368日目その1 戸籍ないじゃん!
ちょっと(次の日)だけど……、まぁ仕方ないわね。雷も暇じゃないもの。
「ごめん、やっと終わった。説明するからこっち来て」
「りょーかい」
机の前に椅子があるから、座……れない。えぇ……。物置きと化してるんだけど?
「あ。ごめん」
「どけますね」
「ありがと、咲」
「ありがとう、咲」
「気にしないで」
言いながら咲は椅子を持ち上げる。あれ? それに座るんじゃ……とか思ってたら、別の机の上に、椅子を傾けてどさどさどさっと全部移動させた。
「雑なの!」
それ。本気で雑だわ。
「いいのよ。雷さんのことだし、後でまとめようと思って、どうせまとめてない資料ばかりよ。どうせ飲み物こぼしたり、ご飯こぼしたりで汚れてるわ。どうせコピーしなおすから問題ないわよ」
「どうせ」が多いわ! なんか恨みでもあるのかしら。…ありそうね。主に、管理が雑過ぎるという面で。
「極めつけに、どうせたまーに重要書類が混じって」
「ぽぽぽ」
尺八様が書類に指さしてるわね。あ。くねくねが取って掲げたわ。えーと、これは……。
「ちょっ、これ学生の課題よ!?しかも去年の!」
ご丁寧に年が書いてるからいつのかわかりやすいことこの上ないわ!
「え?去年のなら問題ないh「去年のは既に私がまとめてます!なのに、あるのがおかしいです!」え、え!?」
混乱してるわね。でも、咲の言うことのが正しいんでしょうね。咲がまとめてくれているのにある。それすなわち、咲がまとめる前に紛失したって可能性が高いんだから。
くねくねから咲を経由して雷のところへ。
「あー!道長君の!見当たらないと思ってたけど、無くしてたか!いやー、あの子が出さないわけないから、僕がどうせ無くしてると思ってた!」
「まとめていても、それより前に無くされるとどうしようもないんですが?」
咲がにらみつけるように雷を見る。雷はさっと目をそらしてぼそぼそと何か言ってる。
「エビデンス出せって言われたら僕が困るだけで、あの子に100点満点つけてる。だから、あの子には迷惑かけて…はい。ごめんなさい」
咲の圧力が強くて折れたわね。最初っから言い訳しなければいいのに。
「それが人間なの。まったくもって度し難いの」
「あんた、元人間でしょうが」
「今はこっくりなの」
お、おう。そうね。……反論しにくい言葉を返してくるんじゃないわよ。
「というかですね、足りてないけど、大丈夫ですか?って聞きましたよね?」
「記憶にあります」
「「あるんかい」」
あるの!? 思わず関西弁になっちゃったけど、あるの!? どうせ官僚答弁的に「記憶にございません」とか宣うのかと思ったけど、あるの!?
「はー、確かに忙しいので、雑になりますし、私も手が回っていないときはありますが……、それでもこういうのはちゃんとしないと駄目でしょうが」
「面目ない」
雷が小さく見えるわね。マジで咲のが強いじゃない。
「どうせ忘れてしまうなら、最初っから触らないでいただける方が楽なのですが。その方が、私がまとめるまでに紛失というのはなくなりますし」
「いや、それは……さすがに、かっこ悪い」
「かっこ悪くてもどうしようもないんじゃない?」
ボブは訝しんだ。
「心の中でボケられても困るの」
突っ込み求めてないから安心しろい。
「嘘つくんじゃないの」
嘘じゃないわよー。
「ボケ倒してんじゃないわよ、二人とも!」
人じゃ……ってのは言わないでおきましょう。目が怖い。殺される気がするわ!
「他の解決法なんて、僕が頑張るしかなくて、明らかに前途多難なのは分かってるけど……、」
どんどん尻すぼみ。何で反論しようとしてるのに、そんな弱気なのよ! もうちょい頑張りなさいよ!
「頑張れ頑張れ出来る出来るどうしてがっふ!」
河童にモノがシュート!
「そこで諦めるんだ!ねばねばなっどぅ!」
えぇ……。謎のガッツを見せた挙句、意味わかんないボケかまして沈んだわね。いや、えぇ……。
「それでも、僕は咲に頼りっきりにはなりたくない!頑張って改善に取り組むから!面倒かけちゃうかもだけど、こんな僕にもうちょっと付き合って欲しい!」
わー、なんか前向き何だか後ろ向き何だか分からん告白ね。そんなので先が納得……
「わかりました」
するわよね! しないなんてことはないと思ってたけど、するわよね! 咲がだだ甘なのも一因だと思うわ! 惚れた弱みにしてはやばい気までする!
「じゃ、メリーのやつやってあげて」
咲が椅子を置きながら言うと、雷も再度わたしに座るように促す。そういえば、そういう話だったわね。忘れてたわ。
「これが見せてもらったやつな」
「あ、うん。ありが……」
非の付け所がないくらい真っ赤ね。文字と文字の隙間に強引に色入れた感がすごぉい。
「まず、最初に。タイトルに「研究」ってつけないで。研究なのは当たり前だから。論文調べるときに研究で終わってるやつ、そうなかったでしょ?英文だとStudyとかResearchで始まるやつもそうなかったでしょ?」
「確かに。でも、あることはあったわよ?」
「それは他に適当な語がなかったか、書いた人のセンスがダサい」
「ダサい」
はっ、思わずオウム返ししちゃったわ!
「え。マジでダサいの?」
「うん。ダサい」
そう。ダサいのね……。普通に研究って、書いちゃったんだけど。
「提出してないから大丈夫。『の研究』じゃなくて『開発』かな?いや、評価も入れるか?まぁ、任せる。で、次。一番大事なの忘れてたんだけど」
一番大事なの?
「何かあったかしら?」
「メリーの名前と所属。メリーだけだと突っ込まれるかもしれない。いや、突っ込まれんかもしれないけどさ」
なるほど。
「でも、問題ないんじゃないの?」
「いやでもさ、引用するとき」
「あ」
そっか。そういやそうだわ。例えば、雷のフルネームは雷 響谷だけど、書くときは基本、K.ikazuchiだもんね。
「何か例無いの?」
「上皇陛下が在位中に出された論文は名前だけじゃない?あ、でも、そんときに真偽不明だけど、出版社から名字ないん?って聞かれたらしい」
例が大物すぎて草も生えないのよ。わたしは無理ねぇ。怪異なのでありません! とか「頭おかしいんか、こいつ」ってなっちゃう!
「そうなんだよ。だからどうしよっかなーって。後、所属もね。別にうちで雇っていることにしてもいいんだけど」
「なら、それでいいじゃない」
わざわざ口に出してるから、駄目なんでしょうけど……。
「うち所属にするとさ、大学に雇われてることになるんだ。だから、特許取得は大学の名前になるんだ」
「あぁ、お金が入ってこないと?わたしは別にいいわよ?」
あったところで使い道ないもの。
「研究費減るよ?」
「あ。それはダメね」
「手のひら返しが早いの」
うるさい。だって、研究にはお金がいるのよ……! あればあるだけいろんなこと出来るのよ!?
「となると、所属は学生じゃないといけないんだ」
「詰んでる!」
わたしにこの大学に合格できるレベルの学力はないわ。特許出すまでにそれくらいの成績取れるかしら……。てか、
「戸籍ないわ!」
これはわたしにはどうしようもないわ!




