3日目 ラーメン
むぅ。わたしが捕まって、3日経ったわね。やることがないわ。ま、わたしはいつも、メリーさんしてるか寝てるかしかしてない。
メリーさんする機会を見計らわないと駄目な今、1時間前に起きた今、何もすることがないのは必然だけど。……え? スマホで動画でも見てろって? その手があったわね。
「雷さん。今日はラーメンを食べません?」
「え?そう…だね。1時間くらい待機だし、手は離せるね。そうしよっか」
「よかったです。もう作っておきましたので」
「ありがと!」
ナチュラルにいちゃつきやがって…。スマホ見てても目に入るわよ。こんなの。だが、カップ麺。多少は羨ましさが軽減されるね!
「私、作らないだけで、一から作れますよ?」
「すごいね。材料どころか調理器具がないけど…」
「?調理器具ならあるでしょう?」
え? どこに? どこを見ても実験器具しかないここのどこにそんなものが?
「あるじゃない。まな板はラップでしょ。炎は輪入道かそこのガスバーナー」
ナチュラルに怪異を調理器具にすんな!
「で、鍋は3 Lのビーカー」
「え。ビーカー?思いっきり実験に使ってるわよね?」
昨日、思いっきりそのめちゃデカいビーカーに赤色の液体入れてなかったかしら?
「えぇ。使ってるわよ。でも、ビーカーよ」
「死なないかしら?」
わたしら怪異は兎も角、雷がやばくないかしら。
「馬鹿ねぇ。ビーカーはコンタミ──異物混入しないように、丁寧に綺麗にする必要があるのよ。だから、洗った後のビーカーはそのまま水ぶち込んでも飲める!ってくらい自信が持てなきゃ駄目なのよ?」
だから麺を湯がいてもいいと? 確かに筋は通ってるけど。
「どうしても取れない汚れが付いたらどうするのよ」
「捨てるか入れ物にするかね」
返答に一切の躊躇いがないわね。まともな人は雷しかいないのに…。
「お金はあ「ない!」あ、うん。ごめん」
あるのかしら。すら言わせてもらえなかったわね。ごめん。ないのね。そうよね。ないわよねー。
「雷さんが申請書類を書いてくれているおかげでお金を引っ張ってこれているのよ?…うん、そうだ。今晩はラーメンにしましょう」
「え?」
「え?」
何でそんな不思議そうな顔をしてるの? 今、雷の手にラーメン…って既になぁい! もう食べてごみ箱に捨てられてる!?
でも、ゴミ箱の中に入ってるのはカップめ……ご飯じゃないの! 最近のは美味しいらしいけど、ご飯なの!? 何でご飯なのにお箸で食べるのよ!?
「日本人なら普通じゃない。貴方もお箸でご飯食べるでしょう?」
「そうだった!」
怪異は食べなくてもいいけど、食べようと思ったら食べれる。その時はお箸使ってるわね!
「というわけで、メリー。買ってきて?」
「雷に電話させて?」
そんな圧力かけてきても、わたし、出れないもの。通常の手段だと。
「それもそうね。雷さん」
「番号打って」
「了解です」
雷のスマホのロックを慣れた手つきで解除。ピポピポ……この音は古いかしら。番号を入力すると、動き回る雷の耳に咲が完璧にスマホを当てている。
リア充爆死しろ。何でそんなに息が合ってるのよ。
『メリーさん。ラーメンの材料よろしく』
『店の指定とかは?』
『どこでも』
あら、意外ね。業務スーパーかと思ったのだけど。量が多すぎて腐らせる恐れがあるからかしら? まぁいいわ。さっさと電話切っていきましょう。
特に何事もなくスーパー……って、ラーメンの材料って何よ。どう考えても文脈的に麺をゆでるだけじゃないし…。あ。そうだ。農家さんの番組見直しましょう。
え? 時間かかりすぎる。普通に調べろって? そりゃそうだけど、それも時間かかるし。あー。普通にラーメンの原料まとめて売ってないかしら。
「さぁ、本日のキャンペーンは「ラーメンを一から作ろう!」です!」
売ってたわね。都合がいいことに売ってるわね。そんで結構売れてるわね。訳が分かんないわ。あー、でもチラシ出してるのね。咲ならこれ見て、言った可能性が高そうね。
いやでも、あの流れは思い立っただけな気がする……。まぁいいわ。見てみましょ。
えーと……、うん? スープは豚骨? はぁ!? 家庭でやらせていいものじゃないでしょ!? 時間えぐいぐらいかかるし、灰汁もめっちゃ出るし! だのにスープ豚骨限定じゃない! 何考えてるのよ!?
……何も考えてなさそうね。昨日のセール見たら悟れるわ。一からシュールストレミングを作ろう! って、頭のねじ100本飛んでないと思いつきそうにない企画がでかでかと踊ってるもの。世界一くさい発酵食品作らせるって何考えてんのかしら。
まぁいいわ。おひとつもらって帰りましょう。雷の好みが分からないけど、塩と砂糖。調理酒と醤油くらいは買って行ってあげますか。
「買って持って帰れる?」
「大丈夫です!」
「ほんとに?駄目だったら言ってね?」
「ありがと!」
あの店員さんもいい人ね。心配してくれるなんて…。わたしが本当におつかいに行ってるただの子供ならぶちまけて酷いことになるでしょう。けど、わたしは怪異! 力はあるのよ!
さ、お金を払って、雷のところに行くわよ!
ズリッ。……? 今のは何の音かしら。ま、気にせずに邪魔にならないところに行くわよ!
「ねぇ。お客さん」
「何?」
「袋が破れてます」
? ……ほんとね。何で……って決まってるわね。降ろし方が雑過ぎたわ。
引っ張り降ろす→わたしの身長が足りなくて思いっきり床に激突して擦れる→破れる
すごい黄金コンボ。
「袋もう一枚ください」
「はい。どうぞ」
よし、今度こそ……。あぁ、手さげしようと思うと身長が足りない! だったら胸の前に抱えて歩きましょう。……前が見えないわね。でも、わたしは怪異! 前なんざ見えなくてもなんともないわ! …電話できないけど!
「それで、バイトが終わった店員さんに持ってもらったと」
「あい」
わたしのレジで対応してくれた店員さんは丁度、シフトが終わる時だったみたい。明らかに前が見えてないわたしを危ぶんで、自発的に来てくださった。さすがに断れないわよ…。
「いい人だったわね。「何で酒とか醤油とか買わしてるんですか!?」って言ってたし」
「わたしが勝手に買っただけなんだけどね!」
だからめっちゃいたたまれなかった。悲しみ。
咲が練の入り口まで迎えに来てくれたからか、あんまりごちゃごちゃしなかったけど。
でも、咲は普通に研究室にある醤油とかで味付けしたのよね。買ってきたのに。悲しい。でも、ラーメンはものすごくおいしかった。今まで食べた醤油ラーメンの中でも一番。
「え。待って。あの人、大学の建物に普通に入って行った…。怒鳴りつけたお姉さん、「この子、見た目通りの年齢じゃない」って言ってたわよね?…え。もしかしてあの人、年上?私、高校生なのに失礼なことやらかした!?」
本屋の店員さんはどっかの誰かと違いますね!




