0日目その2 捕まった
うぅ、捕まった。出来れば優しく死にたい……。
「しょんぼりしてると人形さんみたい。マリオネットにして動かしたらいいかな?」
「発想がやばいわよ!?」
なんでお人形さんみたい! から、マリオネットにしよう! になるのよ。頭おかしいの? お人形さんにそれするなら兎も角、生き物……怪異が生き物かは置いておいて、生き物にやることじゃあないわよ!?
「そんなことより前を見て、前を」
「前?」
雷に促されて前を見る。……あれ? わたし、目がおかしくなったかしら。何でわたしをはじめとした怪異の類が集まってるの?
白い手だけみたいな『クネクネ』。身長が2 mくらいある大女『八尺様』。よぼよぼのおじいさんみたいなのはたぶん『ぬらりひょん』。水道の前でぐでーってなってるのは明らかに『河童』。そして、天井の蛍光灯を交換しているのが『輪入道』。
「なにこれ?」
いや、ほんとにナニコレ。なんで怪異大集合! みたいな感じになってるのよ!? しかも最近の怪異である口裂け女と、歴史ある怪異の輪入道が混在してるし!?
「ナニコレって、みんなで研究してるんだよ」
「はぁ?あなた、学生さん達はどこにやったのよ?」
教授って言ってるなら、自分の研究室があってその下に学生さんがいるもんじゃないの?
「来てくれないんだ…」
「どっちの意味?」
配属されたけど「行きたくない」って言ってるのか、そもそも「配属されたくない!」って言ってるのか。
「両方。何でなんだろうね…」
「この怪異だらけの状態っていつから?」
「ずっと前から」
だからじゃないの? 何でも何も当然じゃない。霊感のある学生だったらなんかよくわからんのが一杯いるところに来たくないわよ。霊感が無かったらポルターガイスト不可避。そんなところは嫌でしょうに…。
いつの間にかズーンと落ち込む雷を、ビーカーを回していたはずの口裂け女が背中をさすって慰めてる。
「大丈夫。貴方が悪いわけじゃないわ。貴方の魅力を分かってくれないこの世界が悪いのよ」
「うぅ、ありがとう。咲。でも、この世界も案外悪いものじゃないよ。君がいるし、僕の発明を必要としてくれている人がいる」
「ふふっ、そうね。貴方がいるものね」
…なにこれ。わたしは何を見せられてるの? 何でわたしを抱きかかえたまま惚気てるの? というか、ビーカーは置いておいていいのかしら。あ、駄目っぽいわね。干からびてた河童が動いて何かしてる。
…いや、ほんとにナニコレ。口裂け女って口元が裂けすぎてて怖い。そんな怪異のはずなのに普通の恋する乙女なんだけど? あなた、アイデンティティーはどこにやったのよ? 大きく裂けた口を強調しながら「わたし、綺麗?」って聞くのが貴方でしょうがぁ!
今のあなた、口が裂けてるのは変わらないけど、笑顔が魅力的過ぎて怪異としては死んでるんですけど?
てか、人がいないのって口裂け女のマッチポンプでは? 「ポルターガイスト?上等!未知のエネルギー源じゃねぇかぁ!」っていう気概のある学生がいてもおかしくないはずだもの。
ひっ。口裂け女の首がぐるんって回ってこっちを見た!? しかもなんか言ってる。えっと、『君のような勘のいいガキは嫌いだよ』…? こわっ。わかりました。黙ってるのでその顔をやめてください。あ。やめてくださった。助かった…。
けど、動けないんだけど。
「あのー、帰って良い?」
「駄目。折角捕まえたまともな人型怪異。絶対に逃がさん」
「え?人型ならわたし「まともな」…」
輪入道…明らかに人間じゃない
河童…同上
八尺様…人間のデカさじゃない。それクリアしても雰囲気が終わってる
ぬらりひょん…人間だけどよぼよぼ過ぎてみてて不安になる
口裂け女…口が裂けてる
まともじゃないわね! でもでも、
「口裂け女は「咲」あ。はい。咲はマスクすれば」
「アイデンティティ」
アイデンティティ? 思いっきり死んでるでしょ!? 何をほざいて……。
「アイデンティティ」
あっ、はい。でも、口裂け女って最初、マスクしていて、「私、綺麗?」からの「綺麗」。それで「これでも?」でマスクを外す! って感じだからマスクもアイデンティティに入るんじゃぁ……。
「だから、マスクしてるときに綺麗って言われると」
「確かに、アイデンティティだ」
こっちからやる気がなくても、マスクをしている時に「綺麗ですね」って言われる。そうするとマスクを外して聞かなきゃならない。そして、行動を起こさないといけない。なるほど、確かにアイデンティティ。
「雷さんに迷惑かけたくない…」
「ありがとね。咲」
動機はあからさまに恋慕だけど。ほんと、お前、それでいいのか。いいんだろうにゃあ。
「でも、わたしでいいの?わたしも子供だよ?ロリだよ?」
「軽いものを買いに行けるでしょ?」
「ロリに買い物に行けと申すか?」
待って。何で不思議そうな顔してるの? わたし、ロリだよ?
「はっ。見た目だけだろうが。お前中身何歳だ?」
「あー!いーけないんだーいけないんだー!それを言ったら戦争だー!」
「やる?」
「ごめんなさい」
咲に勝てる気がしない。目が笑ってなかった。確実にコロコロされちゃう。これが恋の力か……! え? 違う? 違わないわよ。
「てか、メリー。お前もアイデンティティがやばいよ。皆でそう仕組んだから」
「え?」
何言ってんのこの人? そんな感じで雷を見たのに、彼はわたしをぺいっとソファーに雑に放り投げる。
「雑!わたし、人形じゃないんだよ!?」
「元は人形でしょ?…よっし!セーフ。後1分か……。撮影用にガムテでさっさとくっつけないと駄目だな」
あ。駄目だ。わたしの話を聞く気がない。くそー。癪だけど、一時撤退するしかない。……あれ? 出れない。何で!?
