367日目その2 出来てるわ
さて、焼肉食べて騒いでたけど、落ち着いたし、さっさと形にしないとね。……だけど、
「雷ー。形にするって言っても、どうしたらいいの?わたし、具体的な方法何も知らないわよ?」
「モノシラン」
「ふんっ!」
あ。割り込んできた河童がまたこっくりに沈められてる。
「モノシランの化学式はSiH4だぜ!がくっ」
「「「………」」」
その辺にあるもの投げときましょ。えーと……、うげ、塩酸……。ま、いっか。わたしは死なないし。
「待て待て。みんなは良くても、僕が死ぬ!」
「わしが無毒化する」
「ならいいや」
さっすがぬら爺! 安心してぶん投げられるわ!
瓶ごとシュート! 超! エキサイ……はしないわね。ま、すっきりしたからよし!あ。これを言っときましょ。
(※塩酸は投げてはいけません)
「で、雷。どうしたらいい?」
「うーん、メリー次第。特許欲しいかどうかだけど…」
「特許?」
要はお金よね? 何で特許……あー。確か、国によったら学会に出したら取れないんだっけ? 公然に知られた云々とかで。でも、手続きすればいけるとか。ただし、国によって基準が違う。
…うん。めんどい。めんどいわ。
「別にいら「わしがいるじゃろ」あ。はい」
ぬら爺が口出ししてきたってことは特許も出せってことね。わかったわ。
「じゃあ、学会だね。そっから論文書こ。国際は嫌?」
「いやね」
「即答なの」
そりゃそうでしょうよ。何で日本語ですらやったことないのに英語でやらなきゃなんないのよ!
「だよね。じゃあ、国内……前に立って一人でぼこぼこにされるのと、いろんな人と一緒に立って、仲良くぼこぼこにされるのどっちがいい?」
「言い方に悪意がある!」
「質疑の一般認識に合わせたまでだよ。僕にとっては貴重な意見を貰える機会さ」
わたしは一般認識よりなのよねぇ…。だったら、
「複数かしら」
「了解。えーと、だったら……、雷電がいいか」
「わかんないから任すわ」
もうちょっと時間がたてば、自分で選べるようになるんでしょうけど。
「じゃあ、これだね。発表日はだいたい3か月後」
「遠いわね」
「いや、普通くらいだと思うよ。そんで、申し込みの締め切りは来週。要旨もいるからね」
「了解。じゃあ……うん?」
あれ? わたしの耳がおかしくなったのかしら。
「ごめん、雷先生。締め切りいつって?」
「来週。より正確に言うなら6日と12時間」
ふぁー!? 7!? 7日ってって言ったぁ!?
「無理無理無理絶対、無理!」
「無理無理のカタツムリ」
まだ河童が生きてやがったわ。ビーカー割って、尖らせたやつをシュート!
「ナチュラルにもの壊すな……」
「ごめんなさい。でも、7日後とか無理よ!?」
全然まとめられていないのよ!?
「いけるいける。僕は当日の奴でも出したし」
「それ何かからくりあるやつ!」
もうすでに骨子が出来てるとか、そういうの!
「だね、たまに研究まとめるために作ってる報告書がある。それコピペして、いい感じに変形したね」
「わたし、報告書なんざ書いてないわよ!?」
「いけるよ。論文読んでんだから、緒言の書き方分かるでしょ。頑張れ。書けたら僕が赤入れるから」
あぁ、もう! 分かったわよ! やってやるわ! 雷がそれを選んだってことは、それがいいってことでしょうし!
まずは要件確認! えーと、要旨は……5ページ? 多すぎるわよ! 論文でも書かせるつもりなの!?
「よく見て。5MBなの」
「え!?」
……あ。ほんとだ。5MBだ。
「ありがと」
それなら大丈夫。図とかぶち込みまくらなきゃへーきへーき。じゃあ、ページは……25行? 今度は短いわよ!
「落ち着いてほしいの。よく見て。余白指定なの。明日って言われてるわけでもなし、落ち着くの」
あ。ほんとね。余白25 mmって書いてるわ。普通に1ページね。よし、とりあえず書くわ!全然書き方知らないけど、論文とかこれまでの要旨とか参照にしてけばいけるでしょ!」
「うん?これまでの要旨とかあるの?」
「あるわ。学生が学会でるときに出したのが」
「学生いるの?」
「いるわよ」
大学の研究室よ? 学生がいないなんてあるもんですか。学生はあんまりこの部屋に近づきたくないらしいし、雷が部屋にいるときは出来るだけ電話とかの会議で済ませようとするけど…。
なんででしょうね?
「ここが人外魔境と化してるせいなの」
…………あ。そういえばそうだったわ。最初のほうに、わたしも突っ込んだんだったわ。
「忘れるほど馴染んでるの」
じゃなきゃ、ここで研究してないわよ。って、無駄話してる場合じゃないわ。書かないと。
『長距離送電において導線内部抵抗による送電ロスは全発電量の……』
えぇっと、出だしはこんな感じで、目的はささっとかける。後は……聞きますか。
「すごいの。なんかめっちゃ書いてるの」
「どうせ修正されるわよ。雷ー。作成方法とか具体的に書かない方がいいわよね?」
「だなー。要旨は後でアブスト集って形で製本されるからなぁ……」
わよね。でも、それを書かないと中身がスッカスカのスッカスカになる。てか、何も書かないといきなり出来た感が出来て信用性がなさすぎて、冷やかしと思われちゃうかもだし……。
「製本されると何がマズいの?」
「本の形になると見ようと思えば誰でも、いつでも見れるってのがマズいね。具体的には特許と論文投稿かな。特許は「新規性」が喪失してるとかほざかれて死んじゃうし、論文は「他で既に同じ内容で出したでしょ?」って言われて死んじゃう。もちろん、例外もあるけど。ま、めんどくさいから専門家に聞くのが良きだね。うちはぬら爺に任せてるけど」
ぬら爺が得意げな顔してるわ……! でも、実際、めんどくさいこと一手に担ってくれてるってのは分かるから、何も言えないわ!
「って、脱線してるわよ。じゃあ、どうすればいいの?」
「こういう理論があるから、こういう理論に基づいて、クロム材料を選定した。とか言っといたらいいと思う」
「まぁ、言えるとしたらそれくらいよね」
全部言い切ってないのは不義理な気がするけど…。
「メリー。不義理な気がするけど、それはしゃーないよ。そもそも、他の論文とかもいっちばん大事なデータはだいたい載せてないからね。……さっきの理由で。「続きは発表で」のほうが楽しみにもなるでしょ?」
「CMかしら?」
続きはWebで。みたいなノリじゃない!
「そういう方がいいさ。少なくとも僕はそう思ってる。要旨だけ読んで満足されちゃうと、交流も広がらないしねー」
「それはそうね。じゃあ、出来たやつを測定して、こういう結果が出ました!ってのも書いとくわ。これで期待を煽ってやるわ!」
なら、文章はこう書いてー。後は図を取ってきて、軸とかちゃんと付けてー、あ。間違ってないわよね? ……よし! 大丈夫!
「出来たわ!」
「さすが。3時間くらいか」
「え」
そんなにかかっていたのね……。むぅ、文をまとめるのに時間を食ったのかしら? それとも、図? まぁいいわ。
「見て!」
「おk。ちょっと待ってね」
「いくらでも待つわよ」
わたしはご飯も何もいらないし、時間も無駄にあるもの。あ、でも、ゆっくりしすぎるのだけは勘弁よ! だって、書き直す時間が足りなくなるもの!