0日目その1 よーし、脅かすぞっ
初めての方は初めまして。そうでない方は、いつもありがとうございます。楽しんでいただけますと嬉しいです。
わたし、メリーさん。電話がかかってきて、電話がかかってくるたびに、電話相手の所在地が近づいてきている……って怪異のメリーさん。たぶん、『メリーさんの電話』って言えば、分かってもらえると思うわ。
今日も今日とて人を脅かすわよ! 理由? そんなものわたしの存在意義だから。それで十分でしょう?
取り出したるはスマートフォンえぇ、スマホよ。悪い? そもそもわたしが語られだしたのって、当然、電話が出てきてからよ? であれば、電話の形が変われば、わたしが使う電話も変わるに決まってるじゃない?
ちゃんと新作が出るごとに買い替えてるのよ。偉いでしょ?
話がそれたわ。電話しましょ。今時非通知だと出る前にぶちってする非常識な人間が増えてきてるから、通知設定にして。
え? 非通知だと大抵ろくでもない電話のほうが多い? ……はっ。海産物の押し売りの電話はちゃんと通知設定でかかって来たわよ。
えーと、電話番号はいつも通り適当に。別に誰でもいいんだしね。携帯の電話番号が枯渇してきたせいで、先頭が060のを解禁しようとか言ってる現状、適当にやったってかかるわ。
……大抵はずれなんだけど。
え? そうじゃない? 『メリーさんの電話』としてのアイデンティティはどうしたって? 何で自分から縁もゆかりもない西宮……じゃなくて、所有者に捨てられたとかでもないくせに、かけていくのかって?
いいのよ。電話使って、近づいて行けばそれはもう、立派なメリーさんよ! 命まで取らないんだし、いたずらに付き合ってちょうだいな。
だって、そんなお行儀よくしてたらいつまでも脅かせないもの! あ、でも、まともに人形供養とかしてる人は避けたいわね。それをしちゃうとアイデンティティが崩壊する気がするわ。
だがっ、わたしは悪戯したいという気持ちが抑えられないの! 気にしてたら負けね! 意志薄弱? うるさい。わたしは過去を気にしないの。適当に入力して、えいっ!
『ぷっぷっぷっ……プルルルッ』
よし来た! この電話番号は使われてる! 後は電波の届かない云々が来なければ…、
『はい、もしもし?』
キター!
『わたしメr『あ、業者さんですか!?発注してた資材はいつ届きますか!?ガムテープがないとちょっと色々不便なんで、出来れば早く届けていただきたいのですが!ガチャッ』えぇ……』
なんか業者さんと勘違いされてるわ。おかしいわ。おかしいわ。わたしのスマホのアカウント画面何にしてたかしら? 『届け屋メリー』……? 誰だこんな頭の悪そうな名前にしたの。
……わたしだ。
あぁ、もう! あの人きっと、忙しすぎて「届け屋」のところしか見てないわ! 放置……は出来ないわね。名乗っちゃったし。途中でぶった切られた気がするけど、名乗っちゃったし。わたしがそう思った時点で、わたしは行かなければならないのよ!
…仕方ない。いっちょガムテープ買って行ってやりますか。お金あったかしら…。あるわね。えっと、あの人がいる位置……は近い。ホームセンターは……地味に遠いわね。2 kmくらい。ちょっと自転車でも行きたくない距離。でも、わたしは行くわ。だってメリーさんだもの。
『わたしメリーさん。今、ホームセンターにいるの』
『ありがとうございます!そういえば欲しいガムテープの種類と個数をお伝えしてませんでしたね!欲しいのはオーソドックスなサイズの布ガムテです!2個届けてくださると助かります!』
マジかコイツ。思いっきり名乗ったのにガン無視してきやがった。え、ひょっとして、さっきちゃんと通知画面見てた? 届け屋メリーって。…うん。だとしたら届け屋だって勘違いするわね。
だとしても、他の何か使えばいいのに。アマ何とかとか、モノ何とかとか。まぁいいわ。えっと、ガムテープよね。屋根にぶら下がってる案内を参照しながら……見つけた。オーソドックスなサイズって何よって言いたいけど、一番売ってる種類の多いサイズで良いわよね。
それで布と。まぁ、テープ買うなら布よね。紙は接着力がなさすぎるもの。
これをレジに持って行って……って、レジが高いわね。商品は置けるけど、お金が置けない。
「お、お嬢ちゃん、お使いかい?」
「はい!お仕事なのよ!」
「そっかー。頑張りなよ。あ、袋はあるかい?ここの袋は有料なんだけど」
くっ。おのれ環境意識の発展。昔は無料だったのにー!
