14日目 お手伝い
捕まって今日で2週間。怪異は寝る必要ないから買った本を読んでいたから、だいたい理解出来た気がする。え? 早い? …そりゃそうでしょ。だって、「だいたい」よ? どうせ突っつかれたらボロが出る程度よ。
それでも、分かったことがあるわ。それは、非常に悔しいことに雷の本が分かりやすいってこと。この部屋で雷の本が見つからない理由が分かった気がするわ。
雷は恥ずかしがって処分したがるけど、それを見てごめんねって思う以上にわかりやすいから手元に置いておきたいって思いが勝るのよ。
幸いなことに雷は集中していたら気づかないから、どこかに隠しておきましょ。皆、自分の領域──輪入道だと天井の配線の中、咲だと冷蔵庫の中とか、どこに入れてるのよ!? ってとこだけど──に隠してるから、わたしもそうするわ。
……でも、わたしの領域ってどこ? よくこのソファに座らせてもらってるから、ソファの下でいいわね・
ソファの下は…何もないわね。「ひょっとしたらエロ本が
「あったら苦労しないわよ」
「!?」
何で心を……って普通に声に出てたのね。まぁ、そうよね。雷はたぶん色んな欲求が知識欲になってる。睡眠と食はないと死ぬけど、色欲はねぇ…。子孫残せないけど自分は死なないものねぇ。そりゃ、切り捨てられやすいわよね。
「何かいい?」
「わたしにそれを聞くの?」
見た目ロリよ? しかも知識としては知ってるけど、それだけの怪異よ? 発生源的に。
「わよね」
「しいて言うなら研究成果出すことじゃないかしら」
何か欲しいものない? って聞いてくれるかわかんないけど、そん時に言えればワンチャンあるかもしれないわよ?
おー、椅子の下の隙間、あんまり大きくないから入るか心配だったけど、ちゃんと入ったわね。これで量子力学の本と電気の本でサンドイッチしとけばバレな、ぐにゅっ
「それよ!」
「それってどれよ?」
「成果出せってところよ!」
あぁ、まだ続いてたのね。咲は実験してるし、わたしは本を隠すのにいじいじしてる。それで話し終わったものと思ってたわ。
「で、わたしは何で捕まれてるのよ」
何で掴まれたまま「それ」が何かの話をしなきゃなんないのよ。それに、隠し場所を整えにくいじゃない。
「貴方も実験を手伝いなさい」
「え?別に構わないけど…いいの?二重の意味で」
「二重?」
咲が不思議そうな顔で首をかしげている。短い付き合いだけど、咲ならこれくらいすぐに察せそうなものなのだけど…。恋は盲目ってところなのかしら。
「雷が許すかってのと、さっきの作戦で行くならわたしの方に来ない?って意味で」
「前者は問題ないわ。でも、確かに後者が…」
雷は完全にステレオタイプの研究にしか興味のない研究者。一般的にはやばいロリのわたしでも「倫理なんざ知るかぁ!」で来るかもしれない。
「貴方が実績残した時に、「咲と結婚しろ」って言ってもらえても、私のプライドが…」
「さすがに嫌よね」
わたしだって嫌だもの。「ほれ、恵んでやろう。どう? 嬉しいだろ? みたいなの」
え? 悪意マシマシすぎないかって? 良いのよ。最悪の場面の想像でしかないんだし。
「いやでも、それを抜きにしてもやってもらうってのはありね。買い出し係はあんまり使ってないし、実験に手が欲しいのは事実だもの。いいかしら?」
「構わないわよ」
買い物係は強制だったのにこっちは聞くのね……って思いがあるから、ちょっと釈然としないけど。
「知ってる?怪異に人権ってないのよ」
「めっちゃいい笑顔で言うんじゃないわよ」
顔を殴りたくなるから。…やらないけど。だって殴ったらグーがそのまま口の中に放り込まれそうだし。
え? 見栄を張るな? …あい。そもそも手が届きません。これでいい? いいわね!
「それでね、やって欲しいのは滴定なの」
「中和?」
「そうそう」
ちまちまビュレットで液を滴下していくやつね。ま、それくらいなら出来そうね。
「滴下するのは水酸化ナトリウム水溶液よ。ファクターは既に求めてるから、後は普通にやってくれればいいわ」
ふぁくたー? ふぁくたーとは……。
「あ。知らないか。なら、色変わるまで入れて、入れ始めから色が変わった瞬間の滴下量を記録してくれればいいわ」
「あいあい」
それくらいなら出来るわ。あぁ、でも液が足りなさそう。足場を適当に引っ張ってきて…足場の上からでもビュレットの先端に手が届かないわ。
机の上に乗れば、さすがに届くわね。ろうとぶっさして、ドバドバ。
「メリー!目線より高いところから危険薬品を垂らしてるんじゃない!危ないだろ!?」
「雷がそれを言うの!?」
初対面で思いっきりドアを開けてぶつけてきたのは誰なのよ!?
