」
「いや、戻せんでしょう。明らかに文頭が終わってるわよ」
ぐぬぬ……。
「この子、わかってたけど馬鹿なのかしら」
「あぁ!?こちとらちゃんと英語の教科書読めるのよ!?」
「知ってる?馬鹿と頭の良さって比例しないのよ?馬鹿っていうのと、テストで天が取れるってのは別ベクトルの話なの」
ぐにに……。
「それに、戻したところでどうするのよ。確かに私もボケたけど……。戻したところで得られる結論は「雷さん」で終わるのは確定的に明らかよ。私も計画に絡みはしたけど、首謀はあの人よ?」
「確かにそうなんだけど」
いやでも、人手不足って言ってたくせに何で休憩して……ってのは解決してるわね。むぅ。
「というかさっきからわたしと喋ってるのに、ずっと雷の方見てるけど、楽しいの?」
「楽しいわ。じゃないといつまでも出来ないわ」
そりゃそうよね。子供だったら心配だから見てる……って可能性も無きにしも非ずだけど。
「そういえば、はっきり聞いたことなかったと思うけど、好きなの?」
「見てたら分かるでしょ?」
あっけらかんと答える咲。知ってた。これがラブコメ小説とかなら実は雷が起きていて……とかあるんでしょうけど、残念ながらこれはコメディ。そんなことはないわ。
そして、主人公はわたし。輪をかけてそんなことはない。
「本文中に限定したら過去一のメタ発言ね……」
「咲も大概やばいわよ」
作者の既投稿全作品世界を俯瞰してんじゃないわよ!
「まぁ、それは置いといて、こうやって寝てるの見てると、雷も人間なんだなって気がするわね」
「確かに」
あれ、咲も頷いちゃうんだ。同意されないって思ってたのに。
「そりゃそうでしょ。基本的にこの部屋にしかいないのよ?普通、滅入っちゃうわよ」
「わね」
装置の搬入とかも結構そろってるっぽいからないみたいだし、食事はアレだし。授業はないっぽいし、会議とかネットで済ませてるし……。
「てか、食事、ほとんど買いに行った記憶ないのだけど、どんだけ買い込んでるのよ」
「1か月分くらいね。あら?そういえば。…あ、そろそろ起こしていいわね」
もうそんな時間なのね。それでもちゃんと6時間は寝てるのよねぇ…。
「雷さん、雷さん」
「ん。ありがとう。もうそんな時間か」
相変わらず寝起き良すぎて草生えるわね。こんだけ寝起きいいなら自力で起きられそうなものなのだけど。
「雷さん。実験に戻る前に一つ。ご飯の発注は「あ」……」
「あいあい。わかったわよ。行ってくるわよ」
発注したものが届くのに少なくとも一日はかかるものね。食事をとる時間はばっらばらだけれど、さすがに朝抜いて16時にご飯はかわいそうだもの。
今の時間なら生協は閉まってるわね。コンビニね。えーと、実験は……うん、放置しても大丈夫。
「電話頂戴」
「了解。『お願いする』」
『任された』
さて……と。目を離してもいいように動画を取れるように、スマホをセットして、あ。臭いが……仕方ないか。
「加熱しながら混ぜてる最中だから、倒さないようにお願い。出来たら臭いを記録してくれると嬉しいけど、怪異によって感じかたが違うから、どっちでもいいわ」
そもそも音も見え方も怪異と人間で聞こえ方が同じなのかって問題があるけれど。そこはしゃーないわね。あぁ、だから人型の怪異が欲しかったのね…。はぁ。
てってこ歩いて無事到着。さすがコンビニ。大学を出たらすぐそばにあるわ! 任されたってことはなんでもいいってことでしょう。
…固形物、平気なのかしら。ま、大丈夫よね。普通にカロリーほにゃほにゃとか食べてたし。であれば、ここは新鮮なおにぎりを買ってあげるべきね! でも、生野菜もそんなに食べてないでしょうし……。
サンドイッチとおにぎりでいっか! 食べる量わかんないけど、適当にパウチの商品も入れときましょ。冷蔵庫はあの部屋にあるもの。実験用試料冷やしてるけどね!
へんな臭いするものを冷やしてるわけじゃなし、いいでしょ!
電話電話……あ、置いてきちゃった……とでも言うと思ったかしら!? わたしはメリーさん。メリーさんは電話がないと始まらない怪異! 電話くらい召喚出来るのよ!
えいっ、うえっ。え。ナニコレ。何でダイヤル式の……しかも黒電話なのよ!? せめてショルダーフォンでしょうに!?
使ったことなかったのかですって? ……あるわけないじゃない! 普通、あの電話があれば事足りるもの! コンセント……を探すのも面倒ね。そもそも「なんであの子、あんなの持ってるんだ?」みたいな目で見られるのは間違いないでしょう。それに、これ使うくらいなら公衆電話使うわよ!
えーと、雷の番号は……分からないわね。くぅ。最初の一回以外、いつも再発信でかけてるから覚えてないのよ!
はぁ、もういいわ。諦めて帰りましょ。今度から電話は二つ持つことにしておきましょ。カメラを買うより、そっちの方が便利でしょうから。