「ない、です!」
「そっかー。じゃあ、5円ね」
あっ。可愛らしく言えばまけてくれるかと思ったのに! …個人なら兎も角、系列店じゃ無理? …そうよねー。
わたしの背丈じゃお金を既定のところに置けないことを察したのか、置きやすいように別のを取り出してくれたから、そこに置く。
その気遣いが出来るならまけて? ……とか考えているから駄目? 可能性はあるわね。個人商店でも弾かれるかもしれない…。
「気を付けてねー!」
「はい!ありがとーございます!」
さて、電話電話!
『わたしメリーさん。ガムテープを買ったの』
『あぁ!ご丁寧にありがとうございます!お願いします!あっ!切りますね!』
マジで切られた。修羅場ってるのかしら。移動はあんましてないんだけど……。料理でもしてるのかしら? でも、料理してたらガムテープとか使うかしら?
ちょっと歩きながらいる位置でも見ましょうか……。あ。歩きスマホじゃないから! これはわたし、メリーさんの能力だから! 歩きスマホは駄目よ!
えっと……大学ぅ? てことは研究者なのかしら。実験中? だとしたら悪いことをしたかもしれないわね。……これからもっと悪い事しに行くわけだけど!
とーちゃく! うん。マジで大学ね。あの人がどこにいるかはわかるわ。でも、わたしの能力だと所在地は住所で出るのよね……。どこどこの建物の何号室とだけ。んなもんいわれても、どこがそれか把握してないわよ!
そりゃ、ぐぐれば出るけどさ……。いちいち調べないと『どこどこの角に居るの』とか言えないのが地味に辛いわ。でも、それはわたしのアイデンティティ。ここから標識見えてる建物連呼して行ってやろうかしら。たぶん、無駄に言うことになるけど。とりあえず、電話電話。
『わたしメリーさん。今、大学に着いたの』
『ありがとうございます!ブツッ』
また切られた。あれぇ? メリーさんってわたしがかけて、一方的に要件伝えて、ガチャってきって…を繰り返すから恐怖が掻き立てられる系じゃないの? これだとただ現在地をやたらこまめに伝える業者さんになっちゃうんだけど?
くっ、だったら今度は要件伝えた瞬間に切ってやるわ!
「守衛さん!入っていいかしら?」
「いいよ」
ちょろい。
「今日は試験とか何もない日だからね。あぁ、でも、大学によって違うかもだから気を付けてね」
ちょろくなかった。仕様だった。ま、まぁ、わたしにかかれば、建物に入っちゃだめって言われても勝手に入って
「あ。お使いかい?」
? 何で唐突……あ。なるほど。守衛さん、わたしの手に持ってる袋を見てる。それで察してくれたのね。だったら元気よく答えるのみ!
「はい!」
「そっか。場所はわかる?」
「はい!」
「どこ?」
どこ? えーっと……どこだろう。地図があるからこれを使っちゃえ。えーと……、あ。見つけた!
「ここです!」
「皐月館ね。誰先生?」
「雷教授です!」
「なるほど。了解!じゃあこれ、入構許可書ね。皐月館に入っても怒られないよ!」
「ありがと、ございます!」
なんかもらえた。ちょろい。……あれ? さっき駄目って言われても勝手に入ってやるとか言ってたような。駄目じゃなくなったわね……。
よし! わたしは過去を気にしない怪異! 行くわよ!
『わたs『ごめんなさい!』…きーらーれーたー』
折角、構内に入ったのに徐々に近づいてくる感が出せない! 春町通りに着いたのに! 目的地の皐月館が近いせいで、ここくらいしか電話出来る場所がないのに! ううん、わたしはめげない怪異!
『わt『すみません!』さっきより短くなってるー』
え。「皐月館の前にいるの」が言えない……。このままだと次は「わ」すらいえずに切られちゃうんじゃない? ううん、だとしたら「ごめんなさい」を聞かずに割り込むのみ!
