368日目その2 よく愛想つかされなかったわね、こいつ
くっ、まさかそんなところに敵がいたなんて……!
「わかっててやってる?それはぬら爺に何とかしてもらうから」
そういえばそうね。
「なの?そこ力借りるなら、研究員扱いでも何とでもなるんじゃないの?」
「今後入ってくるお金を逐一抜き取って、違和感ないように改造するのが面倒くさいんじゃ」
「「喋ったー!?」」
「普通に喋っとったじゃろうに。前話ですらしゃべっとるぞ」
メタい! メタいわ! ぬら爺なら第四の壁を知覚できそうだけども! メタいわ!
「お主のほうがメタいぞ。定期」
「定期って言うほど言ってない定期」
「言っとるぞ」
…言われてみればそんな気がしないでもない。 こっくりが来る前は突っ込み入ってなかったから目立ってないだけで。
「ふぅ。まぁよいわ。ともかく、一度の改ざんで済むならそちらの方がいいんじゃよ」
「なるほどなの。じゃあ、メリーの戸籍やら入学してからのなんやらも一度に済ませるつもりなの?」
「そうなるのぅ。で、変えるにしてもある程度のストーリーが必要なのじゃ」
「何でなの?」
確かに。何で……って、そりゃそうよね。
「ないとわたしが困るからね」
「そうじゃの。大学生にするなら、大学で友人を作ることもあろう。…いや、すまぬ。そのビジョンが浮かばぬ」
「何でよ」
わたしがぼっち気質だと言いたいのかしら!? 喧嘩売ってるなら買うわよ! 勝てる気しないけど! 勝てる気しないけど!
「しないのか」
「するわけない……って、ぬら爺も心読めるの!?」
「むしろ大妖怪が出来ないと思うかえ?」
「思わないわね!」
妖怪には「さとり」っていう心を読める妖怪がいる。それがいるのに、首魁が出来ない通りはないわ!
「うむ。釈明をさせてもらうとじゃな、お主、どう考えても研究に打ち込んでばかりで、発表会くらいでしか表に出る気がせんのじゃ」
一理あるわね。
「うむ。それでえーと……あぁ、そうじゃ。どこの高校に通っていたとか、そういう背景は必要じゃろ?」
「わね」
幼稚園なら覚えてないで通用……するかは怪しいけど、そんなに覚えてないの! で通じるだろうけど、高校で覚えてない! ってやばいわよね。記憶喪失って思われちゃう……!
「だから作っておく必要があるんじゃ。で、じゃな。そのストーリーの一環で、お主を雷と咲の子にしようと「ぶっふぉぅ!」…汚いのぅ」
雷が飲んでたコーヒーを噴出したけど、ぬら爺がしっかりガードしてるわね。それ出来るなら、椅子の上にあった資料が汚れないようにしてあげればいいのに。
「いつ汚れるかもわからんものを防ぐのは無理じゃ」
なるほど。
「てことは、僕がむせるってわかってて言ったの!?」
「当り前じゃろ。お主もいい加減、覚悟を決めんか。お主、咲の好意には気づいておるんじゃろ?」
うん? 雷がめっちゃおろおろしてる。解せぬ。
「ま「おるんじゃろ?」」
青ざめた雷が何かを言おうとした瞬間、ぬら爺に遮られた。
「ま「おるよな?」」
2回目ー。
「m「あ?」」
バージョン変わったけど3回目ー。何でこんなやり取りしてるのかしら。マジで。
「ぬら爺。私のこと思ってくれてるんでしょうけど、流れで悟れないほど私は馬鹿じゃないです」
「そうよの。まさかここまでとはのぅ……」
「私としては想定の範囲内というか、こうじゃないと雷さんじゃないと思っていますので…」
わね。ぬら爺もそれをわかってるはずだけど。咲に花を持たせてあげたかったのかしら。
まさかマジで分かっていないとは……。
「なの。「マジで言ってんすか」って言おうとしてた時点でそこは間違いないの。さすがに三回も言われてる時点で察したみたいだけど」
にっぶ。わたしなら嫌いになるわよ…。
「えーと、咲。超絶にぶい僕だけど、僕と一緒になってくれますか?」
「勿論です」
おめでとー。やっとくっついたわね。そして咲は大天使ね。愛想尽かさなかったし。
「じゃ、メリー。お主は二人の子供な」
「「ちょっとくらい余韻持ってくれません?」」
わね。キューピット役がさっさと次の爆弾放り込むのはさすがに草よ?