「貴方、メリーさんでしょ?」
「そうよ。わたしはメリーさ……あ」
あ。あ。やられた。メリーさんは電話を複数回かけて、最後にはあなたの後ろにいるの。で終わる。結末は描写されていたりしなかったりで定かじゃない。けれど、最後には必ず「あなたの後ろにいるの」でしめないといけない。だけど、わたしは言えてない! 言えてないから終われない! 何て理不尽。
しかも、「わたしメリーさん。今、部屋の前にいるの」的なことを言えてないのに、雷と接触した。最後のワンステップが抜けた状態になっちゃってて、バグってる。
えーと、これを打破しようと思ったら……。最初からやり直す必要がある?
「そうね」
咲の嬉しそうな声が耳に響く。
「彼は貴方がスマホを弄っている間は携帯を取らないでしょうね。大事な要件は私達が取る。となると、彼がスマホを取るのは…」
「わたしに買い物に言って欲しい時だけ」
「うふふ」
曖昧に笑う咲。くそぅ。はめられた。雷の思惑通りにわたしは買い出しに行くしかないのね……。
「いやでも、それでわたしは怪異として成立出来るの?」
「出来るわよ。誰にも見られていなければいいわけだし」
それはそうね。そして、出入り口付近で電話を取ってもらえても、近すぎる。電話を繰り返しかけれない。だから、速攻で雷を脅かすことも出来ない。うん。やっぱ、逃れられないわ……!
「まぁ、悪いところじゃないわよ。ほら」
ほらって言われても何してるのか分かんないんだけど? なんかガチャガチャしてるなー。ってくらいしか。あ。八尺様が雷に何か聞いてる。
「ぽぽぽぽぽ」
さすが八尺様。分からん。うん? 待って。貴方、声真似出来たわよね? それで部屋の中から人をおびき出すとかやれるわよね? 何でぽぽぽ?
「100 Kでマイスナー効果が出たのね?」
「ぽぽぽぽぽ」
「え。マジで?それは分からんなぁ」
何で会話が通じてるのよ。そして、多分何を言ってるのか分かっても、わたしには本質的には分からないわよ。
「マイスナー効果ってのはね」
「あ、結構です」
「磁場が中に入り込めなくなる現象のことよ」
「怪異の話聞けよ」
それが節度ある怪異ってものでしょう!? …よく考えなくても怪異って自分勝手だったわね。
「雷。ホッチキスの針がなくなってもうた」
「了解、ぬら爺。咲」
雷が咲に声をかけると、彼女は分かってますとばかりに頷く。以心伝心って感じがしてムカつく。何リア充してんの。わたしはここから出れなくなっちゃったのに…。
「さぁ、始まります第二回。メリーさんのお使いです。解説は私、咲と」
「相方の雷でお送りします」
ナニコレ。なんか謎のノリが始まった。ッ、スマホが鳴った。
『メリーさん?ホッチキスの針買ってきて』
「え。わたし出れない……出れるわ」
普通に出れる。ほんとにこいつらの手の上じゃない……。くっ。今度こそちゃんと驚かさねば!
「わかった。買ってこればいいんでしょ」
「うん。お願い。あ。これあげる」
ぽいっと投げ捨てられる何か。これは……。
「うちの研究室のメンバー証。人に見せろって言われたら見せて。夜中とか休日にこの建物の入るためのカギにもなってるから無くさないでね」
「透明になればいけるけど?」
「物は無理でしょ?」
……確かに! でも、中から開ければ事足りるのでは? あ。つべこべ言わずに行って来いと。はい。
何だかんだ言って、出れるのは嬉しい。もう一生駄目かと思ったけど、出れるんだもの! それが嬉しくてスキップしちゃう。あぁ、守衛さんのところに寄らなきゃ。
「ありがとうございます!これ、返します!」
「そうかい、よかった。もう必要ないのかい?」
「はい!」
雷から関係者証貰ったからね! さー! ホームセンター……いや、文房具屋さんのが近いわね。いやでも、生協に置いてある気がするわね。見てみましょう。
生協は卯月館の中にあるのね。ちかっ。そんで割と広い。これなら……あぁ、あった。普通にホッチキスの本体まであるわ。何に使うのか分からないレベルにデカいのまであるわね。
嫌がらせにこれ買ってやろうかしら。「大は小を兼ねるの!」って。……あ、駄目ね。1000枚くらいとめれそうだから、容赦なくやばいことしてきそう。うん。怪異でもそれは勘弁願いたいわ。
普通のにしましょ。お金を払って、邪魔にならないところに行って……いざ!
電話帳からぽちっと。
『わたしメリーさん。今、生協に『え。生協にあるの!?』何で知らないの!?』
あんたここで働いてるんでしょう!?
『そういうのは咲とかに任してたから…』
『ブイ』
脳裏にめっちゃドヤ顔している咲の顔が浮かぶ。ムカつく。いや、微妙に怖い? まぁいいや。ツッコんじゃったからやり直しましょ。
『わたしメリーs『がちゃっ。プーップーッ』……』
切られた。多分出てくれないよね…。はぁ。やり直しは認めないってことなのね。諦めて行くしかないかー……はぁ、次はうまいことやりましょう。