えーと、位置は……。一階ぃ!? 知ってた! 1-ほにゃほにゃだもんね! もしかしてと思ったけど、そんなことなかった!
え。待って。これじゃ「わたし、エレベーターの前に居るの」とか「エレベーターにいるの」とか「N階のエレベーターホールにいるの」が出来ないじゃない!?
くぅ。だったら「わたしメリーさん。今、部屋の前に居るの」で何とかするしか……。あれ? わたし、今までの流れの中で、あの人……雷教授を怖がらせることって出来てるのかしら。……どう考えても配達業の人としか思われてない気がするわ。
でも、わたしは過去にこだわらない怪異! やってやろうじゃないの!
到着! じゃあ、最後から一個前くらいの電話! いくわ!
『プルルルルルル……プルルルルル……』
え。マジ? 取ってくれないの? 「わ」すら言わせてもらえないの!? 部屋の向こうからも「プルルルル」って聞こえてきてるんだけど!?
『すみません!まだですか!?』
『え、あ。部屋の前に居ます』
『ほんとですか!』
あ。切られた。って、やらかしたぁぁぁぁ! 「わたしメリーさん」って言わずに普通に居場所言っちゃったぁぁぁぁ! アイデンティティがぁー! 凹む。orzってなっちゃう。失意体前屈になっちゃう。
ガチャッドッ!
!? いったぁい! わたしメリーさん。ガムテ持つために実体化してるからドアに激突したら痛いの!
「よく来てくださいました!ありがとうございます!これ、お金です!」
「あぁ、どうもありがとうございます。これ、ご注文の品です」
お金貰って、ガムテープ渡して……って違うでしょ!?
「あんた、わたしにドアを思いっきりぶつけておいて……ひっ」
くっ。まさか怪異たるわたしが悲鳴をあげさせられるなんて!? いやでも、ヤバイ。この人ヤバイわ! 人を脅かしまくってきたわたしが言うんだから間違いない。この人、よれよれの白衣を着てるけれど、なんか色々やばいことやってる人だ! 逃げ
「させませんよ。何のためにドアをぶつけたと思ってるんです?『メリーさんの電話のメリーさん』?」
……え? こいつ、まさか……。わたしがメリーさんだと分かっていてあの対応をしていた? マズい。逃げなきゃ。
「逃がすかぁ!」
「きゃっ!」
くっ。怪異の元ネタが人形……それも可愛らしい系のやつだから、大人に勝てない! 脇をがって掴まれてる! かくなる上は。
「助けてー!この人、変態ですー!」
「はっ!怪異の君が何を言ってるんだい!それにここは僕しかいない場所だし、変な人だと思われてるから、人なんてめったに来ないよ!」
「自分でそれ言う!?」
変な人って…。間違いなく変な人だけどさ! わたしがメリーだってわかってて捕まえてきてる時点でさ!
「変な人の誹りが怖くて、科学者が出来るかぁ!」
「変な人って言われないようにやりなさいよ!?」
「正論など聞きとうない!」
「科学者ァ!理論をこねくり回して新しい式とか材料作り出すのが仕事でしょぅ!?」
あっ、ちょっ。やめろ。無理やり部屋に連れ込もうとするなー!
「うるさい!」
返答に一片の曇りもないわね、この変態! だー! こいつ、どこにこんな力があるのよ!? なんで怪異たるわたしが抱っこされたごときで抜け出せないのよー!
「はっ、そうだ。実体化やめればいいじゃん」
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!霊感ありすぎて友達だと思ってた子が幽霊で、この手で殴って成仏させなきゃならなかった僕にその程度、通用すると思うなよぉ!」
「何なのあんた!?」
「常温超電導物質作成を目指す科学者だよ!」
んなこと聞いてないのよー! ほんとに透明化してるはずなのに触られまくってるしー! 透明化してたらわたしの姿が見えない分、誰か通りかかってくれた時の分が悪い!
「みんな!手伝って!」
!? こんなキ……変態に仲間がいるっての!?
えっ、えっ。待って。わたしの手が強引にドアと壁から外されてる!?
「待って待って!感覚が気持ち悪い!なんで壁とかドアの中から力がかかってくるわけ!?あっ、あっー!」
無情にもわたしの手は外されて、悠々とわたしを抱えたまま部屋の中に入りやがる。さよならこの世。せめて楽に消えたい……。