「なら今日はやめておくかの?」
「「いえ、別にいいです」」
「我儘じゃの…」
ムードぶち壊した元凶がいう言葉じゃないわよ、それ。
「うぉっほん。それでじゃの、メリー。漢字はこれで良いか?」
「続けるのね」
二人がちょっとへにゃっとしてるのに。まぁいいわ。えーと……『芽理伊』ねー。
「ないわね」
「何故じゃ」
「何故じゃもくそもないでしょ、これ!?」
当て字じゃない!? 字の意味はたぶんおかしくないけど…。伊が分からないけど。
「当て字なんてキラキラネームになりがちじゃない!嫌よ、わたし。これ名乗ってたら、咲と雷が「うわっ、あの人、子供にキラキラネーム付けちゃうんだ……」とか思われるんでしょ!?」
「偏見がすごいのぅ」
「普通なの」
ほんとにね。読めない名前とかやめて。脅かすために電話かけた時、出てきた名前が読めなかったら、その時点でやる気無くすもの。
やる気なくてもいかなきゃいけないんだけどね。わたしだし。
「久しぶりに電話要素が出たの」
「だからメタいわよ、こっくり」
ぶち込んでくるんじゃないわよ。
「真面目な話をすると、メリー要素を残していればいいと思うの。だから、芽衣はどうなの?日本の怪異だから、スペルはM E R Iーなの」日本人の天敵(発音的な意味で)のRと、ーを処刑すれば、良い感じになるの」
「言い方が物騒なのよ」
まだRは良いけど、伸ばし棒を処刑て。伸ばし棒に悪い思い出でも……うん? あれ? 文脈から推測したけど変じゃない?
「こっくり、さっきの発音、何?ぃーみたいなの」
「?ー。なの」
どう発音してるのよ、それ……。
「普通に、なの。そして、こっくりのーにまつわる思い出を語るには1分必要なの」
続けるのね。な、なら気にしない方針で行くわ。……って、
「短いわね!?」
そういうのって1日とか言って、「じゃあいいです」ってなるのが鉄板じゃないの!?
「んなもん知らねぇの」
アッハイ。
「じゃあ、どうぞ」
「ん。こっくりの昔の名前を英語でスペリングするときに適当にしたら、ーが死んで困った」
「1分も要らないし、シチュが分からないわ!」
って、みんなは分かるの!?
「日本語と英語の発音上の問題だね」
「日本語は発音には必ず母音を含むから、母音が連続していても大丈夫だけど、英語はそんなんない。ていうか、母音連続がそうないわ。だから、大江戸とかで詰むのよ。ooeまで三連続だし。たぶん、こっくりの昔の名前は大杉とか大島とかその辺でしょうね。この場合、大の部分は自然な英語?……って言っていいかわかんないけど、ここは「おー」って発音するんだけど、書くならoに^つけたやつになるわ。でも、それで書くなんてそうそうない。だから、ooって重ねるとか、ox, ohにするとか諦めてoだけにしとくかなのよ。その辺で事故ったんでしょうね」
「長いわ!長いわよ!咲!」
途中から??? ってなってるわ!
「要約すると、論文出すときに名前の記述変えたせいで「他人じゃね、これ」って思われたの。他人って思われると成果にならんから死活問題なの!」
なるほど……。って、うん?
「こっくりって死んだのセンターの時じゃなかったかしら?何で論文出してるのよ?」
「こっくりは天才……ってのは嘘なの。むかーし興味のあったことを父様と調べてたら、それが論文になったの。色々改良して実験やってたからそれで功績ありってことで、共著に入れてもらえたの。……英語の文を読むのは正直、苦痛だったの…。父様が訳してくれたとはいえ」
こっくりの過去が盛りすぎな件。おかしくない? 何でそんなとこまで手を伸ばしてるの? てか、何でそこで天才って言いきらないの? 普通にその部類で良いんじゃない?
「具体的にどこで困るのよ」
「受賞歴聞かれた時」
マジな理由だった! ……何でこれが、縛られると興奮するようになったのかしら。
「そんなことはどうでもいいの。それより、さっきスルーしたけど、メリー……じゃない。芽衣。さっきのは問題なの」
「さっきの?」
さっきのって何よ。心当たりないけど……。
「咲のことを咲って呼んだことなの。養子なら兎も角、一応、実子にするんだから、咲って呼ぶのはちょっと違和感あるの。対等な研究者関係です!って言い張るのなら、別に構わないと思うの。でも、一回くらい、呼んでおいた方がぬら爺も改変楽になると思うの」
確かに。一理あるわね。じゃあ、
「咲お母さん。雷お父さん。……なーんか、変な感じね。名前呼びが入ってるからかしら。お母さん。お父さん。……うーん、変わんないわね。研究中は前と同じで良い?」
「いいわよ」
「いいよ」
やった。それじゃあ、問題ないわね。
「じゃあ、いじくるぞい」
「お願いするわ!」
「うむ」
頷いたぬら爺は、手元で何かをコネコネして、それを地面にたたきつける。瞬間、世界が光に包まれた。