「うるせぇ!危険だろうが!実験は安全に気を配ってこそ!手にかかってびっくりして、手を動かしたらビュレット倒して、あたりに飛び散って大惨事とか、結果出ねぇじゃねぇか!?」
結局そこ!? さすがとしか言えないわ……。珍しく大事なこと言ってるなって思ったのに。
「ちなみに今の話は実話よ。雷さんじゃなくて、友達がやらかして、火事になりかけたらしいけど」
「何やってるのよ!?」
実験は爆発だー! を素で行ってんじゃないわよ!? 最悪、逝くわよ!?
「だから気を付けなさいってこと」
「わね」
ろうとを取って、ビュレットを外して、色んな人の顔より下に。くねくねは顔がどこかわかんないけど、手しかないからいいわよね!
どばどば入れて……。
「ちょっ、下!ちゃんと締まってないわよ!?」
「え?ぎゃー!ごめんなさい!」
何で!? 開けた記憶はないのだけど!? …ん? となると…ギャー! 机の上にもこぼれてるわ! コレ、最初から開いてたのね!?
「河童!」
!? 河童!? 干からびてるのが何の役に……河童なら、水を出して薄めたりするのかしら。
「雑巾」
「あ、うん」
しないのね!? 普通に雑巾渡されただけ!? 河童が呼ばれたの明らかに洗面台のところにいて、雑巾が近かったからじゃない!?
釈然としないけど、拭きましょう。まず、床に降りて床を拭きましょう。手につかないように気を付けながら、ふきふき。……むぅ、床は終わったけど、机の上が見えないわね。
「咲。悪いけど、机の上を拭いてくれない?」
「無理。手が離せない」
滴定してるだけっぽいのだけど…。時間勝負なのかしら。仕方ないわ。また机の上に上が……ん? なんか濡れてる? ギャー! 椅子の上にも垂れてるじゃない! 何で気づかなかったのよ!?
「咲!足に付いたらどうしたらいい!?」
「洗えばいいわよ。まぁ、怪異の貴方ならどうなるか興味深くはあるけど」
痛いから嫌よ!? 行儀悪いけど、その辺の水道のヘリに座らせてもらって、
「そこ、B廃液」
「あい」
緊急事態だからよくないかしら? 駄目ですか。怪異だもんね。なんかにゅるにゅるしてきてる気がするけど、怪異だもんね。
あんまり床に付きたくないから、ヘリから隣の机にジャンプ! よし! 届いた! さっすがわたし!
今度こそヘリに座ってお水をどばー。おー、冷たい。そんで、こうやって足をぱしゃぱしゃするの結構楽しいわ。
『あんま溶けてないね』
くねくねさん! 珍しいわね。姿見せてくるなんて。いっつもどこにいるかすらわかんないのに。ただ、さすがに声帯はないみたい。腕を一杯出して文字を作ってる。微妙に気持ち悪い
『残念』
「残念がるな」
『無理』
瞬時に漢字を描いてくるの、腹立つわね…!
「いくら水酸化ナトリウムが強力って言ったって手足なら数秒くらいは大丈夫でしょうに」
「目ならまずいけどね」
顔の中で一番脆い部分だもんね。だから実験メガネが……って誰もしてねぇな。わたしらは怪異だけど、雷すらしてないわ。
「眼鏡してるから。後、どうしてもゴーグルは蒸れるんですって」
「さいで」
それで事故ったら自己責任。事故だけに。…………ごめん。
「これくらいでいいかしら。足を拭いて…あ、ありがと。くねくね」
これで足が……あれ? まだ濡れてる気がする。 ……ひょっとして。濡れてる部分に指をつけて、指を擦り合わせてくにくに。……ぬるぬるしてきた。
「やりやがったわね!くねくねぇ!」
あいつ、水酸化ナトリウム拭いた雑巾渡してきやがった! 何のために洗ったと思ってんのよ! しかもいないし! 仕返しもできない。わたしが怪異じゃなかったらどうすんのよ!
『さすがにやらない』
わよね! でも、だからといってわたしにやるな! 雑巾投げつけてくんなぁ! あぁ、新品か。ありがと。
『雑巾無くなった』
……買って来いと。りょうかーい。
「雷!雷!雑巾無くなったらしいから買ってくる!」
「了解。『気を付けて行っといで』」
一瞥すらしない……! まぁいいわ。
『あいあい』
今日もぬらりひょんが電話を持ってたわね。やっぱぬらりひょんクラスだと色々出来ていいわよね…。
はぁ、さっさと買いに行きましょう。わたしのせいで無駄に買わせるんだし、今回はさっさとすませるわよ。




