【八十五話】私たちだけの秘密は古来から公言して良いとされている
「空さんヘイトキープ!」
「了解!」
何処かの遺跡のような薄暗い通路で津奈ちゃんの指示が飛んで、俺がその指示通りに動くと津奈ちゃんが俺とは比べ物にならないほど華麗な太刀筋で筋骨隆々の津奈ちゃんが見上げるほどの背丈の鬼にとどめを刺した。
今は時計塔の12階層まで俺たちは潜っていた。保谷さんが前回作っていたという地図のおかげで10階層までは津奈ちゃんの立てた予定よりも早く潜れており、今は俺が新しく入ることによって変わる連携の確認も兼ねて丁寧に探索を続けていた。
保谷さんは勿論、時計塔の序盤であれば海山さんのバフも必要がないとのことで保谷さんと海山さんの二人は俺たちの後方で軽く周囲を警戒しながらついてきている。
「空君意外とやるねえ、これで迷宮潜り始めたの最近なんでしょ?」
「らしいぞ」
迷宮ではゲームのように倒した敵は消えてなくなるので動いていた俺と津奈ちゃんが軽く水分を補給していると後ろからそんな話声が聞こえてきた。
「まあ、先生が良いので」
「そんなことないですよ、空さんは普通に一人でもこのぐらいはできるようになっていたはずです」
「はあ~熱いねお二人さん」
実際神様からもらったスペックがあるとはいえこの世界には神様謹製の体に迫るどころか凌駕してくる人が居ることをセツナや津奈ちゃんという前例があるせいで知っている俺はそこまで慢心することも出来ない。
「この感じだと、15以降も平気そうですね」
「……だと良いですけど」
津奈ちゃんはそう言うが、10層まで進んでいる間もわざわざ戦闘はしなかったが道中に戦闘しているダイバーがいたので横目に見る限り5階層ごとにレベルが跳ね上がるのは本当のようで、5層までは初心者用レベルで10層までは東京で言う所の中級者用レベル。
今現在滞在している12階層は上級者用の迷宮の低層と言った様子で、このままだと20層を超えた時にはどうなってしまうのかと今から既に少し怖い。
ここで問題なのは、バッファーの海山さんがいたとはいえ戦闘自体は一人でしていた津奈ちゃんが前回26層まで到達しているということだ。
時計塔の階層ごとの性質を加味すると今居る階層から三段階レベルが上がった難易度を一人で踏破したと思うと津奈ちゃんの異次元さが際立つ。
隣で水をくぴくぴと飲んでいる少女が本当に世界でもトップレベルのダイバーだということに少し脳が混乱する。
とにかく時計塔まで来てしまった以上、日和っても居られないし死ぬ気で着いて行くしかない。
「少し早いですが空さんとの連携も大丈夫そうですし、このまま15階層を抜けて早めに野営の準備を済ませて明日に備えましょう」
水分補給をおわらせた津奈ちゃんがそう言った。
「了解」
「あいよ」
「りょうかーい」
仕事が無くて暇そうにしている海山さんの気の抜けた返事を聞きながら、再度俺たちは足を進めた。
――――――――
「今日はここで野営しましょうか。保谷さんお願いします」
「はいよ、任せてくれ」
あの後何回か戦闘を済ませ、俺たちは3時前には当初の予定のキャンプ地に着いていた。
キャンプ地に着いて保谷さんが手際よくかなり大きいテントを立てていくのを眺めていると、保谷さんの荷物を勝手に漁って椅子を人数分広げて一足先に座っている海山さんにこちらに来いと手招きをされた。
「……勝手に椅子広げて良いんですか?」
「大丈夫大丈夫、それよりお姉さんと話そうぜ」
「良いですけど……津奈ちゃんも呼びますか?」
「いやいや、秘密の話だよ」
海山さんに話そうと言われ、少し離れたところで装備の点検をしている津奈ちゃんも呼ぼうかと思ったが、海山さんに止められる。
秘密の話と聞くと少し嫌な予感がするが海山さんの顔を見る限りそう言うたぐいの物ではないだろう。
「恋バナしよう」
まあ何となく分かってはいた。
「そんな大した話しできませんよ」
「いい、いい。とにかくお姉さんに酒の肴になるような話をしてほしいだけなんだって」
海山さんはきっと津奈ちゃんと俺がどんな関係でダイバー界の中では全くの無名の俺を津奈ちゃんにとっても大事なはずの時計塔攻略に呼んだのか気になるのだろう。
海山さんはいつの間に取り出したのか缶ビールを片手に俺を急かすように見てくる。
「正直空君は津奈ちゃんの事どう思ってるのさ?お嫁さんも居るんでしょ?」
「まあ、いますけど」
「追加のお嫁さんとして津奈ちゃん狙ってたりする?」
「……」
聞き方はかなり雑だが、実際昨日津奈ちゃんに言われたこともあっていまいち答えずらい話題だった。
「津奈ちゃん可愛いじゃん?健全な男子高校生としてはどう?」
「……酔ってます?」
「酔ってない、酔ってない」
急に質問が下品になってきたので、答えるのがめんどうになってきた。
「因みにねーつなちゃは寝るとき何か抱きかかえてないと寝れないんだよ、これ私たちだけの秘密ね」
私たちの秘密ねってこうやって広まるんだよな。
「海山さん?何を話してるんですか?」
そんなことを話していると整備を終えた津奈ちゃんがいつの間にか海山さんの後ろに無表情で立っていた。
そのまま、ゆっくりと海山さんの体に腕を回していく。
「分かりますよね?海山さん」
「ハイ、ゴメンナサイ」
怖いので俺は素知らぬ顔をしてみるものの、直ぐそこで少し力を入れたらバックチョークが完成する人が居ると否応にも視線がそちらに向いてしまう。
「空さんもお酒を飲んでいる時のこの人のいう事を真に受けないように」
「……わかりました」
さて、津奈ちゃんに生殺与奪を握られている酔っ払いは無視して、保谷さんの手伝いに行こうか。




